追放された社畜(42)、エルフの国で年上姫騎士と第二の人生を始める

@kenji06

第一話:午前零時の心停止

モニターの青白い光が、田中健司の疲れた顔を照らし出していた。時刻は午後11時をとうに過ぎている。フロアにはもう誰もいない。ただ、無機質なサーバーの駆動音だけが、静寂を埋めていた。


健司、42歳。中堅IT企業の中間管理職。かつてはプログラマーとして最前線でコードを書いていたが、今では部下の進捗管理と、上層部からの理不尽な要求を捌くだけの日々だ。胃には常に鈍い痛みがあり、白髪も増えた。妻との会話はとうになく、大学生の娘からは「お父さん、加齢臭する」と避けられている。家に帰っても、そこに健司の居場所はなかった。


「……何やってんだろ、俺」


自嘲気味に呟き、コンビニで買った冷たいコーヒーを呷る。唯一の楽しみは、この誰もいないオフィスで、スマホの小さな画面で異世界小説を読むことだった。若者がチート能力で無双する物語。馬鹿馬鹿しいと思いながらも、現実から逃避できるそのひと時が、彼にとって唯一の救いだった。


今日もまた、お気に入りの作品の更新を確認しようとスマホに手を伸ばした、その時。ぐらり、と視界が揺れた。心臓が鷲掴みにされたような激しい痛みが胸を貫く。キーボードの上に突っ伏した健司の意識は、急速に闇へと沈んでいった。


(あぁ、俺、ここで死ぬのか……。もっと、何か……違う生き方が、あったはずなのに……)


それが、田中健司の最後の記憶だった。

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