第8話 妹の才能
「こんな遅くに済まないね」
「はあ……。まあ、どうぞ」
後藤さんと水樹さんを家に上げる。
「妹よ、ちょっと勉強しててくれ。仕事の話なんだ」
「う……、うん」
ここで、後藤さんが待ったをかけた。
「いや、同席してもらおう。第三者の意見も聞きたいのでね。学生の意見は、貴重で新鮮なんだ」
なんだろう? もしかしたら解雇か?
俺と妹、後藤さんと水樹さんで卓を囲む。お茶は、水樹さんが入れてくれた。
うん、茶葉の量が適度で上手い。粗茶と水道水でも、こんな味が出せるんだな。
「時間も遅いし、本題に入ろう」
後藤さんがそう言うと、水樹さんがボイスレコーダーを出した。
音声が再生される。
──カチ
『ま、まず装備ですが、雷系を中心に武器防具を選ぶでいあす。短剣のダメージもありばすが、属性ダメージの蓄積が、メインのダメージソーズとなります』
──カチ
ふう~。昼に録音した俺の説明文じゃん。自分で自分の声を聴いて、さらに落ち込む。
恥ずかしい。
俺は、頭を抱えた。
「ぷっ。噛み噛みじゃん。だっさ」
妹を睨みつける。
「映像部が混乱していてね。我が社が契約している配信者を使う方向で話が進んでいる。だが、私は君に期待しているんだ。そこで契約外になるのだが、ボイストレーニングを受けてみないかね? 将来的に、バーチャル配信者になるくらいの目標を持ってもらいたい」
そんな話をしに来たの?
正直、受けたくない。これは、断ろうと思う。
俺は、声に自信がないんだ。カラオケですらいい思い出がなく、もう何年も避け続けている。
「後藤さんっすよね? お兄をどんなに鍛えても、緊張しいは治らんとですよ。お兄は、尖った才能があるけど、その他がダメダメなんで、配信者は無理かな~。でも、動画作成くらいならできんじゃないかと思うっす」
妹が、言われたくない正論を、俺ではなく後藤さんに言い放った。
ぐすん。悲しいぜ、妹よ。
俺の評価は、そんなに低いんだな。
「動画配信というのはね、一回目が重要なんですよ。途中で変えられないモノがあるのでね」
「原稿ある? あーしがやりたい」
ここで、妹からあり得ない提案が出た。
「おい! 配信者になるつもりかよ?」
「ないよ? 放送部のあーしが、お兄に手本を見せるだけ。その緊張しいを治せば、お兄は結構いい線行くと思うんだよね~」
軽くなくディスってない?
それと、妹が配信者になるのには、反対だ。高校中退の未来しか視えない。
「こちらが原稿になります」
水樹さん? 用意良すぎない?
「ふむふむ……。まず~装備っすけど、雷系を中心に武器防具を選ぶんだよ。短剣のダメージもあるちゃあるけど、属性ダメージの蓄積……つうか属性ダメージを積み上げて倒すんす。後は、回避っすね~。ぶっちゃけ反射神経がモノを言うんで、30分間集中できれば、楽勝の相手だよ~。証拠は動画を見てね~」
──ペシ
「
「原稿ちゃんと読めよ! 勝手に変換してんじゃねぇよ!」
「分かってないな~。視聴者の気持ちが分かってないよ。お兄が配信者になっても、確実に伸びない点だね。口語調で配信しないと、ニュース配信と変わんないじゃん? 視聴者の望んでるモノを提供しないとさ」
かっち~ん。(怒)
「まず、ちゃんとした標準語というか、日本語を話せよ! 『あーし』なんて単語は、日本語にねぇんだよ! 人生舐めてんじゃねぇぞ!」
「うっわ……。二十歳のくせに爺くさっ。時代というか、流行に乗れない人の典型的な意見っしょ。それと、あーし、現代国語100点ですけど? 前回の中間テストは、学年総合一位で~す。お兄の成績も知ってんだからね。平均点も取れてなかったの知ってんだかんね~」
もう一発叩こうと思ったけど、躱された。
「お兄さん、落ちついてください!」
水樹さんから制止を受ける。
それと、後藤さんを見た。
「…………ふぅ~。天才だ」
「はっ? うえええぇ?」
妹が、細く微笑んだのも見逃さなかった。
笑みが、小悪魔そのまんまなんだけど。影に尻尾と羽根が付いてないか?
「水樹君。今のを録音しているかな?」
「勿論です」
二個目のボイスレコーダーが出て来た。優秀な秘書とは、こんな人なんだな。
「映像部へ送っておいてくれ。部長には、私から話しておく」
「承知いたしました。ノイズが多そうだともお伝えいただけると、話が速いと思います」
後藤さんが、俺達を見た。
「妹さん……。莉奈さんだったね。どうかな? 動画配信者になる気はないかな?」
「OK~。なるなる。お兄が動画作って、あーしが声入れるね~。人気出るといいな~」
快諾しやがった。少しは、考えろよ。
さっき『ない』って言わなかった? なんで変わってんだよ。
部活でアイドル活動するんじゃないんだぞ?
