第2話 波乱の入隊試験
アルバ:「ちょっ、なんでですか?レンも殺してないし、自分の力も存分にアピール出来てたじゃないですか?!」
アルバは訳の分からないこの状況をなんとか打破するべく方法を考えるが、こういう時に限って頭が真っ白になる。
シルネ:「あぁ、そうだね」
カチャッ
取り囲む30人の兵士は銃口をアルバに向け、ただ射撃の命を待っている。
アルバ:「せめて理由を教えてくれないですか?何一つ心当たりが無いです!」
アルバは一言発する度に撃たれるのではないかという恐怖に襲われ、今はひたすらに体の震えを抑える。
シルネ:「理由か...理由なら今の自分の姿を見てみろ。それが理由であり証拠になる」
シルネ・ブルースはアルバの手のグローブを指さし、過去の話を始めた。
シルネ:「16年前、ショウヨウ、バンジョウ、カイカ、フウゲツそれぞれの国に1柱ずつ光の柱が何の前触れもなく出現した。そしてその柱から放出された光の塊に触れた人間があの夜に"目覚め"と呼ばれる力を手にした」
それを聞いていたニトラ・イグニスが痺れを切らし話し始める。
ニトラ:「ブルース、そんなところから話してたら日が暮れるだろ。坊主、要は能力者が生まれたあの夜の5日後、緊急で国家は国内にいる能力者の数を把握するための大規模な調査を行った。それが俗に言う"
アルバは大きく生唾を飲んだ。
ニトラ:「つまりだ坊主、その黎明調査で記録されてない"目覚め"は他国からのスパイか国に仇なす反逆者の可能性が高いって訳だ。それか黎明調査以降に"目覚め"が発現したか。まぁそんな奴見たことも聞いたことも無いから消去法で前者だろうがな」
アルバは心の中で叫んだ
アルバ:(いや俺ガッツリ後者なんですけどぉぉぉ)
アルバは世界でただ一人、後発的に"目覚め"が発現した稀有な存在なのである。
そして、ジェリー・スティンガーが続いて話し始める。
ジェリー:「あの夜、"目覚め"が本人の意思とは関係無く勝手に発動した。まぁ一時的なもので夜明けには収まったがな。だからなぁガキ、そん時0歳で"目覚め"が発現しませんでしたって言い訳は通用しないぜ。乳飲み子だってあの夜は火を吹いてやがったんだ。クククククッ」
ニトラ:「陰湿男、何が面白い。あの夜は能力者全員の"目覚め"が暴発し、その後始末で全国民がどれだけ汗水流したか」
ジェリー:「バカか火薬女!テメェの"目覚め"が1番被害デカかったろうが!!」
ニトラ:「バカはお前だ。あの夜は人里離れた場所にいたから人的被害を出さず、山1つしか吹き飛ばしてないだろ」
ジェリー:「山丸々1つ吹き飛んでんだろうがぁ!」
気がつけばまたこの2人は端喧嘩を始めていた。
しかし、今のアルバにはそれすら気にならないほど追い詰められていた。
アルバ:(えっ、黎明調査って"目覚め"の暴発後に無事だった国民の数把握するための調査じゃなかったの??全然知らなかったぁぁぁ。後から目覚めが発現した事ここで発表しちゃう??何人驚いてくれるかな??誕生日のサプライズみたいにみんなで拍手してくれるかな??ってそんな訳ないよなぁ。てか、母さんと"約束"しちまったし。後発的に能力者になったことは誰にも言わないって。人類で初めてのことだから人体実験されるかもって、どんだけ心配性なんだよ!約束破るなんて親不孝な事ぜってぇ出来ないし。そうだ!笑顔で謝ったら許してくれるかな?笑顔だけは最高に自信あるからな。履歴書の特技欄にも余裕で笑顔って書けるもん!よし笑うぞ!俺なら笑えるぞ!)
アルバ:「ニヒヒヒッ、アハハハ」(ボソッ)
アルバは頭の中で今日1日分の会話量を消費した。しかし、周りから見たアルバは棒立ちで大量の冷や汗をかきながら、真下を向きボソボソ言って小刻みに震えているだけだった。これが家電なら迷わず買い替えるほどの壊れ具合だ。
シルネ:「アルバ君、なにか弁明はあるかい?」
シルネの言葉に改めて自分の置かれてる状況を理解した。この国ではスパイは身の潔白を証明するのは難しく、軽くて国外追放、最悪処刑されるのは有名な話だ。
アルバ:(くそっ、俺は最強にならねぇといけねぇのに。最強になって、くだらねぇ侵略行為も、あの夜以降湧き出てくる化け物も全部ぶっ倒さないと。これ以上無駄な争いで、父さんみたいに必要のない死を増やさないために。母さんまで奪われないように...)
