第12話 君に光の射す道を

 遊園地は、昨日と同じように賑やかだった。ライトがキラキラ光って、ジェットコースターの轟音が空に響く。ポップコーンやチュロスの甘い匂いが漂って、子供たちの笑い声が耳に届く。そんな楽しげな雰囲気とは裏腹に、胸の焦りが収まらない。

 僕たちはフユの手がかりを探すためにここに来ていた。チカが「遊園地で何か見つかるかも〜!」って提案して、ラクが「うん、フユちゃんの気配があるかもねぇ〜」と賛成したからだ。僕も、フユとの思い出が詰まった場所なら何かあるかもしれないって思った。


 入口を抜けると、観覧車がゆっくり回ってるのが見える。昨夜、フユと一緒に乗ったゴンドラでの時間が頭に蘇った。彼女が「この高さは心の距離を測るみたいだよ」って呟いて、僕に寄りかかってきた瞬間。夜景が広がる中、彼女の手を握った温もりがまだ手に残っている。ジェットコースターに乗った時のことも思い出した。フユが「この速度って時間が歪んでるみたいだね」って哲学的なことを言って、僕の手をぎゅっと握っていた。チカの「きゃ〜、楽しい〜!」って叫び声が耳に響いてたっけ。あの時間が、今は遠く感じる。

「アキくん、フユちゃんの手がかり探してくよ〜!」

 チカが「なんでも見えるくん」を手に持って、弾んだ声で言った。彼女の星みたいな翼が遊園地の光に照らされてキラキラ輝いてる。僕が「うん、お願い」って言うと、チカがレンズを覗き込んで、あちこち見回し始めた。遊園地の喧騒が僕たちを包む中、僕はフユの姿を想像してた。彼女の白い羽根が光って、にひひって笑う顔。

 でも、チカが「う〜ん……」って眉を寄せた。

「見つからないよ〜。何かあったら見えるとは思うんだけど……」

「やっぱりか……」

 僕の声が小さく震えるのがわかる。ラクが僕の肩に手を置いて、ふわっとした声で言った。

「アキちゃん、もっと高いところから探してみようよぉ〜。フユちゃんの気配、感じるかもしれないよぉ〜」

「高いところ?」

 僕が聞き返すと、ラクが笑う。

「わたしが抱えて飛ぶよぉ〜」

 彼女のわたあめのような羽根が揺れて、甘い匂いが漂う。僕が「わかった、お願い」って頼むと、ラクが僕の腰に腕を回した。次の瞬間、地面が離れて、僕たちは空に浮かぶ。

 風が当たるのを感じて、遊園地の光が下に遠ざかる。ラクの羽根が僕を支えて、フユに抱えられた時とは違う、ふわっとした感触が不思議だった。

 そのまま観覧車の頂上まで向かう。フユと一緒に観覧車で見た夜景が重なって、胸が締め付けられた。風が強くなって、僕の髪が乱れる。でも、フユの気配は感じられない。二人が励ましてくれるけれど、僕の心は重いままだ。

 

 結局、遊園地では手がかりが見つからず、僕らは家に戻った。窓から入ると、部屋はどこまでも静かだった。そんな中、キッチンのオーブンから微かにクッキーの残り香が漂ってきて、フユと一緒に作った時の記憶が蘇る。彼女が生地に粉をつけて笑って、「お菓子作りは創造力が形になる瞬間だよ」って言っていた。洗って干された道具やまな板を見ていると、胸が締め付けられた。

 チカが「フユちゃんの匂いだね〜」と呟き、ラクが「ちゃんとここにいたねぇ〜」と優しく言う。

 布団に近づくと、フユの羽根が一本だけ落ちていて、柔らかい感触が指先に残る。お風呂での笑い声も頭に浮かんだ。チカが「アキくんも呼んじゃう〜?」ってフユをからかって、フユが慌てていた。あの時の温かい湯気や、彼女たちの残り香がまだバスルームに残ってる気がして、寂しさが込み上げる。あの時間が、今は遠い夢みたいだ。


 夕陽が校舎裏をオレンジ色に染める頃、僕たちはそこに立っていた。遊園地や家でフユの手がかりを探しても見つからず、最後に思いついたのが学校だった。

 コンクリートの壁に夕陽が反射して、長い影が地面に伸びる。風がそっと吹いて、遠くのグラウンドから部活の声がかすかに聞こえる。チカの星みたいな翼が夕陽に照らされてキラキラ光って、ラクのわたあめのような羽根が甘い匂いを漂わせていた。でも、一番求めている羽根の輝きは、ここにはない。

