生成AI使うからとブッチしたクライアントがまたお願いしたいと頼ってきたけどもう遅い

@hyperevm

第1話筆の誇りと裏切りの傷

東京の片隅、雑然としたアトリエにキャンバスの匂いが漂う。俺、桐島蒼太、27歳。手描きのイラストレーターだ。デジタルペイントも使うが、俺の魂は筆と紙に宿る。ファンタジー小説の挿絵からキャラクターデザインまで、俺の絵はクライアントの物語に命を吹き込んできた。そう、俺の絵は「生きてる」と自負していた。3ヶ月前、大手ゲーム会社「ファンタジア・ワークス」からの依頼が舞い込んだ。担当者は矢野美咲、30歳手前のキャリアウーマンだ。いつもキリッとしたスーツ姿で、笑顔の裏にどこか冷たさを感じる女だった。「桐島さん、うちの新作RPGのキャラクターデザイン、お願いね。ファンタジーの世界観をバッチリ表現してよ。期待してるから!」その言葉に燃えた。俺は徹夜でスケッチを重ね、キャラ一人ひとりに魂を込めた。主人公の剣士には鋭い眼光と風になびくマントを、ヒロインには儚さと強さを両立させた表情を。ラフ画を提出した時、美咲は「素晴らしい!」と目を輝かせていた。だが、正式なデザイン提出の直前、事態は急変した。「桐島さん、ごめんね。やっぱり生成AIでキャラデザ作ることにしたの。AIなら早いし、コストも抑えられるから。手描きだと…ちょっと時代遅れかなって」時代遅れ? 俺の絵が? 心臓をナイフで刺されたような衝撃だった。3週間、寝る間も惜しんで描いたスケッチの山が、ゴミのように扱われた。契約は一方的にキャンセル。報酬はもちろんゼロ。美咲からのメールは、それ以降ぱったり途絶えた。「ふざけんな…! 俺の絵を、俺の魂を否定するのかよ…!」アトリエで叫んだ声は、空しく壁に響いた。それから3ヶ月。俺は別のクライアントと組み、手描きのイラストで再起を図っていた。あるインディーゲームのキャラクターデザインがSNSでバズり、俺の名前は少しずつ業界に広がり始めていた。手描きの温もりが、AIには出せない「何か」を確かに届けていた。そんなある日、スマホに知らない番号からの着信。「桐島さん! 久しぶり! ファンタジア・ワークスの矢野よ。新しいプロジェクトで、ぜひまたお願いしたいなって!」美咲の声だ。能天気なその口調に、俺の血が一瞬で沸騰した。「お願いしたい? 冗談だろ。俺の手描きを『時代遅れ』って切り捨てて、AI絵師に乗り換えたのはお前だろ?」「う、うん…あの時はクライアントの意向で、AIの方がトレンドかなって…でも、桐島さんの絵、最近めっちゃ話題なのよ! やっぱり手描きの味って必要だなって!」味? 必要? ふざけた言葉の羅列に、俺は笑いそうになった。握り潰したスマホが軋む。「悪いな、矢野さん。もう遅い。俺の手は別の仕事で埋まってる。AIでいいだろ? そっちの方が『早くて安い』んだから」「待って、桐島さん! 報酬は前回の倍…いや、3倍出す! 手描きの魅力が必要なの! お願い、話だけでも!」3倍。確かに心が揺れた。金は大事だ。だが、俺の誇りはもっと大事だ。あの時、俺の絵をゴミ扱いした屈辱は、どんな金でも消せない。「矢野さん、俺の絵には魂が宿ってる。それを分からない奴とは仕事しない。もう二度と連絡してくんな」電話を切った瞬間、胸の奥のモヤモヤが少し晴れた。だが、同時に新たな炎が燃え上がった。俺は手描きの絵師だ。この筆で、AIなんかに負けない世界を切り開いてやる。あの女も、俺を見下した奴らも、まとめて見返してやる!アトリエの窓から見える夕焼け。キャンバスに映る光は、俺の新しい戦いの始まりを告げていた。手描きの筆を手に、俺はまだ見ぬ頂点を目指す。これは、俺の逆襲の物語だ。

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