第13話 新たな奇跡を照らす星

 僕たちは天界への道を登り始めた。足元に広がる白い道は柔らかくて、まるで雲の上を歩いてるようだ。光が周りを包み込んで、チカの羽根がキラキラ輝き、ラクの羽根がふわっと揺れる。どこまでも続く光の空間は静かで、遊園地の喧騒や校舎裏の風とは全然違った。僕の心臓はドキドキしていて、フユに会えるって希望と、彼女がどうしているのか分からないという不安が混じっている。

 しばらく歩くと、そこは果てしない光に満ちた空間だった。白い柱が立ち並び、淡い輝きが漂う。空に浮かぶ門を越え、さらに果てしない白い世界を歩く。

 チカが「もう天界だよ〜! フユちゃん、近いね〜!」って明るく言うけど、ラクが「何か変だねぇ〜」って少し真剣な顔をしている。


 道の果てにたどり着くと、目の前に広がるのは光に満ちた広大な空間だった。白い柱が無数に立っていて、光の粒子がふわふわ浮かんでいる。

「あっ、あそこだよ~!」

 チカが遠くを指差す。遠くに何かが見えて、目を凝らすと、そこにフユがいた。光の檻みたいなものに閉じ込められてて、白い羽根が小さく震えている。


 道を走って、フユに近づく。顔が青白くて、いつもキラキラしてる目がうつろだ。僕、息が止まって、「フユ!」って叫んだ。でも、声が届かない。見えない壁が僕と彼女を隔てていて、手を伸ばしても空気を掴むだけ。

 よく見ると、フユの周りに漂う光が、彼女を縛る鎖みたいに見える。檻の外に浮かぶ文字みたいなものがあるけれど、僕には読めない。

「アキちゃん、フユちゃんは『感情の質量の罪』で収監されてるみたいだよ〜」

「どういうこと!?」

 チカが「なんでも見えるくん」を手に持ったまま、少し考えて説明し始めた。

「アキくん、天界ではね、感情を持ちすぎると重くなっちゃうの〜。天使って感情が薄いのが普通で、人間みたいに喜んだり悲しんだりすると、心が質量を持って重くなるんだよ〜。それが罪ってされて、こうやって閉じ込められちゃうの〜。フユちゃん、アキくんと一緒にいて、感情がいっぱいになっちゃったのかも〜」

 チカの言葉に、頭がぐるぐるした。感情が重いって、フユが幸せだったから? フユの笑顔や温もり、一緒に過ごした時間の楽しさが、フユをこんな目に合わせているのか?

「うん、チカちゃんの言う通りだねぇ〜。天界では感情の質量が大きすぎると、秩序を乱すって考えられるのぉ〜。あくまで天界の規則だから、人間界に居れば大丈夫なはずなんだけどねぇ~……」

 ラクが補足してくれたけど、僕には受け入れられない。フユが苦しむ理由が、僕と過ごした時間だなんて。


「フユ! 聞こえるか!?」

 見えない壁を叩くと、フユがゆっくり顔を上げた。瞳が潤んでて、頬が紅潮してる。僕を見て、一瞬目を丸くしたけど、すぐにまた目を伏せた。フユの声が小さく響く。

「アキ……もうきみには会えないよ」

「フユ!?」

 僕が叫ぶと、フユが光の檻の中で膝を抱えた。羽根が震えて、光が散る。彼女の声が絶望に染まっていて、胸が痛くなった。

「アキと一緒にいると、楽しかったよ。幸せだった。でも、きっとその幸せが重すぎて、天界の天使にそぐわなくなった。きみとはもう会えないんだ……」

「そんなわけないだろ、フユ!」

 僕が叫ぶけど、声が届かないみたいだ。見えない壁が僕を阻んで、フユの絶望が胸に突き刺さる。光の檻がキラキラ輝いて、フユを閉じ込めている。羽根が震えて光が散るたびに、フユの心が重くなってるのが伝わってきた。

「僕にはフユが必要だよ。フユがいないと、毎日が色褪せるんだ」

 呟くと、フユが顔を上げた。瞳が涙で濡れている。彼女が小さく笑って、絶望に満ちた眼にも何か光るものがあった。

「ありがとう、わたしにもアキが必要だよ。でも、この檻が……」

 フユの声が途切れて、光の檻が一瞬強く輝いた。僕は壁に額を押し付けて、フユを見続けた。フユの羽根が光に包まれて、震えるたびに心が重そうだ。感情の質量の罪。天界のルールが彼女を縛ってるなら、僕が何とかしないと。僕が天界まで来れたんだから、何か方法があるはずだ。

「フユ……!」

「アキ──」

 目と目が合う。光の檻も、近くにいるチカとラクも、天界の光も目に入らずに。……その時、何かが変わった。

「……これって?」

 フユの手の上に、淡い光が生じ始める。



 光の檻の中で、わたしはアキを見ていた。光の粒子が周りを漂い、冷たい鎖がわたしを縛る。これまでのアキとの幸せな日々は夢だったんじゃないかって思ってしまい、涙がこぼれる。

 天界の静けさに耐えかねて飛び出していったわたしが、人間界でアキと出会って、一緒に笑って、お菓子を食べて、手を握った。その幸せが重すぎて、ここに閉じ込められたのだとしても。それでも、アキに会いたい、一緒に居たいって気持ちがどんどん強くなる。

「アキ──」

 アキとわたしの目と目が合う。わたしの手が無意識に伸びて、光の中で何か温かいものが生まれた気がした。

「……これって?」

 温かな光は次第に形を成していき、弓矢のような姿に変わっていく。

「これ、わたしの魔導具……?」

 それを手に取った瞬間、わたしを取り巻く光が弾けたように思えた。これまで心の中を支配していた、絶望の感情がすうっと消えていく。

 構えた魔導具から知識が流れ込んでくる。どんな力があるのかも、今何をするべきなのかも。

 ふと、チカの言葉を思い出す。「魔導具がなくてもさ……フユちゃんにはアキくんって大事なものがあるもんね〜!」って、今思うと完全にその通りだった。

 だってほら、アキが隣に居てくれるなら、どんなことでもできそうだから。

「アキ、わたしは……」

 感情を矢と撃ち放つ、弓を象るわたしの光。その真名は──

「……きみと、一緒に生きていたい!」

 ──「きみの心を撃ち抜くおまじない」。

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