第9話 資材から作るDIY

 第二層は、アイアンワームの巣窟だった。


 地面に耳を澄ませ、微かな振動を探るコウジ。その合図とともに地中から飛び出してくるアイアンワームを、俺が短槍の突きで仕留めていく。その連携は、まるで長年連れ添ったコンビだ。


「来るっす! オヤジさん、右斜め前!」


「おう!」


 コウジの的確な指示と、俺の「魚突き」は、アイアンワームにとっては天敵だった。


 地面から飛び出してきたワームは、俺の足に巻きつく間もなく、その心臓を貫かれる。倒したワームは、運搬しやすいように、ピンと真っ直ぐな状態を保つように注意しながら、台車に積んでいく。


(いい素材だ。これで、俺のダンジョン生活は豊かになるぞ)


 その硬さ、軽さ、そして曲げやすさ。鍛冶場で鉄を加工する手間がないのだから、これ以上の素材はない。


 作業は順調に進み、一時間を経過した頃、コウジが台車を指差した。


「オヤジさん、これで二十体っすね。今日の目標は達成っす」


 台車には、二メートル級のアイアンワームの死骸が、きっちり真っ直ぐに並べられていた。まるで、ホームセンターの鉄筋売り場みたいだ。


 コウジは一息つくと、周囲を見回し、少しだけ表情を引き締めた。


「悪食オヤジさんのその突き、レベルでいうと中級ハンター並ですよ」


「俺が? ただの魚突きだぞ」


「魚突きでもなんでも、結果が全てっす。――ねぇ、悪食オヤジさん」


 コウジは、暗闇に続く傾斜の奥を指差した。


「この先を少し降りると、第三層の境界です。行ってみます?」


 その言葉は、冒険への誘いだったが、俺の答えは冷静だった。


「いや、断る」


「え?」


 コウジは意外そうな顔をした。普通の探索者なら、すぐにでも深い階層を目指すのが定石だ。


「俺の目的は、工作だ。第三層に行く時間があったら、戻って加工に回す方が、俺の生活レベル向上にとっては遥かに効率がいい」


 俺の脳内は、「DIY」と「食料調達」のことでいっぱいだ。冒険なんて、優先順位の圏外だ。


「そうっすか……。まぁ、悪食オヤジさんらしいっすね」


 コウジは第三層に行きたそうだったが、すぐに納得してくれた。俺たちは台車を引っ張り、第一層の住処へと引き返した。


 大量のアイアンワームの死骸が積み上がった。


「コウジ君、ちょっと手伝ってくれないか?」


「今度はなんすか? ベッドの増設ですか?」


「いや、そのアイアンワーム、面白い特性があるっぽいんだ。ちょっと試したい」


 俺は、一番太いアイアンワームを選び出した。そして、その両端にガイロープをきつく巻きつけた。


「これを、綱引きするぞ」


「はぁ? 綱引き? なんでですか」


 コウジは完全に意図が掴めない様子だったが、俺のクリエイター魂が燃えているのを見て、とりあえず言われるがままに綱の片側を握った。


「いくぞ! せーのっ!」


 俺とコウジは、アイアンワームを間に挟み、力いっぱい引っ張り合った。


「ぐぎぎぎぎぎぎっ!」


 コウジは探索者としての筋力があるため、俺の三倍ほどの力で綱を引いている。アイアンワームは、ミィィーンと奇妙な音を立てて伸び始めた。


「おお! やっぱり伸びるぞ、コウジ君! 力入れるのをやめないで!」


「ええ、なんだ! めちゃくちゃ気持ち悪っ」


 アイアンワームの直径は、もともと五センチほどあったが、次第に一センチメートルほどに細くなり、長さはあっという間に十メートルを超えた。


 ある程度伸びたところで、俺はコウジに合図して引っ張るのをやめた。アイアンワームは、伸ばされた状態で硬直した。


「おおお! うまくいったぞ! 鉄筋の完成だ!」


 俺はすぐに工具で、一メートルずつ切断していく。直径一センチの、軽量で硬い「特製鉄筋パイプ」が、あっという間に三十本も手に入った。


「コウジ君、見てみろ。これ大量生産するぞ!」


 俺は、大量にできた鉄筋をティピーテント横の資材置き場にきっちり重ねていく。

 だが、俺の工作に対する好奇心は留まるところを知らない。


「コウジ君、これ、どこまで伸びるかな」


「ええ……さっきので限界じゃないですか? もう、これ以上引っ張ったらちぎれますよ」


「いや、いける! 俺の勘がそう言っている! せーのっ!」


 俺たちは再び綱引きを始めた。


 今回は、お互いに汗だくになりながら、全力で引っ張る。ギチギチという嫌な音とともに、ワームはさらに伸びていく。直径は鉛筆の芯のように細くなり、長さはもはやメジャーでは測れない。


 「くっそ、まだまだ引っ張るぞ!」


 俺たちが雄叫びを上げながら引っ張り続けた結果、アイアンワームは五十メートルほどまで伸び、直径は一ミリメートル程度になった。


 俺は「針金」をゲットした。


 その時、甲高い声がダンジョンに響いた。


「見て下さい、悪食オヤジさんとコウジが面白いことをやっています!」


 声の主は、ユウタだった。彼はいつの間にか、ティピーテントの入り口に三脚を立て、スマホを構えている。


「え? 配信されてるの? いつからだ?」

 俺は息を切らしながら尋ねた。


「綱引きを始めたところからっす! 視聴者爆上がりっすよ!」

 ユウタは興奮を隠せない様子で、配信画面を俺に見せてきた。



 画面には、上半身裸になって汗だくでミミズを引っ張る中年のおっさんと、プロの探索者という、シュール極まりない二人の姿が映し出されている。


 コメント欄は、俺たちのコミカルな動きに大盛り上がりだった。


 『www コウジ相手に命がけの綱引き』

 『おっさん、筋力意外とあるなw』

 『ミミズが鉄筋になるのやばい』

 『もはやDIYじゃなくて錬金術やん』

 『コウジの顔が真顔なのがウケるw』

 『針金が欲しいなら買えよwww』


 投げ銭のアイコンが、画面に滝のように流れ続けている。


(そうか。これがコンテンツというやつか)


 俺は、疲労感よりも、クリエイターとしての達成感に満たされていた。


 こうして、アイアンワーム二十体を全て加工し終える頃には、ティピーテントの横には、鉄筋パイプと針金の山ができていた。


「よし、大方の資材が揃ったぞ」


 俺は、山積みにされた素材を見上げ、ニヤリと笑った。


 「コウジ君、ユウタ君。次は居住空間の拡張だ。このアイアンワームを使って、二階建ての家を建てるぞ!」


 俺の言葉に、二人の若者は絶叫した。


「二階建てぇ!? ダンジョンにっすか!」



 俺の悪食DIY生活は、いよいよ本格的な建築時代へと突入するのだった。



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