第13話 検証サーバー

 自室で待っていると、お弁当が来た。


「この中から選んでください。不満があれば、上にお伝えしておきます」


 デパートの駅弁フェアみたいな弁当だな。

 これでも試作品なんだとか。包装を凝り過ぎじゃない?

 それと食後に、レポート提出ってなんだよ……、とは言えないな。


 俺は、牛タン弁当を選んだ。早速、食べてみる。


「厚いけど、柔らかいんだな……」


 牛タンは、筋肉の塊と聞いたことがある。

 ご飯も美味しい。味噌汁もインスタントとは思えない。

 値段は……、見なかったことにしよう。


 レポートは、『美味しかったです。値段以外の不満はありません』として提出しよう。俺に食レポは書けそうにない。


 ここで妹が、部屋に入って来た。


「あ~! 肉食ってる!」


 言葉を選べよ。女子中学生の言葉使いじゃないって。

 直後に、牛タンを一枚盗られる。


「もぐもぐ……。柔らか~い」


 妹は、食べ物だけで幸せそうな表情を浮かべるな。特に、『肉』を食べると、幸せそうだ。農耕民族の末裔とは思えないよ。

 俺は、ご飯と味噌汁を急いで食べた。


「お前も休憩か? 俺は、開発部待ちだけど」


「うん? 1時間だけ、パイセンの配信に出演させてもらったんよ。コラボって分かる?」


「顔出しじゃないんだろう? 配信者名はどうしたんだ?」


「『大型新人準備中』だったんよ。まあ、笑ってるだけだったけどね~。元キャバ嬢の人と、元風〇嬢の配信者だった。面白い話を聞けたよ~。それと、綺麗なお姉さんだった」


 ……大丈夫だよな?

 後で動画を確認しておこう。


「そんで昼食後に、お兄を見に来たの。水樹さんは、『もしかしたら、17時頃にまたお願いするかもしれません』って、言ってた」


 ふ~ん?

 それと……。


「そのIDカードで、俺の部屋に入れるんだ?」


「水樹さんが、気を遣ってくれたんよ? 逆はなしね。あーしの部屋に入って、泥棒はできないからね」


 誰が妹の私物を盗むんじゃ。

 それと、気になること……。


「昼食は、何を食べたんだ?」


 妹が、視線を逸らす。


「お弁当だったよ。パイセン達と食べたんよ」


「何を食ったのか、聞いてんだが?」


「……極上松〇牛サーロイン牛肉弁当の肉マシマシ、フィレステーキイン。まあ、あれだよね~。お弁当二個分ってやつ?」


 何を勝手に命名してんだよ。

 肉弁当を二個食っただけじゃん!


「何だその高そうな弁当名は! さっきの牛タン一枚返せ!」


「うわ……。器ちっちゃ。可愛い妹を肥やそうと思わないの?」


「ちっ。太れ!」


「残念でした。上に伸びています~」


 ──ピピ


 ここで、パソコンから音が鳴った。

 メールかな?


『データ移行が整いました。10分後にログインをお願いします』


「……準備ができたみたいだな。おい、妹よ。仕事だから出てけ」


「はいはい。対人恐怖症のお兄の相手は、疲れるな~」


 今夜妹と、今後について話し合わないといけないな……。

 ちょっとイライラしながら、俺は、ゴーグルを着けた。



 ◇



「死鳥型の飛ばない魔物モンスター型か……。魔法防御力が高いタイプだな」


 現在は、不人気の魔物だ。

 理由は単純で、魔法使いの天敵だからだ。

 飛んだプレイヤーを、ターゲットにするアルゴリズムがあるので、一般的な戦術は使えない。

 だからといって、地上からの攻撃となると、飛ばれて攻撃が届かない。

 まだ、効果的な攻略方法の見つかっていない魔物だ。


「さて、依頼した技能スキルだけど……。限定的だな」


 このVRゲームは、〈攻撃力〉・〈守備力〉・〈持久力〉・〈移動力〉・〈精神力〉のステータスが基本になっていて、その派生パラメータを調整するとスキルが生えてくるシステムになっている。


