41 皇都ハビール潜入②
――アリアとレリフが王都レイルを出発してから、1週間が経過した。その間、アルテリオ帝国軍の攻撃を、アスール王国軍とレファリア帝国軍の連合軍は、王都レイルの周辺で防いでいた。だが、昼夜を問わず、大軍で攻撃をしてくるアルテリオ帝国軍の攻撃の前に、とうとう、王都レイルの周辺の防御陣地は破壊されてしまった。
そのため、アスール王国軍とレファリア帝国軍の連合軍は、王都レイルで籠城戦を始めていた。アルテリオ帝国軍は、王都レイルの城壁を登り、侵入しようとするが、それを何とか防いでいる状態であった。
「次々、登って来るぞ! 槍で突き落とせ!」
ルビエは城壁の上で、近衛騎士団にそう言いながら、自分も槍を持って、城壁を登って来るアルテリオ帝国軍の兵士を突き落としていた。突き落とされた兵士は、そのまま、地面に落下していった。ルビエの周囲では、連合軍の兵士が必死になって、矢を射ることによって、城壁に近づけないようにしていた。
だが、あまりにも、アルテリオ帝国軍の兵士の数が多く、焼け石に水の状態であった。この1週間、連合軍の兵士は、ほとんど、休みなく戦い続けているため、目に見えて動きが悪くなっていた。だが、王都レイルを守る意思は固く、士気は高かった。
(……兵士の士気は高いが、このままではジリ貧だな)
ルビエは戦いながら、そんなことを思っていた。実際、負傷兵と死傷した兵を合わせると、連合軍の4割となり、連合軍は甚大な被害を被っていた。そんな近衛騎士団の近くには、アリア隊もいた。
「アリアのために、王都レイルを守りきるんだ!」
ブルーノがそんなことを言いながら、アリア隊を指揮していた。ブルーノ自身も、城壁を登って来るアルテリオ帝国軍の兵士を、槍で突き落としていた。
「俺らは、百戦錬磨のアリア隊だ! こんなことでくじけるかよ!」
マグヌスもそう言いながら、ブルーノとともに、剣で城壁を登って来る兵士を突き落としていた。他のアリア隊の面々も、必死になって、城壁を登って来る兵士を突き落としていた。
(アリアがいなくても、アリア隊は大丈夫そうだな)
ルビエは、自分も戦闘をしながら、そんなことを思っていた。アリア隊の強さは、アリアの指揮能力に依存している訳ではなさそうであった。
――アスール王国軍とレファリア帝国軍の連合軍が、アルテリオ帝国軍を激戦を繰り広げている頃。アリアとレリフは、アルテリオ帝国の皇都ハビールに到着していた。
「それにしても、道中、誰とも会わなかったけど、アリアちゃん、いつの間に、潜入術を身につけたの?」
「いつの間にか、身についてました」
「……まぁ、いいや。結果的に皇都につけたし、それで良しとしよう!」
アリアの雑な言い訳に対して、レリフはこれ以上、追及するのをやめた。本当は、エリゴルの後ろを全力でついていっただけである。現に、アリアとレリフは、皇都ハビールの建物の上から、皇帝ルナール・アルテリオがいるであろうハビール城を観察しているが、その近くにはフルーレとエリゴルとエイルがいた。
フルーレ達の姿は、アリアには見えているが、レリフには見えていないようであった。だが、移動中に、『なんか、さっきから変な気配を近くで感じるんだけど、気のせいかな?』と、レリフが言っていたため、気配自体は感じているようであった。
「それにしても、アルテリオ帝国の皇都だっていうのに、静かだね」
レリフが皇都の様子を確認して、そう言った。皇都の大通りには、人が歩いているが、会話の声などが一切、聞こえない状態であった。ただ、人が歩いているだけであり、不気味だなとアリアは思った。
「それで、アリアちゃん。どうやって、ハビール城に潜入するつもりなの? なんか、ここから見える感じでも、ネズミが忍び込める隙もなさそうなんだけど?」
レリフの言葉を聞きながら、アリアもハビール城の様子を観察した。確かに、ハビール城の外に多くの兵士がいるため、隠れて、侵入するのは難しそうであった。
(……これって、カレンさんでも潜入するのは無理なんじゃないかな?)
