静かで淡々とした語り口なのに、読み進めるほど背筋が冷たくなるような発想が心に残る掌編でした。「涙が悲しみを消す」という一見優しい設定が、いつの間にか重さを帯びていく展開が印象的です。身近な出来事から世界規模の出来事まで同列に語られ、感情の揺れがそのまま世界を変えてしまう怖さが、静かな余韻として残りました。消えていくものと、ついに消えなくなったもの——その対比が、物語の奥に小さな痛みを灯すような読後感でした。
涙は、世界を救いながら、すべてを失くしていく。“悲しみ”が持つ力の本質を、わずか数ページで描いている。静かに狂おしく、そして美しい。