第8話 初任務

朝食を食べ終えた3人は、依頼人のいるショウヨウ最南端の町クロレドを目指して基地を後にする。

クロレドまでは最短ルートの森の中を3人横並びで移動する。


ライナス:「今回の任務は数日前から町の周りに時々に出没するオーバーの討伐だ!オーバーが出現した辺りから町民も数人行方不明だということだ。恐らく行方不明者はオーバーに襲われたんだろうな。まぁお前らの実力ならオーバーくらい余裕だろう」


アルバ:「ライナス先輩、俺クロレド行ったことないんすけどどんなところなんですか?」


アルバは好奇心のままに質問を投げる。


ライナス:「俺よりレイスに聞いた方がいい質問だな」


ライナスはレイスの方を目を見て話すように促す。レイスは目を逸らし、嫌々話し始める。


レイス:「クロレドは俺の生まれた村だ。別に栄えてる訳でもない他の集落から結構離れた普通の田舎だよ。唯一変わってる点としては、他の地域との交流を嫌うぐらいだ」


アルバ:「じゃあ、お前の故郷にオーバーが出たのか?!もう行方不明者とか被害も出てるのになんでそんな落ち着いてんだよ!」


オーバーとは16年前光の柱が出現し、"目覚め"を持つ者が現れたのと同時期にどこからか湧き始めた異形の生命体である。その生命体は灰色のドロドロとした見た目をしており、目に映る生物全てに襲いかかる習性を持っている。そのようなモンスターが生まれ育った村に出たとなると、アルバの心配通り普通は取り乱すはずである。


レイス:「ただ生まれた場所なだけだ。思い入れも俺の家もあそこには無い...

ライナス先輩、他の町や村からもオーバー討伐任務の依頼は来てたはずです。何故よりによってクロレドを選んだんですか?俺があの場所に戻りたくないことはあなたも知ってるでしょ」


レイスの言葉には引っかかる点があまりにも多かったが、デリカシーの無いアルバにも深く踏み込まない方がいいのかと察した。


ライナス:「だからだよ。だからお前は人嫌いになった原因の村で解決しなきゃいけない...らしい...

まっ、まぁ心配すんな!バカ強い俺がついてんだ!何か危ねぇことが起きたら俺が止めてやる。ま、そんな心配いらねぇとは思うが」


聞きたいが聞けないそんなもどかしい会話にアルバは奥歯を噛み締め、聞きたいことが喉まで出かかっているのをギリギリで飲み込もうとする........が、


アルバ:「あぁーーもう!さっきから2人にしか分からない会話して!気になってオーバー退治に集中出来ないですって!教えてもらうまで俺は動きませんからね!」


飲み込んだはずの興味がまるでゲップのように勢いよく口から出てくる。ただでさえクロレドに向かうのが億劫なレイスに一段とストレスがのしかかる。


レイス:「ガキか、付き合ってらんねぇ」


レイスの態度を見てライナスは今回の任務のオーバー討伐とは別の目的を話す。


ライナス:「レイス。お前は新人にしては実力は大したもんだし、持ち前の冷静さも任務を遂行にするにあたってはかなりの強みになる。けど、ハッキリ言って人を信用してなさすぎる。それじゃチームでやってくには弊害が出る。だから今回はお前の人嫌いを克服することを裏ミッションにする!」


そう高らかに宣言すると、アルバにレイスの過去について話そうとする。


ライナス:「アルバ、レイスは実はガキの頃にな」


レイス:「ちょっと!何勝手に...」


レイスが制止しようとするもライナスは毅然としている。


ライナス:「言ったろ。レイスは過去と向き合わなきゃいけない。それにはアルバの存在は欠かせない。そうなればアルバにも話しとく必要があるだろ」


そう言うとライナスはアルバの目を見てレイスの過去について話し始める。


ただ昔話を話し始めるのとは違う。ライナスの真剣さが伝わりアルバに緊張が走る。


ライナス:「嘘みたいな話だが、今から話すことは全て事実だ」


ヒュー


木と木の間から優しい風が吹く。


ライナス:「レイスはな、死んでるんだよ」

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