第1章 はじめの一歩  第6項 亜神は貧乏神になる

第1章 はじめの一歩

 第6項 亜神は貧乏神になる


「すみません。冒険者登録をお願いします」

ギルドの受付カウンターの前に立つと、前回対応してくれたお姉さんが顔を上げた。

相変わらず整った容姿だが、その表情はどこか訝しげだった。


「……先日ご説明したと思いますが、冒険者というのは命を懸けて怪物や魔物を退治する、非常に危険なお仕事ですよ?」

「はい。覚悟はできています」

「……本当に?」

「はい」


少しの沈黙のあと、彼女は深いため息をつき、書類を差し出した。


「それではこちらにご記入を。あと、入会料の四千ポンドをお願いします」


「……え?」

聞き間違いかと思った。

だが彼女の口調は実に淡々としている。


「四千ポンド……必要なんですか?」

「はい。冒険者登録のための書類作成、人員配置、そして訓練場や宿泊所、医務室などの施設利用料が含まれています」


うわ……お金いるのか。しかも高い!

俺の頭の中で、財布の中身が鳴き声を上げた。


「……安易に志望する方を減らす目的もございます」

受付嬢はまるで心を読んだかのように言葉を重ねた。

確かに、命を懸ける職業に“お試し価格”なんてあるわけがない。


「……わかりました」

観念して、財布から銀貨の束を取り出した。

残金は、ほぼ消える。


書類にペンを走らせる。


——名前:アレク

——レベル:1

——スキル:無し


書き終えた瞬間、受付嬢の動きが止まった。

彼女はわずかに目を見開き、信じられないという表情を浮かべたが、すぐにプロの顔に戻る。


「確認いたしました。それでは、登録証の発行まで少々お待ちください」


魔力の刻印が押される音が響き、金属製のプレートがカウンターに置かれた。

手のひらサイズのそれには、俺の名前と所属ランクが刻まれている。


「ランクF、登録完了です。冒険者の規約と制度について簡単にご説明しますね」

彼女は慣れた口調で話し始めた。


曰く、冒険者ランクはFからSSまで存在する。

曰く、受けられるクエストはランクによって制限される。

曰く、ギルド内での小競り合いは原則OK。

曰く、施設は自由に使用できる。


「……ちょっと待ってください」

「はい?」

「四つ目以外はまぁわかるんですけど、三つ目の“喧嘩OK”って何ですか?」

「そのままの意味です。ギルドは強者を尊ぶ世界。揉め事の解決手段が力である場合、それを止めることはしません」

「……物騒すぎるでしょ」

「安心してください。死人が出た場合は罰金が発生します」

「……そういう問題じゃないんですけどね」


受付嬢は涼しい顔で書類を整え、笑顔で一言。

「ようこそ、冒険者ギルドへ」


——これで俺も正式な冒険者だ。

とはいえ、もう生活費が壊滅状態だ。


残金、五十ポンド。

昨日の夕食代にも満たない。


「これでどうやって生活しろって言うんだ……」

呟いた声が、ギルドの喧騒に紛れて消えた。


すぐに稼がなければならない。

だが現実は、登録したその日からクエストを受けられるわけではなかった。


「初日は座学講習になります」

「……ざ、座学?」

「はい。冒険者としての心得や、モンスターの基礎知識、ギルドルールの学習です」


「……え、まさかお金は?」

「もちろん無償です。ただし、日当は出ません」

「出ないのか……」


財布の中で五十ポンドが悲鳴を上げている。

このままでは明日の宿代が払えない。


「講習は明日の朝九時に開始します。それまでにお越しください」

受付嬢は書類をまとめ、すでに次の客へ対応を始めていた。


——どうしよう。

宿を一泊すれば残り二十五ポンド。

講習が終わる頃には、金属探索棒を質入れしなきゃ生きていけない。


「……これじゃあ、亜神っていうより貧乏神だな」

情けなく笑いながら、俺はギルドを後にした。


アレク レベル47

職業  亜神

HP 56

MP 56

体力 51

魔力 51

機敏 51

幸運 255

スキル 意思疎通 状態不変 限界突破

所持金 50ポンド

所持品 聖剣エクスカリバーの鞘

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