第12話 隠力

レイスとリサを追いかけるアルバとライナス。


アルバ:「ほんとにこっちで合ってるんすか?」


ライナス:「バカヤロー!俺の感知を疑うなんていい度胸してんじゃねぇか」


アルバはライナスが先程言っていたことが気になっている。


アルバ:「ライナス先輩、さっき言ってた隠力いんりょくってのはなんなんですか?」


ライナス:「隠力ってのはなぁ、"目覚め"を使う時に消費する力のことだ」


能力者なら分かる感覚であるため、アルバにも力の名前は知らずとも思い当たる節がある。


ライナス:「分かりやすく言うなら、走れば体力が減るだろ。それと同じだ。"目覚め"を使えば隠力が減る。隠力を限界まで使えば、回復するまでは"目覚め"は使えねぇ」


アルバ:「大体分かりました。俺も能力者なんでその力の見当はつくっす」


アルバは右手を握ると右手に少し光が宿る。


アルバ: (この力を使っている感覚が隠力を消費する感覚ってことか)


ライナス:「なんでその力を隠力って呼んでるか気になるだろ?」


ライナスは笑みを浮かべアルバに問う。

が、アルバは特に興味無さそうに首を横に振る。


アルバ:「いや、全然っすけど」


ライナス:「自分でも分かってないだけでホントのお前は気になってんだ。大人しく聞け」


ライナスはどうしても知識をひけらかしたかったのだろう。無理やり話し出す。


ライナス:「なんか東の方にすげぇ都市が発達してる国あんだろ?」


アルバ:「カイカっすか?」


ライナス:「そうそう。カイカって国の偉い研究者か誰かがこの力の存在に気づいたらしくてな。驚きなのは"目覚め"を持ってない非能力者にも隠力は眠ってるらしい」


アルバ:「へぇ〜」


アルバはまるで絵本を読んでもらう子供のように、その話に聞き惚れる。


ライナス:「元々人間が秘めていた力。隠れていた力ってことで隠力と呼ばれるようになった。16年前の光の柱が出現して、"目覚め"持ちが現れる前から人間に眠ってたんだとよ」


アルバ:「えっ?でも"目覚め"持ってないと使い道無いっすよね?」


ライナス:「その通りだ。だから発見された時にはほぼ消えかかっていた」


アルバ:「消えかかってたってどういうことですか?」


ライナス:「進化とか退化って知ってるだろ?使わないものは退化して、生命活動に無駄を無くすように進化する。"目覚め"を発現するまで隠力は使われることの無い力だったから、人間の体にはほとんど残ってなかったんだとよ」


アルバ:「その話で言うなら、昔の人間が隠力を使えるように進化したから、現代まで人類の体に隠力が眠ってたってことですよね?」


ライナス:「ま、まぁ言われてみればそうかもな」


アルバ:「じゃあ昔の人も"目覚め"持ちだったって事じゃないですか?!そういうことっすよね??」


自分がその重大な事実に最初に気づいたのではないかとアルバは大騒ぎしている。


ライナス:「お前が思いついてカイカの学者がその結論に至らないわけねぇだろ」


それを聞いて分かりやすくアルバの肩は落ちた。


ライナス:「昔の人間が能力者だったって話も出たが、それには不可解な点がある」


アルバ:「どこがですか?完璧な考察ですよ」


ライナス:「能力者だったなら何故"目覚め"を使わなくなった。こんな便利な力を易々と手放す理由が分からねぇ」


アルバ:「使わなくなったってどうして断言出来るんですか?」


ライナス:「さっきも言ったが、使わない部分は退化する。"目覚め"を使わなくなったから退化した。もし使い続けてたなら、この時代の人間も"目覚め"を日常的に使ってるだろうさ。それに過去の文献や遺跡を見ても、能力者の存在なんて書かれてない。過去に能力者なんていなかったんだよ」


アルバ:「えーー、じゃあ隠力は別のことに使うためのものだったってことですか?」


ライナスは深く頷く。


ライナス:「頭いい奴らの話し合いでそういう結論になったらしい」


好奇心の強いアルバにはあまりに退屈な結論だ。


ライナス:「そんなことよりお前はもっと気になることがあるんじゃないか?」


アルバは何のことか分からなかったが少し考えてから思い出す。


アルバ:「あっ!隠力をどう使ってレイスの位置を把握してるかっすね!」


ライナス:「そうだ。だが、、、」


ライナスが急にスピードを落として近くにあった木の後ろに身を潜め、何かから隠れるようにしている。


アルバ:「どうしたんすか?」


ライナス:「前をよく見てみろ」


すると200m程先には黒い仮面をつけた3人が立っている。


ライナス:「あの3人の向こうに大きめの倉庫が見えるだろ。きっとあそこが奴らの根城だろうな」


アルバ:「ほんとっすか?」


ライナス:「こんな人里離れた森の中にデカめの倉庫が1つポツンとあって、その近くに黒い仮面をつけたやつらがいる。ほぼ確定だろ」


アルバ:「じゃあレイスとリサはあの倉庫の近くに」


ライナス:「さっきからレイスの隠力が感知できない。きっとアイツは敵にバレないように力を抑えてる。あのバカヤロー、もう敵に突っ込むつもりだ」


アルバ:「早く行かないと!リサが巻き込まれる!」


飛び出そうとするアルバをライナスは必死に押さえ込む。


ライナス:「バカか!今はまだ誰もバレてない状態だ。その段階でお前が暴れだしたら、ここまでこっそり来た意味がねぇだろ。それに、クロレドの町民があの中にいるかもしれねぇんだ。人質に取られれば厄介なことになる」


ライナスはこっそり木から木へと着実に黒い仮面の3人との距離を詰める。アルバも親ガモに一所懸命ついて行く子ガモのように後に続く。


ライナス:「応援要請は出したが、早くてもあと1時間はかかる。それを待ってる間に確実にレイスは暴れ出す。そうなる前に俺らで止めるしかねぇ、まずはあの3人の誰かから情報を聞き出すぞ」


ライナスが身を乗り出そうとするとアルバが呼び止める。


アルバ:「待ってください!俺に任してくれませんか?俺は光の速度で移動できます。バレずに倒すには俺の"目覚め"が最適だと思います!」


ライナスはニッと笑い、


ライナス:「ミスが許されない。本当は先輩の俺がバカかっこよく倒すべきなんだろうが、俺はレイスとの手合わせを見てお前に可能性を感じてる。このライナス先輩が見ててやる。行ってこい!」


バンッ


ライナスがアルバの背中を叩く。強烈な痛みが走るも、今はその痛みもアルバの緊張を弾くいいキッカケになった。


アルバ:「よしっ、やるぞ!」

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