第3話婚約破棄の余波

 その日の夕方、ラヴェンナが書斎で読書をしていると、控えめなノックが響いた。


「お嬢様、失礼いたします。」


執事の落ち着いた声が扉の向こうから聞こえた。ラヴェンナは本から顔を上げ、椅子に座ったまま返事をする。

「どうぞお入りなさい。」


執事がドアを開けて一歩中に入ると、少し困惑した表情で報告を始めた。

「カリオス様が門の外にいらっしゃいます。お嬢様に直接お会いしたいとのことです。」


ラヴェンナは微かに眉をひそめたが、すぐに平然とした表情を取り戻した。

「カリオス様? 婚約破棄を告げたそのお方が、何のご用でしょうね。」


執事は申し訳なさそうに答えた。

「詳細は伺っておりませんが、強く面会を希望されております。」


ラヴェンナは一瞬考え込んだが、すぐに微笑みを浮かべて答えた。

「わかりました。応接室に案内してください。私もすぐに参ります。」


執事が退出すると、ラヴェンナは本を閉じ、静かに立ち上がった。



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カリオスとの再会


応接室に入ると、カリオスが居心地悪そうに立っていた。彼は以前と変わらぬ華やかな衣装を身にまとっていたが、どこか疲れたようにも見えた。ラヴェンナは優雅な足取りで彼の正面に座り、落ち着いた声で切り出した。


「カリオス様、本日はどのようなご用件でしょうか?」


カリオスは視線を彷徨わせながら答えた。

「その……最近の噂を聞いて、君が心配になったんだ。無理やり婚約破棄させられたんじゃないかと思ってな。」


その言葉を聞いても、ラヴェンナの表情には一切の動揺が見られなかった。しかし、内心では呆れ返っていた。


(無理やり? 誰が? 私がそんなことをされるとでも思っているの? まったく、この男はどこまで自意識過剰なのかしら。)


ラヴェンナは冷静な微笑みを浮かべながら答えた。

「無理やり? そんな噂が立ったところで、あなたには関係のない話ではないですか?」


その一言に、カリオスは一瞬固まったが、すぐに言葉を続けた。

「いや、僕はただ君が本当は傷ついているんじゃないかと思って……強がっているだけなら、助けになりたいと思ったんだ。」


その言葉に、ラヴェンナは内心で嘲笑を抑えるのに苦労したが、あくまで冷静に言葉を紡いだ。


「そのような用件で訪問されるのは、むしろ迷惑ですわ。あなたと私の関係は、もはや何もございません。」


カリオスの表情が強張るのを見て、ラヴェンナはさらに冷然とした微笑を深めた。

「ぜひ、私のことなどお忘れください。そして、二度と来訪なさることのないようお願いします。」


彼女の言葉は完全に彼との関係を断ち切るものだった。カリオスはそれを理解したのか、しばらく何かを言おうとしたが、結局何も言えずに頭を下げた。


「……わかった。」


そう呟くと、カリオスは無言で部屋を後にした。



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内心の叫び


扉が閉まる音が響き、応接室に再び静寂が戻った。ラヴェンナは椅子に深く座り直し、ふぅと息をついた。そして、心の中で叫ぶ。


(二度と来るな、この馬鹿!)


彼女は苛立ちを感じながらも、どこかスッキリした気分でもあった。カリオスとの関係が完全に断たれたことは、彼女にとって自由を象徴する出来事でもあったからだ。


「やれやれ……本当に最後の最後まで迷惑な男ですわ。」


ラヴェンナは静かに呟くと、紅茶を一口飲み、冷静さを取り戻した。



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次の計画


その夜、自室に戻ったラヴェンナは、鏡の前に立ち、自分の姿をじっと見つめていた。婚約破棄という出来事を経験し、カリオスとの再会を乗り越えた今、彼女の心には新たな決意が芽生えていた。


(これから先、私は私の道を歩むだけ。そして、この自由を最大限に活かしてやりますわ。)


彼女は静かに微笑みながら、明日の予定を思い浮かべた。次は茶会への参加。婚約破棄の噂が広がる中で、毅然と振る舞うことが、彼女にとって新たな挑戦となるだろう。


「どれだけの噂が立とうと、私はそれに振り回されませんわ。」


ラヴェンナの瞳は力強く輝き、その姿は未来への希望に満ちていた。彼女にとって、婚約破棄は終わりではなく、新しい人生の始まりでしかなかったのだ。




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