アリアはそう思いながら、エリゴルの方を向いた。レリフからは何もない空間に、アリアが顔を向けているように見えていた。エリゴルは、アリアが顔を向けると同時に、ハビール城のある場所を指差した。
エリゴルが指差した場所を、アリアが確認すると、巡回の兵士がいないため、そこから侵入出来そうであった。
「師匠! 行きます!」
アリアは小声でそう言うと、建物の上から飛び降り、エリゴルが指差して教えてくれた場所に向かって、巡回の兵士にバレないように、走り出した。
「ちょ、アリアちゃん! 待って!」
レリフはそう小声で言うと、急いで、アリアのことを追いかけた。そうして、何とか、ハビール城の中に潜入することが出来た。
「一応、潜入することが出来たけど、これからどうする?」
「とりあえず、進みますか」
アリアはそう言うと、慎重に歩き出した。その後ろを、レリフがついていっていた。もちろん、アリアはエリゴルの後ろをついていっているだけである。『なんか、面白い光景だわ。そう思わない、エイル?』、『私もそう思います、お嬢様』という声が聞こえた気がしたが、アリアは無視することにした。
「今、何か、聞こえなかった!?」
「いえ、何も聞こえませんでした」
「……確かに、聞こえたんだけどな。気のせいか」
レリフにも聞こえていたらしく、アリアにそう言った。だが、アリアは聞こえていないフリをした。
そして、アリア達がハビール城の中を進むこと、1時間。皇帝ルナール・アルテリオがいるであろう部屋の近くまで到着した。そして、通路の角から、皇帝のいるであろう部屋の前を、レリフがそっとのぞきこむと、そこには、剣を背負った、明らかに強そうな人が立っていた。
「うわ! 扉の前に、凄く強そうな人がいるよ! アリアちゃん、どうする?」
アリアはレリフの言葉を聞くと、後ろに立っているエリゴルの方に顔を向けた。エリゴルは、体の目の前に、腕を組んで、バツの形を作っていた。どうやら、自分達で何とかしなければいけないようだ。
「師匠、私が皇帝ルナール・アルテリオを倒しますので、あの強そうな人をお願いします」
「え! 嫌だよ! 絶対、あの扉の前にいる人、強いよ! 戦いたくないよ!」
「そこを、何とか、お願いします!」
「……分かったよ。じゃあ、行ってくるよ!」
レリフはそう言うと、通路の角から飛び出し、走り出した。
「先手必勝!」
レリフはそう言うと、扉を守っている男に斬りかかった。だが、それを防がれ、
レリフが下に落ちたのを確認した男は、通路に空いた穴から、下に飛び降りていった。
(師匠、頑張って下さい!)
アリアは心の中で、レリフの健闘を祈ると、急いで、走り出した。そして、部屋の扉を蹴り破り、中に入ると、そこは大きな広間になっていた。その奥に、ルナールが豪華な椅子に座っているのが確認出来た。
「こんなところまで来る人間がいるとは、驚きだ!」
ルナールはそう言うと、椅子から立ち上がり、腰につけた剣を抜いた。
(これは、強そうだ!)
