第21話 また一日が過ぎ去っていく22時
ココアを飲みながら作業を進める宮瀬さんを、時折ちらりと確認しながら、俺も自分の仕事を片づけていった。
気づけば時計の針は22時を過ぎていて、ようやく今日中に終わらせなきゃいけない分が終わった。
けれど、どう考えてもひとりで処理できる量じゃなかった。
不思議に思って聞いてみると、
「子どもがいる社員さんの分なの。急に体調を崩したみたいでお迎えに行くことになって」
と、少し申し訳なさそうに笑った。
――やっぱり。
そういうところが、宮瀬さんらしい。
自分の仕事でさえ忙しいのに、誰かのために手を貸す。
頼まれたからじゃなくて、「困ってる人を放っておけなかった」から。
どこまでもお人好しで、強がりで、優しい人だ。
そんな彼女を見ていたら、胸の奥が締めつけられた。
どうしていつも、ひとりで抱え込むんだろう。
どうして誰かに「助けて」って言わないんだろう。
気がついたら、言葉がこぼれていた。
「……もっと、頼ってください」
宮瀬さんの手が止まる。
驚いたようにこちらを見つめる瞳が、蛍光灯の光を反射して、少し揺れていた。
その表情が、どこか儚く見えて――抱きしめたい、と思った。
けれど、できない。
彼女は上司で、そして……アイドルだ。
その境界線を越えたら、もう戻れなくなる気がした。
だから俺は、喉まで出かかった想いを飲み込んで、
無難すぎる言葉を選ぶ。
「……帰りましょうか」
それが今の俺にできる、精一杯の勇気だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます