著作権とAIに関するエッセイ

和泉将樹@猫部

序章 よくある争点のまとめ

 本章は後から追加したものになります。


 エッセイ全体が五万文字ほどになってしまい、最近の話題に対する結論が先に知りたいという人のための要約とお考え下さい。

 AIと著作権とかの関連がどうなってるのかを、最近よくSNSでみる争点に絞って参考になる情報を掲示します。

 根拠が知りたければ本文を読んでください。


① AIの学習は現時点で合法

 ただし国によって事情が違います。

 アメリカは『現時点では』フェアユースが認められているという前提でAIへの学習を行っています。

 しかし、ここは裁判で現在争われている争点でもあり、覆る可能性もあります。

 その場合、過去に遡って著作権侵害の責任が追及される可能性があります。


 対して日本は、法的に合法であることを定義しています。

 ただし、著作権法第30条の4の但し書き(著作権者の利益を不当に害する場合)に該当すると証明された場合には違法となるでしょうが、これはかなり難しいですし、違法判断はそのAIの、それも個別の学習案件に対してのものであり、他のAIの違法判断に影響を与えることはありません。


② アメリカの生成AIの学習に日本の著作権法を持ち出すのは無意味

 著作権は『属地主義』であり、アメリカで行われた学習はアメリカの法律でしか裁けません。

 なので、SNSで日本の著作権法を持ち出して論じる人がいますが、おそらくその人らが念頭に置いているのはアメリカの生成AIでしょう。なので、全くの無意味です。やるならフェアユースの議論を持ち出すべきです。

 なお、日本の生成AIは①で述べたように現状合法です。


③ 利用者が生成AIに他者の著作物を許諾なしにアップロードすることは違法

 日本においても、Googleドライブへのアップロードすらグレーゾーンです(共有設定次第では明確に違法となる)

 そして生成AIに他者の著作物をアップロードすることは、ほぼ違法と判断されます。

 なお、AI管理者が行う機械学習のためのアップロードは個人利用とは全く違う考え方で対応されるものであり、同じだとは考えないようにしてください。


④ 二次創作は本来は違法

 これは二次創作をやってる人は大体認識してると思いたいですが。

 ただし、ガイドラインが提示されている場合は、それに従っている限りは許諾を得ているのと同じ状態になるので、違法ではありません。

 また、慣習的に著作物の価値に影響を与えない範囲(コミケなどの販売含む)であれば見逃されている(訴訟になることはほぼない)のが実情です。


⑤ 生成AIを使うことは合法

 何を使おうが、日本の法律では作り出したものに対しては他者の著作権を侵害しているという判断がされない限りは、合法です。

 その判断は『類似性(似ているか)』『依拠性(AIまたは利用者が知っていたか)』の二つで争われますが、AIを使うとAIが知っていた(学習していた)場合は依拠性はありと判断される可能性がかなり高くなり、訴訟された場合に不利になる恐れがあります(ただし、その責任が利用者に課せられるかはまだ確定していません)


⑥ 著作権法30条と30条の4は対象が違う

 壮絶に勘違いしてた人がいたので言及しておきます。

 30条の私的利用は、著作物の複製を個人または同居の家族と共有する程度であれば認めるというものです。認めているのは複製のみで、対象は個人です。

 対して30条の4はAIを運用する事業者や研究機関などが対象で、AIの機械学習を明確に合法化している、世界でもかなり珍しい条文です。ただ、これはので注意してください。


 条文番号が同じ30条とあるので紛らわしいですが、これは『似た内容の条文は近い場所に置きたい』という目的と、条文番号を追加することで後に続く条項の番号を変えないための工夫です。なので『の4』などとついてたら、全く別の条文だと考えましょう。

 本来であれば条文番号が違うものです。近いことを定めているため関係があるように見えますが、全く違うことを定めた条文なので混同しないようご注意ください。

 なお、この条文の枝番を付けるやり方は、海外でもよくある話です。


⑦ 生成AIに関する法律は、著作権法の改正等で対応されている

 なぜか生成AIにたいして『法律がないから悪い』的なことをいう方がいますが、実際にはそんなことは全くありません。

 生成AIについて日本では学習、生成の二段階に分けて考えています。そして学習時は、第30条の4で明記されていて、現状、例えば(これがメインではありますが)AIの性能の向上のために著作物を情報として取り込むというような、『著作物本来の享受を自身および他人に対してしない非享受目的の利用』であれば、但し書きに抵触しない限りは合法となってます。

 つまり、取り込んだ著作物を直接実施者(AI事業者)が楽しんだり、あるいは他者にそのまま提供するのではなく、それを情報として取り込むのであれば、基本的に合法なのです。

 これ自体が著作権侵害だという議論をしたいなら、法改正の運動(署名集め等)を行うしかありませんが、法的な整合性をとるのは難しいでしょう。

 むろん米国などの裁判の流れ次第では変わる可能性もありますが、現状合法なのを変えるのは極めて困難でしょう。


 そして生成に関しては、現行の著作権法で十分対応可能です。

 もし、著作権侵害してると思われる生成物を公開されたら、まずは法律の無料相談などに行く方が建設的です(無料でも侵害申告や差し止め請求など、とるべき手続きを教えてくれるでしょう)

 実際にそれでAI事業者と交渉して著作権侵害に対して抑制処理をしてもらった事例は、日本でも存在します。


 むろん完全に十分かといえば、不足だと思えることがないわけではなく、それは今後の議論を待つべきですが、現時点ないというのはやや言い過ぎかと思います。

 なお、生成AI自体が違法だから規制する法律がないなどという意見は、さすがに問題外です。

 それはAI研究者及びその学問・技術それ自体をすべて否定する行為であり、その理不尽さはさすがに理解できるかと思います。





 とりあえずこんなとこで。

 ほかにも『これはここに提示してほしい』というケースがあったら、リクエストには応じます。


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