13 レイル士官学校①
――アリアが貴族となってから、1年が経過した。アリアは13歳になっていた。
戦で荒れたアンティークの復興は、ほぼ完了したらしい。アリアが暇な時に、アンティークに来るようにというハリルの手紙が1ヶ月に一回は来ていたが、レリフとの修行があるため、行けてはいなかった。
ハルド家の空いている敷地には、こじんまりとしたアリアの屋敷が建っていた。アリアが貴族となってから、8ヶ月で完成した。だが、ハルド家にいた方が、食事を準備してもらえたりと色々便利なので、屋敷が完成した後も、ハルド家にあるアリアの部屋を使っていた。
完成したアリアの屋敷を、アリアは武器などを置く物置として使っていた。アリアがあまりにも、屋敷を使わないので、フルーレが私物を勝手に持ってきて自分の屋敷として使っていた。アリアがたまに、武器などを置きに来ると、明らかに高級だと分かる家具が置いてあったり、内装が変えられたりしていた。そして、エリゴルがよく掃除をしている姿を見かけた。
フルーレとのお茶会は、アリアの屋敷が出来てから、この屋敷で行うようになっていた。相変わらず、世間話やアリアの話をフルーレとお喋りしながら、紅茶やクッキーを飲んだり、食べていた。そのうち、フルーレが一日中、アリアの屋敷で過ごすようになっていた。フルーレ曰く、『地獄の屋敷よりこっちの方が居心地が良いわ』だそうである。
アリアとレリフは、この1年間、ハルド家の訓練場で修行をしていた。たまに、王都レイルの外で訓練したりしていたが、ほとんどハルド家の訓練場で修行していた。未だに、レリフの体に、剣を当てたことはなかった。いつも通り、剣で弾き飛ばされ訓練場の地面をゴロゴロと転がっていた。
ルビエが近衛騎士団の仕事で忙しいため、ルビエと訓練する頻度は減っていたが、ルビエと槍の訓練をしていた。相変わらず、ルビエの修行は厳しく、ルビエとの修行を終えた日は、打ち身だらけであった。
そんな修行の日々であったが、たまに中央出身の貴族が、アリアに面会を求めてハルド家にやってきていた。大体、怪しい儲け話や貴族の子息との縁談であったので、レリフが問答無用で追い返していた。レリフが用事でいないときは、ハルド家の離れと言っても、アリアの屋敷よりは遥かに大きい離れに住んでいるレリフとルビエの父であるバリス・ハルドが追い返していた。
バリス・ハルドはハルド家の前当主であり、アスール王国軍の元元帥であった。アスール国王メギド・アスールよりも4歳ほど年上であり、レリフとルビエの剣と槍の師匠であった。未だに、その名声は、アスール王国で轟いており、ひとにらみするだけで、大の大人が怯えて、逃げだすほどの眼光の鋭さであった。
実際、アリアと面会に来た貴族は、バリスににらまれるだけで何も言わず、尻尾を巻いて、帰って行った。
「バリス様、ありがとうございます」
「別に良いよ」
アリアがお礼を言うと、いつも決まってそう言っていた。そして、離れに戻ると、読書を再開していた。基本的に、レリフとルビエに、何か言うことはなく、食事も離れで一人で食べており、一日のほとんどを離れで読書をして過ごしている。そのため、アリアがバリスと何か話したりということは、ほとんどなかった。
――そんなこんなで、1年が過ぎていたある日。朝食を食べた後、レリフとルビエから話があると言われ、アリアの部屋にレリフとルビエが入って来た。
「そろそろ、アリアちゃんも強くなってきたし、士官学校に行っても大丈夫だと思うんだけど、どう思う?」
「私も大丈夫だと思います。ただ、今年の入校の時期は過ぎているので、来年の4月にならないと、アリアは入校出来ませんよ。一応、アリアが入校するのは特例とはいえ、始まりの時期は合わせた方が良いと思います」
「そうか。まぁ、ちょうど良いんじゃない。勉強しないといけないし」
「そうですね。アリアは、来年の4月から士官学校へ入校しても大丈夫?」
「大丈夫です」
「そう。ただ、今から勉強を始める必要があるから、あとで、教科書とか渡すから」
「勉強ですか?」
アリアはルビエの言葉に疑問を持った。
