第2話 悠久
造作もないことだ。
紫苑にとっては、それがあたかも当たり前であるかのように、至極当然のことであり、それが使命で正義なのだから。
「お疲れ様、識神
「高橋さん、お疲れ様です」
「おつです」
東京某所、とある高層ビルの一角。目の前には、スーツ姿の女性が立っていた。名は高橋。魔法少女を統括する国家機関『MGS』の、私たちの担当をしてくださっている人だ。謂わば、マネージャーである。
「あの後、今回の案件はどうなりました?」
「あの場にいたのはお前たちと同じく姉妹の魔法少女。幸いにも、迅速な処置で後遺症もなく復帰出来ている。そして、あのバグはA−級だと判定された」
「A−、ですか」
「本来ならばあれはあの少女たちに対応できるものではなかった。君たちでも、能力次第では苦戦していたことだろう。最近あんな危険度の奴が多数確認されていて、ウチでは色んな議論があったもんだよ」
「ご苦労さまです」
上で一悶着あることは、実によくあることだった。その度に高橋さんが緩衝材になってくれているのも、痛いほどに理解している。だが、私たちが戦うのは会議室なんて場所ではないと、高橋さんは私たちに戦場を託してくれているから。
「君たちは日本でも有数の実力を持つ魔法少女だ。だが、その力をどう扱うか、議論にも度々上がる。正直上層部には、後続を育成させてお前たちをもっと上の案件に回せといわれてるんだが……。いくら強いとは言え、危険な場所に送ることは出来ないからな」
今の私たちに対処が出来るのは、最大でもA+級ってところだろう。並みの魔法少女じゃ対応出来ない、レベルIVのバグ。
つまりは、今回のバグはギリギリのレベルであったということだ。あれが頻繁に現れようものなら、本格的に終わりへと傾き始める。
「ふぅ……。まあそんなわけで、危険度の上昇は顕著だ。上の言う通り若手を育てないと、掘り起こさないと、この先何が起こるかわからないからな」
「そうですね。私たちも、もっと強くならないと」
これ以上高橋さんに迷惑をかけてはならない。目に見える通り、濃いクマができてやつれている。憔悴しきっている。
「心配するな。私は大丈夫だ」
「……頑張りますから。高橋さんが正しいと思ってもらえるように、私たち」
「ありがたいな」
嬉しそうに口角を若干歪めた高橋さんは、「仕事があるから」と私たちに背を向け、奥の部屋へと戻っていった。
「紫苑」
「なぁに、姉さん?」
「私たち、このままじゃだめだよ。いずれ、高橋さんも限界を迎える。それまでに、実力を――もっと大きな成果を示さないと」
「わかった」
私自体は然程重要ではない。直接的な火力、貢献度で言えば圧倒的に紫苑が強い。後方支援だけで成り立つことはないからだ。
「これから頑張ろう」
「うん」
覚悟は決まった。後は、結果を出すだけだった。たとえ主な力が紫苑だとしても、私は私なりに全力を尽くす。結論は、それしかなかった。
✻ ✻ ✻ ✻ ✻
私たちとて人間だ。魔法少女が活躍しているという事実は公にされているものの、私と紫苑が魔法少女であるという事実は公表されていない。それは、どの魔法少女も同じ事だった。
いずれも、魔法少女は未成年の少女たち。曰く、精霊が魔法少女の適性のある者を探し出して、契約するのだそうだ。私も紫苑もそうだった。
『魔法少女、今回もバグ討伐成功!』
『都内にバグ出現、死傷者ゼロで鎮圧』
『バグ警報発令。なぜ、バグの頻度が高いのだろうか』
手元のスマホに映る、美辞麗句を並べ立てたネット記事。反対に、ネットという電子の海では魔法少女の印象は最悪だった。
『そもそもバグってなんだよ』
『魔法少女、散々暴れるくせに正義面しててムカつく』
『魔法とか非現実過ぎてww』
『グルだろ、どうせ』
『せめて被害出した分は補償とかしろよ。国も機関も全部終わってんな』
『バグも魔法少女も非現実的。政府の陰謀だろこれ』
『そもそもバグとか見たことないし』
『正義の味方ぶりやがって』
今の時代、魔法少女と検索するだけでこの手の誹謗中傷がごまんと出てくる。勿論、あくまで魔法少女という自分に攻撃されているだけだから、『識神 未来』としては何のダメージもない。だが、もう一人の自分が痛めつけられるというのは精神的にもかなり辛いものだ。
魔法少女のプライバシーは守られている。変身後は認識阻害の効果がかかって、特徴がリアルの特徴と一致しないように錯乱させる。
「未来ちゃん、未来ちゃん?」
「ん?」
「どうしたの? 顔怖いよ」
「ああ……。ごめん、何でもない。ちょっと考え事してて」
とあるカフェのテラス席、シックな雰囲気の店内に流れるクラシック。目の前の席では、メロンソーダを飲む少女がいた。
私と同じ、魔法少女。ロゴ入りTシャツとチェックのスカートをカジュアルに着こなした、青髪の少女。名は
「あっ、ちょっ」
手慣れているのかひょいと私のスマホを奪った彼女は、画面をスクロールしてながら見し始めた。
「まだこんなの気にしてるの? SNSは匿名性が高いから、あることないこと好き勝手書き込んでるだけだって。心配する必要はないと思うな。事実、未来ちゃんはよくやってる方だよ」
「……うん、わかってるけどさ。別に、私がどうこう言われようが構わないけど。もしこれが、紫苑に向けて言ってるんだと思うと……」
「その時は、あたしも一緒に被ってあげるから。友達だよ、私たち。もっと頼ってよ」
飄々とした態度の彼女だが、彼女は彼女で私たちに次ぐほどの成績を誇る魔法少女。実力に加えて世間への耐性もあるなんて、羨ましい限りだ。
「ところでさ。戦績どう?」
「ああ、まあぼちぼちって感じかな。未来ちゃんたちほどじゃないと思うけど、私の管轄区域でもかなり強いバグが確認されてて。他の魔法少女ちゃんたちと協力しながら、虱潰しに処理していってるよ」
「協力、ね。こっちは殆ど二人で対処してる。この前もA−級が出たし、このまま強いのが出て来てると下が育たない。モグラ叩きだよ」
「そっちも大変そうだねぇ……」
と、そんな時だった。
ピコンピコン、ピコンピコン。スマホがけたたましい音を立てる。
「どれどれ。え、山火事警報……?」
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