第5話
「昨日の夜ね…」
仕事帰り。友人の紀江と合流した綾子は、二駅前のファミリー居酒屋に入る。
派手にトッピングのされたサワーを飲みながら、綾子は昨日の高田との出来事を紀江に話す。
「なにそれ! とんでもないロクデナシだね! 許せない!」
紀江は大声で叫ぶ。
「ちょっと! 他のお客さんもいるんだから、大声出さないでよ。恥ずかしいよ。」
と、綾子は紀江に言うが、紀子は興奮しながら、
「まあ、綾子には悪いけど、あの高田っていう男は性根が腐ってるんだよ。もし、これからも付き合っていたら、綾子はもっと辛い思いをしたと思うよ。別れて正解だよ。」
と、高田をこき下ろしつつ、綾子を慰める。
紀江は、綾子の事を、本気で案じてくれている。
ちょっと感情表現が大げさだけど、綾子は規江のそのまっすぐな想いが、とても嬉しかった。
「しっかし、アタシたちの付き合いも、七年経つけど、つくづく、綾子は男運が無いね。」
紀江が言う。紀子とは、大学で知り合った。
社会人になってから五年経った今でも、気軽に付き合えている大切な友人だ。
「綾子は可愛いのに、どうして男運がないんだろうね。珍しく男ができれば碌でもない奴ばかりだし。」
「紀江こそ、前の彼氏、どうしたの? 別れたとは聞いたけど。」
「相性が悪かったみたい。車バカだったから、アタシよりも車が大切みたいでさ。綺麗さっぱり、別れたよ。」
紀江は、いつも前向きだ。
「紀江は彼氏とさっぱりと別れることができて、いいね。私はいつもドロドロだよ…」
綾子が嘆くと、紀江は、
「綾子は、そうやっていつも自分に自信が無いことを言っているから、いけないんだよ。あと、男に尽し過ぎ。だから彼氏がつけあがる。」
と、笑いながら言う。
綾子も負けずに
「紀江は、いつもハッキリ物事を言い過ぎるから、長続きしないんだね。」
と、紀江に言い返す。
「いやいや、最近のアタシは、神様が舞い降りたんじゃないかってほど幸運が続いてるんだ。だから、次は絶対、大丈夫!」
「その自信、どこからくるのよ…」
レストランに、2人の笑い声が響いた。
昨夜の、一人ぼっちどうしようもないくらい落ち込んでいた時のファミレスとは大違いだ。
厳しい言葉でも、笑って話せて笑って言える相手。
一緒にいれば、元気になれる相手。
だから紀江は大切な友人だ。
話の最中、携帯をいじりながら、ふと、紀江が呟く。
「ねえ、運命って、信じる?」
「え?」
「運命って、自分の力で、変えれるのかな。もしできるなら、アタシは、変えたい。」
綾子は、紀江の言葉に、その表情に、ドキリとした。
その言葉の最中。紀江の目の色が濁り…色彩を失っているように見えたからだ。
…運命…。
先程の不思議なメールのメッセージを思い出す。
「なーんてね。なに子供っぽい事を言っているんだろうね、アタシは。」
と、紀江は普段どおり、明るく言う。目の色も戻っている。
綾子は、さっきのことは気のせいだと思い、ホッとするのだった。
その時。
綾子は気づいていなかった。
紀江の携帯の画面には、綾子が最近目にしたものと同じ文字…〈FortunaMail〉という単語が映っていた事に。
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