第2話 自室での解放

 大広間でのやり取りを終えたラヴェンナは、廊下をしずしずと歩きながら、心の中で抑えきれない喜びを抱えていた。彼女の足音は静かで、どこから見ても完璧な貴族令嬢そのもの。しかし、その胸の内では歓喜の声が沸き上がっていた。


(やっと解放されましたわ! あのカリオスのキモい顔をもう見なくて済むなんて……!)


彼女は急ぎすぎないよう気をつけながら、自室の扉に手をかける。扉を開けて中に入り、静かに鍵をかけた。そして、誰もいないことを確認した瞬間――。


「ヤッターーー!」


ラヴェンナは喜びを爆発させた。まるで長年の重荷から解放されたかのように、ベッドに向かってダイブする。そのまま枕に顔を埋め、声を殺しながらも手足をバタバタと動かした。


「婚約破棄バンザイ! もうあのキモい顔を見なくて済むなんて最高ですわ!」


彼女は思う存分喜びを表現しながら、ふと枕から顔を上げた。そして、天井を見つめながら深いため息をつく。


「でも、本当にここまでスムーズに行くなんて思いませんでしたわね……。」


彼女にとって、カリオスとの婚約は家同士の政略結婚であり、望まないものだった。それでも貴族としての義務感から受け入れてきたが、彼の横柄な態度や自己中心的な性格にずっと不満を抱えていた。むしろ、彼から婚約破棄を切り出されたことは幸運以外の何物でもない。


「まさか、こんな形で自由を手に入れるなんて……神様に感謝しなければいけませんわね。」


そう言いながらも、心の中では神様への感謝よりも、今後の自由な日々への期待感で満たされていた。



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次の計画


喜びをひとしきり爆発させた後、ラヴェンナはベッドに座り直し、これからのことを考え始めた。


(さて、これからどうしましょうか。婚約破棄の事実が広まれば、少し面倒なことになるかもしれませんわね……。)


彼女は窓の外を見つめながら、これから訪れるだろう噂話や社交界での反応を想像した。しかし、それらが気になるほど重大な問題ではないことも理解していた。


「まぁ、婚約破棄が大きな話題になるのは避けられませんわね。でも、それはそれで仕方ありません。私はただ、次に進むだけですわ。」


ラヴェンナは微笑みながら、自分自身にそう言い聞かせた。



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家族の反応


そこに、ノックの音が響いた。

「ラヴェンナ、お話があるの。」


母親の声が聞こえ、彼女は一瞬だけため息をついた。

「はい、どうぞお入りください。」


ドアが開き、母親が厳しい表情で入ってくる。手には刺繍の施されたハンカチを握りしめており、その様子から母親がいかに動揺しているかが伝わってきた。


「婚約破棄の話を聞きましたわ。なんてことなの!」


母親は声を荒げることはなかったが、その語調には怒りと失望が滲んでいた。


「ラヴェンナ、どうしてもっと引き止めなかったの?」


ラヴェンナは冷静な表情を崩さずに答えた。

「お母様、私はただ、彼の決断を尊重したまでです。無理に引き止めることが、私たちの名誉になるとは思いませんわ。」


その毅然とした返答に、母親は言葉を失ったようだった。しかし、その後すぐに険しい表情に戻る。

「でも、あなたが婚約破棄されたと知れば、社交界では何を言われるかわかりませんよ。」


「それもまた、一つの試練ですわ。私はどのような状況であれ、毅然としていれば問題ありません。」


ラヴェンナの揺るぎない態度に、母親は一瞬だけため息をついたが、彼女の強さを認めるように静かに頷いた。


「まぁ、あなたがそう言うなら、仕方ありませんわね。ただ、これ以上問題を起こさないよう気をつけなさい。」


「もちろんですわ。」


母親が部屋を出て行った後、ラヴェンナは再びベッドに腰を下ろし、窓の外を見つめた。



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未来への期待


ラヴェンナは、これから訪れる新しい未来に胸を膨らませていた。婚約破棄によって得た自由は、彼女にとって人生をやり直す絶好の機会だった。そして、その自由の中で、自分の意志で歩む人生を見つけることを決意する。


「これからは、誰にも縛られない生き方をしますわ。」


彼女の言葉には力強い決意が込められていた。ラヴェンナは笑みを浮かべながら、次の一歩を考え始めた。





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