第十話:決戦はプレゼンテーション

「首領は、自ら魔導兵器の起動に向かうはずだ。決戦の場所は、再びあの神殿になる」


ガルムの情報に、健司は頷いた。エリアーナも体力を回復し、その瞳には迷いのない光が宿っていた。


「今度の戦いは、ただの斬り合いじゃない。組織対組織の総力戦だ」


健司は、一枚の大きな葉の上に、木の枝で図を描き始めた。それは、反乱軍の組織図と、神殿の地図を組み合わせたものだった。


「敵の強みは、首領である魔術師の圧倒的な魔力。弱点は、それ以外全部だ。ワンマン経営で、部下は恐怖で支配されているだけ。連携もなければ、忠誠心もない」


健司は、まるで競合他社の分析をするように、敵の弱点をリストアップしていく。


「対する我々のチームは、たった三人。だが、それぞれに強みがある。エリアーナは王家の人間として、敵の兵士たちに揺さぶりをかけられる。ガルムはゲリラ戦のプロだ。そして俺は……まあ、雑用係だ」


健司の作戦はこうだ。まず、ガルムが神殿周辺に罠を張り、敵の兵力を分断・消耗させる。次に、エリアーナが兵士たちの前に姿を現し、「お前たちの本当の主は誰か」と問いかけ、彼らの忠誠心を揺さぶる。王家の血を引く者の言葉は、ただの兵士たちにとって重い意味を持つはずだ。


そして、敵の組織が混乱し、首領が孤立したところを、健司が直接対峙する。


「正気か、ケンジ! お前が魔術師と一対一で戦うなど、自殺行為だ!」


エリアーナが反対するが、健司は首を横に振った。


「戦うんじゃない。交渉するんだ。俺の得意な、プレゼンテーションでな」


作戦は実行された。ガルムの罠とエリアーナの演説は、予想以上の効果を上げた。兵士たちは次々と武器を捨て、反乱軍は瓦解寸前となる。


神殿の最奥、魔導兵器の祭壇の前で、健司はついに首領の魔術師と対峙した。


「小賢しい真似を……! だが、この私一人いれば、貴様らなど!」


魔術師が強大な魔力を放とうとした瞬間、健司は叫んだ。


「待て! あんたに、一つだけ教えてやる! その魔導兵器、起動しても動かないぞ!」


「何を馬鹿なことを!」


「あんた、この神殿の古代文字を全て解読したわけじゃないだろ? 俺が神殿で見つけた石板には、こう書かれていた。『兵器の起動には、王家の血に加え、もう一つ、”民の承認”が必要である』と」


もちろん、そんな石板は存在しない。健司の完全なデタラメだ。だが、その言葉は、魔術師の心の最も脆い部分を突いた。彼は民衆から支持されず、恐怖で支配してきた。その負い目が、健司の嘘に真実味を与えてしまった。


「嘘だ! そんなはずは……!」


魔術師の動揺。その一瞬の隙を、エリアーナとガルムは見逃さなかった。背後から回り込んでいた二人の攻撃が、魔術師の魔力を封じる。勝負は、決した。


それは、剣でも魔法でもない、「情報」と「心理」がもたらした勝利だった。

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