ステータスが∞の俺は、異世界で無双する

一ノ瀬和葉

第1話 転生と初依頼

俺は――トラックに轢かれて死んだ。


……いや、マジで。


残業を終えて、ふらふらと深夜の国道を歩いていたら、急に眩しいライトが迫ってきて――その次の瞬間、全身に衝撃が走って、気づいたら真っ白な空間に立っていた。


「……え、死んだの? 俺」


思わず口から出た言葉はそれだけだった。


ブラック企業で日々をすり減らしてきた俺、叶目タケル(二十五歳)。

彼女なし、趣味なし、金もなし。あったのは残業と過労と絶望感。


「……まあ、死んで正解だったかもな」


なんて自虐してたら、突然声がした。


「叶目タケルさん」


振り返ると――そこに立っていたのは、長い金髪に青い瞳、まばゆい白いドレスをまとった美少女。いや、美少女なんてもんじゃない、完璧に整った顔立ちと、透き通るようなオーラ。一目見ただけで「これは人間じゃない」と分かる。


「……あなた、誰ですか?」


「私は女神です。あなたは前世でボロ雑巾のように働かされた挙げ句、かなり可哀想な死に方をしましたので、私が転生の機会を与えに来ました」


女神か……テンプレだな。

漫画やラノベで読みまくったあの展開。

ほっぺを叩いてみたが頬にジーンとした痛みが残った。


「マジで転生できるの? 夢じゃなくて本当に異世界に?」


「はい。魔法とかが存在するあの世界です」


「SHAAAAAAAAA!!!!!!!」


俺は叫びながら、思わずガッツポーズを取っていた。

だってそうだろ?


ブラック企業でボロ雑巾みたいに働いて死ぬより、異世界で冒険者して女の子に囲まれて、らぶらぶちゅっちゅして生きた方が絶対にいいに決まってる。


「で、チートは?」


「……要求が早いですね」


女神は苦笑して、ぱちんと指を鳴らした。


ステータス画面

―――――――――――――――――

名前:叶目タケル(25)

種族:人間(転生者)

職業:勇者(EX)

レベル:1

HP:∞

MP:∞

攻撃力:∞

防御力:∞

敏捷:∞

運:∞


固有スキル:

・スキルコピー(見たスキルを習得)

・絶対防御(致死ダメージを無効化)

・言語自動理解

―――――――――――――――――


「……いやいやいや! 数値が全部バグってるんだけど!」


「ふふっ。あなたには《最強》の資格がありますから」


「いや、もう最強どころじゃねぇだろこれ! RPGだったらデバッグ案件だぞ!?」


「ですが、それくらいでなければ……あなたの旅は務まりません」


意味深なことを言う女神、まあいい。俺はチートをもらった。それで十分だ。


「よし、異世界ライフ、始めるか!」


そう叫んだ瞬間、俺の視界は光に包まれた。

そして目を開けると――そこは森の中だった。


「……おお、マジで転生した」


足元には土と草、遠くには青い空。鳥のさえずりも聞こえるてきて、会社の灰色の世界とは大違いだ。


「やべぇ、めっちゃワクワクしてきた!」


そう言った瞬間、俺の耳にさっそく不穏な音が飛び込んできた。


「ギィィィィィ……!」


茂みから現れたのは、醜悪な緑の肌に牙を持つ、まさにゲームで見たことあるアレ。


「……オークかよ」


しかも数は五匹。

普通の冒険者なら逃げ出す状況だろう。


「……いやでも、俺、最強らしいからな」


俺は試しに右手を軽く振ってみた。


ズバァァァァンッ!!


空気が爆ぜ、オークたちがまとめて粉々になった。


「……チート、やべぇな」


そんなことを思っていたら、奥から声が聞こえた。

声のする方へ向かうと、少女が一人、木の根元で怯えていた。

栗色の髪を揺らし、必死にオークから逃げていたらしい。


俺は颯爽と歩み寄り、笑って言った。


「大丈夫か? もう安全だ」


少女はぽかんと俺を見つめ――やがて涙を浮かべて叫んだ。


「ありがとうございますっ!」


その瞬間、俺は思った。


――これだよ。俺が欲しかったのは。

冒険、ヒロイン、そして俺TUEEE。第二の人生、最高のスタートだ。


少女――あとで名前がリーナだと分かるんだけど――は俺にしがみつくみたいにして泣いていた。


「怖かった……オークが、村を……」

「村? お前の住んでるところか?」

「はい……! 早く戻らないと、みんなが……!」


……はい、きました。

最初の「チュートリアルイベント」って感じのやつだな。


俺はうなずき、リーナを抱き上げた。

軽っ! マジで羽根みたいに軽い。


「任せろ。俺がまとめて片付けてやる」


「えっ……ひとりで? あ、あんなオークの群れを!?」


「大丈夫。俺、強いから」


村に戻ると、オークの群れが家々を燃やしていた。

村人たちは必死に逃げ回っていて、ひどい状況だった。


「……うっわ、火事場泥棒どころじゃねえな」


俺は指を鳴らした。


ドォォォォォン!!