「保護者として認められません。こいつは、収入源ができれば、必ず高校を中退します! 断言します! 一歩間違えれば、社会不適合者になる人材です!」
「あーし、トンカツ食べたい!」
「う~ん……。今日は火曜日だからね。金曜日に行こうか。金曜日は、我が社の食堂で食べ歩きさせてあげよう。フランス料理フルコースとか食べたくないかな? いや、メニューは料理長に考えさせるか。ふふっ、中学生をもてなすのは、初めての経験だよ」
「わ~い! 後藤さん大好き!」
俺の意見はスルーされた。
それと妹よ。餌付けされてんじゃねぇ。
とりあえず、遅い時間だったので、後藤さん達は帰って行った。
「懐の大きい大人って素敵だよね~」
「食い意地が張っているだけだろうに。時価の寿司とか止めてくれよ」
「優良企業なんしょ? 良い人見つけて、お嫁に行こっかな~」
ダメだこいつ。金のことしか考えていない。
中学生のくせに、パパ活しそうだな。
絶対に止めないといけない。
◇
問題なく、水・木・金曜日が過ぎた。
運営からの討伐依頼はなく、俺は何時もの金策に奔走した。
来月になれば、給料が振り込まれる。そうすれば、人並みの生活が送れるようになるんだ。
ゲームでの金策も後少しのはずだ。
ソルヴァリア・ハンティング3は、落ち着きを取り戻しつつある。
『
攻略の糸口は教えたので、一年後には安定して狩られるようになるんだろうな。
それと、ドロップ品だが、今のところ世界に一個しかないアイテムが手に入った。
売れば凄い額になりそうだけど、少し考えて、俺は誰にも見せないことにした。
倉庫の肥やしだ。
少し出回ってから、競売所に出品しようと思う。もしくは、自分で使うかだな。
武器防具に変えてもいい。目立つ装備になるだろうけど、複数人が装備できている希少装備なら、羨ましがられるだけで済む。
「一個目の出品は、バカみたいな値段で買う奴もいるけど、名前が残る。後で絡まれたくもないしな」
俺は目立ちたくなかった。
それが、例えゲームの世界だとしてもだ。
正直、集団行動が苦手だ。
それなのに、MMORPGにログインするのは、本能的に他人を望んでいるんだろうか……。
──コンコン
ノックが鳴った。
自動ドアが開かれる。
「ふ~ん。お兄はこんな部屋で仕事してんだ……。個室って贅沢じゃない? 似合ってないよ。お兄は、大部屋でミカン箱の机に正座でノートパソコンなイメージだっただけどな~」
兄いじりの飽きない妹だな。何だよ、ミカン箱って。
真っ直ぐにディスるなよ。
「もうすぐ終業時間だからさ、座って待っていてくれ。飲み物は、このカードで無料だ」
「うん。IDカードもらったから、財布に入れてあるよ」
この野郎……。保護者同伴なしで、契約しやがったな。
「そんで、その服装は何だ?」
「あははっ。やっぱ目立つ? 着せられてるかな~」
妹がクルクルと回る。
オーバーサイズのジャンパーに、少し脚の見えるスカートだ。色は、青の原色系で着熟しが難しいと思うが、自然と着こなしている。
新品ぽいっけど、クレジットカードと勘違いしてないか? 成人するまでは、クレジットカードは作れないんだぞ?
「私がコーディネートいたしました。先ほど写真を撮り、ファッション紙に乗せる契約も行いましたので、そのお礼です」
「水樹さん? ファッション誌? あんまり目立つ行動は避けてほしいのですが」
「カメラマンとプロデューサーに見つかり、一枚だけとの契約でしたので。雑誌の隅に一枚だけです。そんなには、騒ぎにならないと思います」
「あーしの魅力は、隠せなかったみたいなんよね~。ゲーノージンオーラってやつ?」
反対は、できないな。俺の経済力のなさで、不自由を強いていたんだし。
オシャレしたい年頃なんだろう。
それと、水樹さんが置いた紙袋が見えた。
(化粧品を買い込んだのか。そうだよな、ほしかったんだろうな)
俺に対しては、暴言を吐くけど、生活の不満は聞いたことがなかった。
できた妹だったんだな。
今更ながら知ったよ。
「お兄! 水樹さんのストッキング凝視してないで、ゲームに戻りなよ。仕事なんしょ!」
視線を下げただけだぞ。なんでそんな発想になる?
この、兄ディスりは、どうやったら改善するんだろうか……。
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