第5章 私的利用とフェアユースとは
本項では、日本の著作権法における著作権制限規定『私的利用』(著作権法第30条)と、それに似た概念であるアメリカの『フェアユース』(米国著作権法107条)について説明します。
ちなみに、ヨーロッパ(EU)にもこういう共通概念は漠然としたものはなくもないのですが、いったん割愛させていただきます。
【日本の『私的利用』について】
これは著作権法第30条に定義されています。
以下にあるので、条文見たい人はアクセスして確認してください。
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048#Mp-Ch_2-Se_3-Ss_5-At_30
30条はタイトルにある通り、『私的利用のための複製』について定めています。
ざっくり言うと、いくつかの条件に該当しない限り、かつ自分自身または家庭内で共有する範囲においては、本来著作権者のみに許されているはずの著作物を『複製』することを認めるという、著作権の制限規定です。
ここでいう『複製』とは、具体的にはデジタルデータをそのまま個人のストレージに保存する、または印刷するなどの行為です。
ただし、認められないケースがいくつかあり、それが以下になります。
① 誰でも使える機器(コンビニや図書館のコピー機等)で複製すること
② 市販のソフトのコピーガードを破って複製すること
③ 許諾のない違法コピーされたものだと知っていて複製すること
④ 許諾のない違法アップロードされたものと知っていてダウンロードすること
上記に該当する場合は『私的利用』とはみなされません。
ただし、③④については、違法な著作物だと知らなかった場合は、私的利用とは認められ、著作権侵害(刑事罰)の対象にはなりません(著作権法第30条2項)
これは、例えば本物のように振る舞って違法に販売しているサイトの被害者などに著作権侵害を問うことはしないための措置で、明らかに違法だとわかるサイトを利用している場合はその限りではありませんのでご注意ください。
また、知らなかったというその程度により、民事上の責任を負う可能性もありますが(民法709条)、よほど分かりやすい場合を除けばあまりあることではありません。
とはいえ、疑わしいサイトは使わないに限りますね。
また、①は図書館での部分的なコピーは認められています(著作権法第31条)
なお、第30条3項は保証金制度なので、通常普通の人が意識することはないため割愛します。
さて。
ここで大事なのは、私的利用として認められているのは『複製権(第21条に定義)』だけということです。実質『私的複製』と言い換えてもいいでしょう。
著作権には他にも多数の権利が存在しますが、そのうち著作権の制限規定が適用されるのは、『個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内においての複製』に限るということです(前述した適用外条項に該当しないとする)
つまり、ネットワークを経由して共有することは、私的利用の範囲外です(これらは公衆送信権など、別の権利を侵害しうる行為とされます)
微妙なのはスマホで持ち歩いて他人に見せることですが、スマホはあくまで個人のものなので、私的利用の範囲内と考えるのが一般的です(ただしやり過ぎると私的利用の適用外となることもあり得るので注意)
そして複製以外は認められていないので、それに手を加えることは認められていません。この辺りは、次項のケース一覧でも説明します。
つまり、日本における私的利用は、以下のように定義できます。
==========
自身またはその家庭内(スマホを含めると行動範囲内となるが)においてのみ閲覧できる状態とするなら、違法に取得したものでない限りは著作物の複製を許可する。
==========
なお、それ以外の例外も一応書いておきます。
31条は図書館等における複製についての規定。
32条では引用及び国等の周知目的資料についての記載があります。
報道、批評、研究その他の目的で正しく引用していれば引用を認めること、及び周知目的資料については新聞雑誌その他の刊行物について、それを禁止していなければ転載出来ることが書かれています。
33条から43条までは、教育や報道など公益性の高い特定の目的のために、複製や公衆送信などが例外的にできるパターンについて規定されています。
正直に言えば、一般人はあまり関係ありません。学校関連が関わるくらいでしょうか。実際、学校で本とかコピーしたことがある人は多いと思いますが、あれはちゃんと規程があって許諾された行為だったんですね。
【アメリカのフェアユース】
アメリカのフェアユース(fair use)の考え自体は、十九世紀中頃、1841年に最初に提示され、以後判例を重ねて確立したとされています。
このフェアユースに該当する場合、アメリカでは著作物を利用しても、著作権違反に当たらない、とされます。
日本の著作権法における例外規定に近い概念ですが、日本とは異なり、複製以外も対象としていること、日本のように法律条文に細かく規定があるわけではなく、その都度当該事案がフェアユースに該当するかを判断するとされています。
フェアユースに関する記述は、アメリカの著作権法の107条に記載されていますが、下記に述べる条件が明記されているだけで、具体的な判断は司法が行うことになっています。
これの利点は、日本のようにきっちり定まっているわけではないので、新しい利用形態が出てきてもその都度解釈できること。また、一度はフェアユースと認められた行為でも、技術の進歩や市場の変化によって認められないケースがあるなど、柔軟な運用が可能なこと。
欠点は、フェアユースであるかはっきりしない場合には裁判所が判断するわけですが、その裁判に時間がかかることです。
基本的な考え方としては、以下の四つの要素に応じてその案件がフェアユースであるか、そうではないかを判断するとされています。
① 利用の目的と性格
その著作物を利用する目的が何かという点です。
元の著作物とは違う目的で用いられる場合などは、トランスフォーマティブな利用(transformative use、『変容性利用』『変形的利用』と訳される)で、元の著作物の市場を代替・侵害しない場合は、フェアユース判断が肯定的になるそうです。なので、仮に営利目的での利用でも、その利用が元の著作物の権利(営利的な意味で)を侵害しないのであれば、フェアユースとなりえます。
ただ単純に営利、非営利で判断されるものではなく、ケースバイケースで色々判断されるそうです。
例えば、音楽データをかき集めていても、それが『楽器から出る音と演奏会場の関係性を調べる』などといった場合は、音楽から本来享受するものとは違うものを享受する目的のため、フェアユースとみなされたりするわけです。
逆に認められなかった事例では、著作物の正規複製取得費用を節約するための私的複製は、浮いた費用という『営利』を目的としているとされ認められなかったケースもあるそうです。
② 著作権のある著作物の性質
これは比較的わかりやすい要素です。
単純なデータ、あるいは書式の決まっている学術論文、あるいは単純な目的のための著作物(地図等)の場合は、フェアユース判断が肯定的になりやすいです。
逆に芸術性が高いもの(小説、絵、あるいは音楽等)はこの判断は否定的になるようです。
なお、未発表論文などはフェアユースと認められないケースが多いようです。
③ 著作物全体との関係における利用された部分の量及び重要性
これは、その著作物をどの程度、どの部分を利用しているか、という要素です。
例えば大学の講義で図表の一部だけを使う、映画の批評記事のために映画の画面の一部分を使う、などですね。
④ 著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響
分かりやすく言えば、その著作物の利用が、その著作物の持つ価値(あるいは営利)に影響を与えないか、ということです。
これもわかりやすいと言えばわかりやすいでしょう。
例えば、映画の紹介記事などで映画のワンシーンを掲載するなどは、③以外にこちらも該当するでしょう。
また、潜在的利用、つまり将来的な価値(ライセンス料など)が生じた場合にそれに対しても影響がないまたは軽微であると考えられれば、フェアユース判断が肯定的になるそうです。
以上がアメリカにおける著作権の例外規定に相当する、フェアユースの考え方です。四条件のどれがあれば認められる、というものではなく、それぞれの条件で判断し、よりフェアユース的な利用方法であると判断されれば、フェアユースと認められるとなります。
【総括】
以上が日本とアメリカにおける著作権の例外規定の考え方です。
日本もアメリカも、基本的にAIであろうがそれ以外であろうが、この考え方で対応しようとしています。ただし、技術の進歩や社会のありようによって、変化し続けており、未来においても同じであるという保証はありません。
次項では、主に日本において、実際に著作権違反となる微妙なケースに(私的利用だと思いたくなるケース)ついて書いていきます。
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