「そう、勉強。一応、士官学校は、18歳以上の貴族であれば誰でも入校出来るけど、筆記試験と武術試験が入学前にあって、それで組が別れるの」
「組によって違いがあるのですか?」
「そう、違いがあるの。組には1組と2組があって、筆記試験と武術試験である程度の点数が取れないと2組になる」
「2組になると何か、悪いことでもあるのですか?」
「いや、別に教わる内容と試験の問題も一緒だ。ただし、2組になると自由時間がなくなる。1組だと、大体17時に講義とか訓練は終わるのだけど、2組はそこから、夕食を食べて、22時まで訓練をするから、本当に自由時間がない。だから、最終的な卒業時の成績は、2組の者が1組の者を上回っていることが多々ある」
「ルビエの言う通り、僕らが通っていた頃と変わっていなければ、2組になると自分の訓練が出来なくなるから、アリアちゃんは1組の方が良いよ」
「分かりました。私も、自分の訓練の時間が欲しいので、1組を目指します」
「そっちの方が良いな。アリアは剣術は問題ないから、勉強に集中した方が良い。あとで、アリアの部屋に教科書を持っていくから、目を通しておいて」
「分かりました」
「それじゃ、そろそろ訓練場に行こうか、アリアちゃん!」
「分かりました、師匠」
アリアはそう言うと、レリフとともに訓練場へ向かった。
――アリアが士官学校に入校する4月となった。それまで、アリアは、日中はレリフとたまにルビエと修行をし、夜は、ルビエの持ってきた教科書で勉強していた。分からないところは、お酒を飲んでいるレリフか帰って来たルビエか、お茶会の最中にフルーレに聞いていた。フルーレは『うわ、懐かしいわ! 何百年か前に同じ内容をやったわ!』とアリアに教える時にそう言いながら、アリアの分からないところを教えていた。
そんなこんなで、14歳になったアリアは入校前の試験を受けに、レイル士官学校を訪れていた。レイル士官学校は、ハルド家の敷地と同じくらいの広さがあり、相当広かった。中に訓練場と、講義を受ける建物が何個か存在した。そんな建物の一つの部屋にアリアは、入口の受付に従って、入って行った。
部屋の中には、既に人がたくさんいた。アリアが部屋に入ると、アリアを見てヒソヒソと話し始めた。
気分が悪かったが、指定された席に座った。そして、10分後。筆記試験が開始された。内容は、勉強した通りの内容であり、アリアにとっては、特段、難しい試験ではなかった。2時間後、筆記試験が終了した。
次は、武術試験であった。筆記試験を終えたアリア達は、訓練場に連れて行かれ、数人の教官の前に、自分で武器を選び、並ぶこととなった。アリアは木剣を選んだ。ちょっと、木剣を素振りするとハルド家で使っていた木剣と違い、脆く、すぐ折れそうだなとアリアは思った。
そして、教官の前の列に並んだ。一人ずつ教官と手合わせをし、武術試験の点数を決めるらしい。前の方に並んだ男が、木剣で教官にボコボコにされていた。そして、担架でどこかに運ばれていった。あちこちから、うわぁ!や痛い!という悲鳴にも似た声が聞こえてきた。
とうとう、アリアの番になった。少し、アリアは緊張していた。そして、相手を見ると見知った顔であった。その人の顔は引きつっていた。
「アリウス大尉ですか!? なぜ、ここに?」
「今は、少佐に昇任した。人事の異動で、レイル士官学校の教官になった」
「そうなんですか! それで、私は、アリウス少佐と戦えば良いのですか?」
「いや、アリア、お前はやらなくても良い。お前の実力は良く知ってるし、戦ったこともあるから良いよ。少し、待っていろ」
アリウスはそう言うと、武術試験の点数を記録している者と何やら話をしに行った。数分後、アリウスが帰って来た。
「アリア、もう帰って良いぞ。出口は分かるな?」
「はい、出口は分かりますけど、本当に戦わなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫だ! お前の武術試験の点数は満点だ! だから、気にせず、帰っても大丈夫だ!」