衝撃波みたいなものが走って、オークどもがまとめて消し飛んだ。

それと同時に風力で火が全て消え、被害は最小に抑えられた。


「……うん。やっぱりバランス崩壊してんな」


「な、なんですか今の!? 一瞬で……しかも火も消えてるし…」


リーナが目を丸くして俺を見るので、俺は唇ん端を上げ、ものすごいドヤ顔で親指を立てて言った。


「俺の必殺技だ」


もちろん適当。ほんとはただ「軽く指を鳴らした」だけで、自分も実際よくわかってない。


村人たちが次々と駆け寄ってきた。


「おおっ!? 若者よ、助けてくれたのか!」

「すごい……オークが一瞬で……!」

「救世主だ!」


わあわあと歓声があがり、俺はちょっと照れながら手を振った。


「いや、たいしたことないっすよ」


……いや、嘘だな。全然たいしたことあるわ。


その日の夜。

村人たちは宴を開いてくれた。焚き火のまわりで踊り、歌い、酒を飲む。

俺は囲まれて質問攻めだった。


「お前はどこから来たんだ?」

「どうやってあんな力を?」


嬉しい質問攻めにニヤニヤしながら答える。


「えーと、まあ、遠い国から来たってことにしといてくれ。力は……そうだな、天から授かった感じ?」


「おお……やはり勇者か!」


……お、いい響きだな。勇者。

俺の職業も《勇者(EX)》って書いてあったし、間違ってはない。


リーナは俺の隣に座って、食事をよそってくれた。

なんかもう、完全に新婚っぽい。最高。


「……あの、改めて、助けていただいてありがとうございました」


「気にすんな。困ってるやつを助けるのは勇者の仕事だ」


「勇者様……」


リーナの目がきらきらと輝き、俺を見つめる。これ、フラグ立ったな。


翌日。

村長に紹介されて、俺は冒険者ギルドに行くことになった。

この辺りじゃ一番大きな街にあるらしい。


「ギルド……きたぁ!」


テンション爆上がりだった。だって、冒険者ギルドって異世界ファンタジーの象徴だろ?


ギルドの扉を開けた瞬間、いきなりガラの悪い冒険者たちに絡まれた。


「なんだお前、新顔か?」

「ひ弱そうな格好してるなぁ」


テンプレ展開だな。

俺はニヤリと笑って答えた。


「俺、昨日オーク百体くらい一瞬で倒したけど?」


「……は?」


一瞬で空気が変わり、周囲の冒険者たちがざわざわし始めた。


「オーク百体?嘘に決まっているだろww」

「そんな馬鹿な事があるかよ」


するとギルドの受付嬢まで身を乗り出してきた。


「ちょ、ちょっと詳しく聞かせてください!」


俺はステータスカードを渡した。

(ちなみに女神からもらった初期アイテムだ)


彼女が読み上げて絶句する。


「レベル……1? でも数値が……∞……!? えっ、壊れてませんかこれ!?」

「いや、正常。俺が最強なだけ」


ドヤッ。


その後、俺は初依頼を受けることになった。

内容は「近郊の洞窟に出るゴブリン退治」。


「俺ひとりで余裕だろ」


でも、かわいいりリーナちゃんが心配そうに付いてくると言ったので、一緒に行くことにした。


洞窟に入ると、ゴブリンがわらわら出てきた。


「ギィィィ!」

「シャアァッ!」


……まあ、雑魚だな。

それじゃあ、お決まりの最強指パッチン言っちゃいますか!


俺は指をパチンと鳴らした。


ドォォォォォン!!


洞窟の奥まで一瞬で吹っ飛んでいき、ゴブリン全滅。そして壁にでっけえ穴が空いた。


「……お、お兄さん、やりすぎです」

「大は小を兼ねるってやつだ」

「そういう問題じゃないと思います!」


リーナが必死にツッコミを入れてくる。なんかこのやり取り、ちょっと楽しい。

前世ではこんな可愛い女の子と喋ることはなかったからな。


依頼は余裕で完了した。

ギルドに戻ったらみんなが口をあんぐり開けていた。


「ゴブリンの洞窟、もう壊滅したのか!?」

「信じられねぇ……」


受付嬢は慌てて書類を見直していた。


「……本当に一瞬で……」


「まあな」


俺は片目をつぶって答えた。


こうして俺の冒険者生活は始まった。


チート最強の力、

可愛いヒロインとの出会い、

そして――魔王との戦いに向けた長い旅が、ここから始まる。

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