シルネ:「君も知っていると思うがスパイは潔白を晴らすのが難しい。素直に協力してくれるよう願っているよ」
アルバ:(母さん...俺)
現状アルバに出来ることは己の不甲斐なさを恨み、強く拳を握りしめることぐらいだった。
アルバ: (こんなとこで止まるわけにはいかねぇのに)
シルネ:「それじゃあ場所を移そ...」
バッッ
先程までスヤスヤ寝ていた男が急に立ち上がった。
ゼラノス:「まぁ待てよブルー」
全員が2階を見上げた。そこに立っていたのはゼラノス・ラザップだった。
シルネ:「ブルーじゃなくてブルースだ。どうした?お前が興味を示すなんて珍しいじゃないか」
ゼラノス:「そいつがギラギラと旬のアジくらい光るせいで俺の安眠が邪魔されたからな。眩しくて寝れやしねぇ」
ジェリー:「テメェがそれを言うか」
ジェリーが口を挟む。
ゼラノス:「お前はほんと毎回一言余計だよなゼリー」
ジェリー:「ゼリーじゃなくてジェリーだ!!ジェリー・スティンガーだ!!」
ゼラノス:「分かったよフェリー」
ジェリーはゼラノスに飛び掛ろうとしたが、すぐにニトラに抑えられた。
ゼラノス:「とにかくだ。俺にはそいつがスパイほど捻くれ野郎に見えねぇし、反逆者ほど小癪には見えねぇ」
シルネ:「見える見えないの話じゃない。しっかり調査をしてからじゃないとだな」
ゼラノスは2階から飛び降り、シルネの横まで歩いて肩を叩いた。
ゼラノス:「調査とか面倒くせぇだろ。それに...自然の勘が言ってんだ。コイツは必要だってな」
シルネ:「ゼラ、そうは言ってもだな...」
ゼラノス:「しゃあねぇ、面倒臭いがこいつの子守りはウチでしてやる。それでどうだ?」
シルネは深くため息をつき数秒考えた後
シルネ:「お前がそこまで言うならそうなんだろう、しっかり見張るんだぞ」
ゼラノス:「まぁ任せろよ」
そう言うと一直線にアルバの所まで行き、頭をがっしり掴んだ。
ゼラノス:「じゃあ俺今年はもう隊員決めたから帰るわ、じゃあな」
と、あまりにも自己中な発言に会場にいた全員が目を点にした。
アルバ:「あ、ありがとうございますゼラノス隊長。そのぉ...俺ってば緋縅隊に決定な感じですか?」
アルバは捕まる心配から解放されゼラノスに感謝の気持ちで溢れたが、同時に緋縅隊に入隊すれば、すり潰されるほどにハードワークな未来が待っていることに恐怖していた。
ゼラノス:「なんだお前、俺の隊は嫌か?もしかして青襦隊に入りたかったなんて言わねぇだろうな?お前はその青襦隊の隊長様に殺されかけてたんだぞ」
それを聞いてどこに入隊しても険しい道が待っていたことを悟り、大人しく頭を掴まれた。
そしてゼラノスは足に力を溜めて着実にこの場から立ち去ろうとしている。
それに気づいたシルネは
シルネ:「ゼラ!まだ受験者が残ってるだろ!」
シルネのごもっともな意見にゼラノスは
ゼラノス:「俺の隊は少数精鋭なの、なんかそっちの方がカッコイイだろ?」
と訳の分からない持論を展開した。
もうゼラノスは止められないと考えたシルネは最後に
シルネ:「この件は上に自分から報告しろよ」
と止めることを諦め、ゼラノスに今回の件の後始末について改めて釘をさした。
ジェリー:「おい、帰すつもりかよ ククククッ」
ジェリーは一人ケラケラ笑っている。
ただ最後のシルネの言葉もゼラノスは聞いてないふりをしながらアルバを右手で掴み、天井を突き抜けて会場から姿を消した。
ニトラ:「止めるの諦めて最後にメッセージ伝えたのにそれも意味無かったみたいね、アハハハ」
シルネ:「ニトラ、笑ってるだけなら君が引き止めてくれれば良かったのに...」
その光景を見た受験生達はシルネ隊長の苦悩を察するばかりであった。
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