「分かりました、アリウス少佐」
アリアはそう言って、木剣を返した後、訓練場の出口を目指して、歩き始めた。ちらりと後ろを振り返ると、アリウスが木剣で、アリアの次に並んでいた男をボコボコにしていた。良く分からないが、ラッキーと思いながら、ハルド家の屋敷へアリアは帰って行った。
アリアがハルド家の屋敷に帰って来た頃には、夜になっていた。そのまま、アリアは、屋敷のメイドに夕食を食べる部屋に案内された。そこには、レリフとルビエが既に座っていた。アリアが座ると、夕食が始まった。
「それで、どうだった、試験は?」
「筆記試験は大丈夫だったと思います。武術試験は、戦う教官が人事の異動をしてきたアリウス少佐だったのですが、なぜか、戦わずに、武術試験は満点だと言われました」
「……アリアと戦うのが嫌だったんだろうね。そういえば、僕も、武術試験で戦わなくて良いって言われたな。今思うと、何でだろう?」
「それは、兄上の強さが、王都中に広まっていたからですよ。誰だって、兄上とは戦いたくないですよ」
ルビエがげんなりとした顔をしながら、レリフにそう言った。
「そうなんだ、知らなかったよ! 確か、ルビエの時は、武術試験で相手をしてくれた教官をボコボコにしたんだっけ? それで、問題になったって聞いたよ?」
「いや、あれは、手を抜くのは教官に失礼だと思ったので、全力で戦ったまでです! 確かに、問題になりましたが、相手をしてくれた教官が優しい方だったので、事なきを得ました!」
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、アリアの試験も無事に終わったし、ここからは楽しい会話をしよう!」
そう言ってレリフは、アリアとの訓練の話などを夕食を食べながら、話した。夕食の時間は、笑い声が響く、楽しい時間となった。
――アリア達が、楽しい夕食をしている頃。レイル士官学校では、筆記試験と武術試験の結果を集計し、組み分けをしていた。なお、武術試験で教官にボコボコにされ、担架でレイル士官学校の医務室に運ばれ、寝ている者達は、今年の入校生の約7割の者であった。
これが、レイル士官学校の入校生に対する洗礼の一つでもあった。この医務室に運ばれた約7割の入校生は、1週間後のレイル士官学校の入校式に、家に帰ることなく出席することになるため、実質的に士官学校の生活が今日から始まっていた。
「今年の入校生の中に、一人、とんでもない者がいますな」
アリウス少佐の横の教官が組み分けの案を作りながら、アリウスにそう話しかけた。
「もしかして、アリア・ロードですか?」
「良くお分かりになりましたな! もしかして、お知り合いですか?」
「はい、アリアのことは良く知っています。それで、アリアの成績はどうなのですか?」
「筆記試験、武術試験でともに満点ですな。この記録は、歴代で言うと、レリフ・ハルドとルビエ・ハルドの両名しか記録がありませぬな。しかも、まだ、14歳だというではありませんか。末恐ろしいですな」
「ええ、末恐ろしいですよ。ですが、今年の入校式で式辞を話す、入学時点での首席は、第1王女サラ・アスール様ではないのですか?」
アスール王国の王族は基本的に、男女を問わず、レイル士官学校に入学しなければならない。だが、入学時点での試験は行わず、無条件に首席として入校し、入校式で式辞を話すのが慣例となっていた。また、卒業試験も点数の高い低いに関わらず、首席でレイル士官学校を卒業するのが慣例であった。
「そうですな。だから、アリア・ロードは次席となりますな。王族の方と違う年に、入っていれば間違いなく首席でしょう。こればかりは、どうしようもありませんな」
「……そうですか」
アリウスはそう答えると、集計された点数を見るのに集中した。
(アリアが士官学校に入ってくるのか。これは、波乱に満ちた勤務になりそうだ)
アリウスはそんなことを考えながら、自分の仕事に集中した。
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