 僕の胸は焦りと期待でいっぱいで、フユとの思い出が頭をよぎる。ここは、フユと初めて会った場所だ。あの時、彼女が校舎の角から現れて、「お菓子持ってない?」って早口で聞いてきた。夕陽に照らされたフユの頬が少し紅潮してて、「きっと運命がこの出会いを導いたってことだよ」って変なことを言って、にひひって笑った顔が、今でもはっきり思い出せる。

 あの出会いが、僕の毎日を変えた。平凡だった放課後が、フユのおかげで色づいたんだ。


「アキくん、ここでフユちゃんに会ったんだよね〜」

 チカが「なんでも見えるくん」を手に持って、弾んだ声で言った。彼女の翼が揺れて、夕陽を跳ね返すように光が散る。

「うん、フユちゃんの気配が残ってるかもねぇ〜」

「ここなら何かあるかもしれない」

 僕がそう言うと、チカがレンズを覗き込んで、校舎裏を見回し始めた。コンクリートの冷たい感触が靴を通して伝わって、夕陽が壁に反射する光が目を眩ませる。僕はフユの姿を想像していた。フユがここに立って、僕に笑いかける姿を。

 チカが「う〜ん……?」って眉を寄せた。

「なんか変な光が見えるね〜、なんだろ~?」

「変な光?」

 僕が聞き返すと、チカがレンズを僕に渡してきた。覗いてみると、確かに何か光っている。コンクリートの壁の近く、夕陽の光とは違う、柔らかくて白い光が浮かんでた。キラキラしてて、フユの羽根みたいな輝きがある。僕が「何だこれ?」って呟くと、ラクが近づいてきて、ふわっとした声で言った。

「アキちゃん、それ、天界の光かもねぇ〜。フユちゃんがいた場所に残ってるのかもよぉ〜」

「天界の……光?」

 僕が驚くと、チカが目を輝かせて叫んだ。

「そっか、天界の光だよ〜! フユちゃんが天界に連れ戻されたのなら、ここに道が開いてるのかも〜!」

 チカの声が弾んで、羽根がパタパタと揺れる。

「アキちゃん、近づいてみてねぇ〜」

 ラクが僕の背中をそっと押した。僕は光に近づいて、コンクリートの壁の前で立ち止まる。光はふわっと浮かんでいて、夕陽が校舎裏を染める中、その白い光が不思議な温かさを放つ。

 フユとの初対面が脳裏に蘇る。彼女が「アキ、お菓子持ってない?」って聞いてきて、僕が戸惑った瞬間。

 ──きっとあの時から、僕はフユに惹かれてたんだ。

「……フユ」

 呟きながら、僕は光に手を伸ばした。指先が触れた瞬間、解けるように渦巻く白い光が広がり、そのままコンクリートの地面に階段のような形を描いていく。風が強くなって、夕陽の光と混じり合った白い輝きが僕を包んだ。驚きで息が止まりそうになって、チカとラクを見る。

 チカが「わ〜、すごいよ〜!」と手を叩きながら喜び、ラクが「天界への道だねぇ〜」って目を細める。

「天界への道……!」

 僕が声を上げると、チカが「なんでも見えるくん」を手に持って、光を覗き込んだ。

「うん、この先は天界だよ〜! フユちゃんが連れ戻されたなら、この先にいるかも〜!」

 チカの羽根が弾んで、夕陽に光が散る。

「アキちゃんの気持ちが道を開いたねぇ〜。フユちゃんのこと、大好きだからだよぉ〜」

 ラクが僕の肩に手を置いて、ふわっとした声で言った。

 

 光がキラキラ輝いて、道の形が安定しだした。コンクリートの地面に白い輝きが広がって、天界への入り口がはっきり見える。

「フユ、待ってて。絶対見つけるから」

 そう呟くと、光が一瞬強く輝いた。

「アキくん、フユちゃんのこと大好きだね〜!」ってチカが笑って、ラクが「うん、アキちゃんの気持ち、すごいねぇ〜」って頷く。僕は光を見つめて、彼女の笑顔を思い浮かべた。

 校舎裏での出会いが、僕とフユの始まりだった。この光がフユへの道なら、進むしかない。焦りと期待が混じり合って、胸が熱くなる。

 道を登った先のことはまだわからない。ただ、フユを迎えに行くという決心だけを抱えて、天界への一歩を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る