第19話

今日は、久し振りに徹とのデートである。

徹の車でドライブに行ってきた。

だが、その帰り道。

高速道路で渋滞に巻き込まれ、車は遅々として進まない。事故でもあったのだろうか。

車中、二人は無言であった。

渋滞による苛つきもあるのだろうが、思えば、今日のデートの最中、二人とも口数が少なかった気がする。


原因は、わかっている。

〈FortunaMail〉の選択肢の結果、綾子は徹の電話に出ないことが何度かあった。徹からのメールを無視する事もあった。

デートのたびにいつも付けていたバレッタもしていない。

徹が困惑するのも、理解できる。

だけど、優しい徹なら、きっと笑って許してくれることだろう。


と、その時、綾子の携帯電話にメールが着信する。

〈FortunaMail〉だ。

綾子は、急ぎ内容を確認する。

一身に携帯電話を覗き込む綾子に、徹が話しかける。

「なあ、綾子。」

「なぁに?」

携帯の画面を凝視しながら、綾子は返事を返す。

「あのバレッタ。どうして最近付けてないんだい。」

綾子は、徹の方を見向きもせずに答える。

「うん。ちょっとね。どうでもいいじゃない。そんな事。」

綾子は、徹の質問を適当にはぐらかす。

「どうでもいい、か…。」

そう言って、徹は押し黙る。それ以上は追求してこなかった。


徹との会話が済んでも、綾子は携帯電話の画面から目を離す事はなかった。

なぜなら、先程着信した〈FortunaMail〉のメッセージには、


ーーーーーーーーーーーー

① 徹に冷たくしろ +5P

② 徹と目を合わせるな 0P

③ 徹に謝る -20P

ーーーーーーーーーーーー

と書かれていたからだ。


私は〈FortunaMail〉に従っている。間違ったことはしていない。

だが〈FortunaMail〉の指示通りにしているはずなのに、綾子の心の一部分は、困惑していた。

…なぜだろう。

〈FortunaMail〉の選択肢の通りにしていれば、私は幸せになれるはず。

なのに、なんで胸が痛むの? なんでだ?

ふと綾子は、押し黙っている徹に、声をかけた。

「ねえ。徹。運命って、信じる?」

「え?」

いきなりの質問に、当惑する徹。

「…〈FortunaMail〉って、知ってる?」

「フォル…なんだって?」

「ううん。いいの。なんでもない。」

それきり、綾子は黙る。

徹と綾子の二人がいる車中は、無言と困惑が包んでいた。


だが、綾子は、気付かなかった。

〈FortunaMail〉の名を出して以降、徹が明らかに動揺していたことを。

そして、綾子が携帯を握りしめている姿を、運転をしながらも不安な眼差しを向けていたことを。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る