アリアはそう思いながら、剣を構えた。
「ふぅ。死ぬかと思った!」
通路から落ちたレリフは、受け身をとると、そう言って、立ち上がった。その目の前には、先ほどの男が通路から飛び降りて、ドンという音とともに、着地した。
「お前は人間にしては、良くやるようだな」
男が、剣を構えながら、レリフにそう言った。
「まるで、自分は人間ではないみたいな言い方だけど、君は人間だよね?」
「確かに、体は人間だが、中身は違うな」
「……? どういうこと?」
「それを、お前が知る必要はない」
男はそう言うと、レリフに斬りかかった。ブンという風切り音とともに、上段からの剣の振りを、防ごうとしたが、とっさに避けることを選択した。どうやら、その選択は正解のようであった。男の剣が地面に当たると、ドパァァンという音がした。
そして、男の剣が当たった場所を中心に、半径3mほどの穴が出来ていた。
「……避けて、良かったよ。あんなのを受けてたら、剣は大丈夫でも、腕が使えなくなっていたよ!」
「良い勘をしている。だが、いつまで避けれるかな?」
男は、地面を踏みこむと、レリフに斬りかかった。
「ッ!!」
あまりの速さにレリフの反応が遅れ、剣でとっさに受けたが、そのまま弾き飛ばされた。ドゴンという音が連続で聞こえ、部屋の壁を、数部屋分、突き破って、やっとレリフの動きが止まった。そして、辺りは静かになっていた。
「死んだか」
男はそう言うと、
「何!?」
男は、迫って来た剣をギリギリで防いだ。男の表情に、余裕はなかった。
「いや、死んだと思ったよ! 君、強過ぎるね! ただ……」
血塗れのレリフがそこで言葉を区切った。そして、男から少し距離をとった。
「ただ、君は剣を振るうのが速くて、力があるだけだよね。そこに、技がない」
レリフはそう言うと、男に再び斬りかかった。男は、それを防御しようとするが、レリフはそれをすり抜け、ズパンという音とともに、男の体を斬り裂いた。そして、そのまま、男は倒れた。すると、青い人型の何かが、男の体から出てくると、逃げ出した。
「うわ! 何!?」
レリフが理解の出来ない現象に驚いていると、突如、箒を持ったメイドが現れ、その青い人型の何かを箒で滅多打ちにしていた。すると、青い人型の何かが消えていった。
「ありがとうございました」
箒を持ったメイドがそう言って、お辞儀をすると、次の瞬間には消えていた。
「もう、何が何だか分からないよ……」
レリフはそう言って、そのまま地面に倒れた。今まで、動いているのが不思議なくらい、レリフの体は損傷していた。
――レリフが戦闘を始めている頃。アリアは、ルナールと対峙していた。
「先手必勝!」
アリアはそう言うと、地面を踏みこみ一気にルナールに斬りかかった。そして、アリアの剣を防ごうと、ルナールが剣を構えた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
アリアの攻撃がルナールの剣に当たると、情けない声を上げながら、皇帝の座する部屋の壁にルナールが激突した。どうやら、アリアの攻撃を受け流しきれなかったようだ。そして、壁が崩れると、そのまま下に落ちていった。
「……あれ?」
ルナールが思ったよりも弱く、アリアは拍子抜けしてしまった。そんなアリアの近くに、フルーレがやって来た。
「……思ったよりも弱かったわね。さっさとトドメを刺してきなさい」
「分かりました」
アリアは近づいて来たフルーレにそう言うと、ルナールが激突して空いた壁の穴から、飛び降りた。そして、受け身をとって、立ち上がると、ルナールも立ち上がっていた。
「くそぉ! 人間、中々、やるな! ここは、我が真の姿を見せねばなるまい!」
そう言ったルナールの体が、アリアの目の前で、どんどんと
「どうだ、人間! 我の真の姿は! 驚いたか?」
「……ちょっと、気持ち悪いですね」
「何だと!? 我の姿が気持ち悪いだと! もう、許さん!」
化け物となったルナールがアリアに殴りかかった。ブオンという音とともに、ルナールの拳が、アリアに迫っていた。
(いやいや、遅過ぎでしょう!)
アリアはそう思いながら、ルナールの拳を避けると、ルナールを真っ二つに斬り裂いた。
「ぐぁぁぁぁ!!」
ルナールはそう断末魔を上げると、倒れた。そして、真っ二つになったルナールの体から、青い人型の何かが出てきて、逃げ始めた。
「ありがとう、アリア。後は、任せて」
フルーレはアリアにそう言うと、移動して、青い人型の何かの首をつかんだ。
「貴方、地獄で存在感がないからって、地上に低級悪魔を送りこんで、それを支配して、人間界の王様にでもなるつもりだったみたいだけれど、残念だったわね。運がなかったと思って、諦めなさい」
フルーレがそう言うと、青い人型の何かが首から凍り始めた。そして、数秒後、全身が凍りつき、砕け散った。
(……これ、終わったのかな?)
アリアはそんな様子を、
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