「今は、隠しスキルの〈飛翔〉が人気なんだよな」


〈移動力〉と〈精神力〉を上げると獲得できる。

 俺は、〈守備力〉・〈持久力〉・〈移動力〉を上げている。守備よりなパラメータにしている。

 ソロでは、いかにダメージを抑えるかが重要なんだ。


『必要な武器を選択してください』


 システムメッセージが来た。

 空中のウィンドウを操作する……。


「最高級品の武器防具を選べるんだ? 実装が噂されている、まだ未発見の武器まであるじゃん」


 考える。

 今は、動画制作が目的だ。

 伝説級の武器防具で倒しても、意味がない。

 それは、妹の配信に直結する。最悪、炎上しかねない。


 俺は、一般的な光属性の武器防具を選んだ。まあ、高級品なんだけどね。

 ちなみに、光属性の盾と短槍とした。人気のない組み合わせだ。


 短槍は、属性の追加ダメージ付きだ。ちなみに追加ダメージ武器は、人気がない。チクチク攻撃するより、今は一発のダメージの大きさが評価されている。

 それと、柄に鎖が付いている。

 要は、投げてもロストしないんだ。近中距離の武器だな。


「今のままでもいいけど、せっかくだしステータスをいじってみるか。今回は、盾持ちなんで、〈移動力〉が不要だ。〈精神力〉を上げて追加ダメージを増やすか。それと、光属性のバッテリーだな。これで、ダメージが増える」


 装備が決まったので、ステータスも変える。

 今回は、足場が悪いので〈移動力〉が大幅に下がる。そのための盾装備だ。

 盾装備を、何時もの中型から大型に変える。盾も属性付与の人気のない装備だ。


「攻撃パターンは、他の配信者の動画で覚えている。ちょっとイライラしてるんで八つ当たりさせてもらうか」


 俺は、NPCに啖呵たんかを切った。



 ◇



 死鳥が飛ぶ。俺は短槍を投げる。ダメージが入り、死鳥が悲鳴を上げる。

 その後に、急降下して攻撃されるけど、盾で防ぐ。


「こちらが、単純な動きをすると、魔物の動きも単調になるんだな。複雑な技能を連発すると、それに対応して攻撃パターンが変化するのか。確かに俺向きの魔物かもしれない」


 魔物の行動パターンは見切った。今の俺は、集中できている。

 もう負ける要素がないね。

 チクチクと攻撃して行く。

 ………

 ……

 …



「ふう~。27分か……。効果的にシールドバッシュを決めれば敵じゃなかったな」


『ネームドモンスター:墓場の死鳥アンデッドフェニックスの討伐を確認しました』


 今日はもういいだろう。

 俺は、移動系のアイテムを使い街に帰った。



「当然だけど、誰もいないんだな……」


 検証サーバーは、俺一人しかいない状態だった。


 競売所も使えない状態だ。繋がっていないんだな。

 店売り品は買えるので、人気のアイテムを買い占めてもいいかもしんない。

 元のサーバーに戻れれば、加工して大儲けだ。


「まあ、戻れる保証はないけどね」


 アバターキャラごとテスターになったんだと思おう。

 それに、もうお金を気にする必要もない。

 妹を養えるだけの賃金も手に入るし、テイクアウトを頼めば、自宅に戻っても美味しいご飯が食べられる。


『お疲れさまでした。本日は終了となります』


 ここで、時間切れみたいだ。送迎があるので、残業はできない。

 俺は、ゴーグルを外した。



「まだ、15時か……。なんで、業務終了の連絡がきたんだ?」


 数回失敗したけど、早かったと思う。

 妹は、今頃配信してんのかな?


 気になったので、配信動画の検索をかける……。


「この人かな? タイトルに『大型新人』ってあるし」


 配信を見てみることにした。


「「「きゃ~はははっ。新人ちゃん面白い~」」」

「えへへ、本当にあったんよ」


 俺は、秒で配信を閉じた。

 女性の甲高い声は苦手だ。

 それと……、妹の声を確認した。


「大丈夫そうだな」


 楽しく配信していそうだ。パイセンさん達、妹をお願いします。

 ここで辻さんが来た。


「おつかれさま。この後どうします?」


「外の空気を吸って来てもいいですか? ちょっと、日光を浴びたいです」


「ふむ? 意外ですね……。妹さんの配信を視聴するモノだと思っていました」


「あんな甲高い声は、聴きたくないんです」


 辻さんは、大笑いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る