二十


 一学期の期末テストを終えた週の金曜日。全ての教科が返ってきた。結果はまぁ、どれも悪くはないだろう。補習も免れて、安心して夏休みに入れるというわけだ。

 いつもの親友たちとはお疲れ様会をしたので、勉強を見てくれた幼馴染にも何かお礼をしておきたい。

『おかげで良い点数を取ることができたよ。近いうちに何かお礼をさせて欲しいんだけど。』

数分ほどして、メッセージが返ってきた。

『お礼だなんて、大袈裟だよ。でも、ボクもきみの頑張りを祝いたいから土日に予定を空けておくれよ。』

週末、どこかに遊びに行くのだろうか。どちらにせよ、休日はなんの予定も入っていない。

『わかった。週末は空けておくよ。何にしても、感謝しているよ。ありがとう。』

『こちらこそ。週末、楽しみにしているよ。』

メッセージを見て、スマホをしまう。

 まだ昼休み。周りのクラスメイトは昼食を取り終えて、思い想いに過ごしている。僕も丁度、弁当を片付けていたところだ。

「よう。暇か?」

武石が僕の肩を叩く。

「暇だよ。昼休みは退屈で癒しの時間だ。」

「それは良かった。俺も暇してたところなんだよ。」

僕たちは教室の隅に行き、雑談を始める。

「テストも終えたし、あとは夏休みを待つばかりだな。」

「その様子だと、補習はなんとか免れたみたいだね。」

「あぁ、英語なんかギリギリだったけどな。」

テストが終わった時には真っ白になっていたが、なんとかなったようだ。

「お前の方こそ、点数は大丈夫だったのか?」

「なんとかね。」

「そうだ。週末は空いてるか?本屋にブンパンの新しいグッズが出るんだよ。」

「あのアニメまたグッズが出るんだ。」

「おうとも。ウミネコ店長の猫社員シリーズがキーホルダーになるみたいなんだよ。」

ウミネコは鳥じゃないかとツッコミたかったが、アニメでそういう話があった。ネクタイを付けたウミネコの指示のもと、何匹もの猫が働く珍妙な話である。

「あれって一話だけしか登場してないよね。グッズが出るほど人気なの?」

「あぁ。原作マンガでも数回しか登場していないにも関わらず人気投票は常に上位。ウミネコをメインにしたスピンオフが出るらしいぞ。」

あのアニメってマンガ原作だったんだとか、ウミネコのスピンオフ出るんだとか、言いたい事は沢山あったが、まず一つ言わなければいけないことがある。

「ウミネコって猫じゃないよね。」

「ん?あぁ、ウミネコは猫じゃないな。作者の頭のネジが外れていたに違いねぇ。」

「間違いないね。」

「それでどうだ、週末空いてるか?」

「申し訳ないけど、先約が入ってるんだ。」

「そうか、なら仕方ないな。親友の予定を疎かにするわけにはいかんからな。」

納得する武石に対して少し申し訳なく感じるが、予定が入ってしまったものは仕方がない。

 それで、と武石は急に肩を組んでくる。

「予定ってのは、恋人か?運命の出会いか?」

「なんでそうロマンス思考なのさ。」

「いやぁ、お前のことだからさ、道すがら人助けでもして、連絡先を交換したのかと。」

「そんなイベント、マンガかゲームくらいなものだよ。恩返しに来る鶴なんていないんだよ。」

「なぁんだ。つまんね。」

「引っ叩いてやろうか。」

そんなに青春を謳歌したいなら、自分で駅前にでも行って人助けをしてくれ。

「冗談はさておき、実際はなんだ?家族旅行か?」

「ただの幼馴染だよ。勉強を教えてもらったお礼をしに行くんだよ。」

「幼馴染って、例のあの人か。」

「武石にとって僕の幼馴染はどんな扱いなんだよ。」

「初代親友だろ。」

「親友に初代も二代目もないでしょ。」

「それもそうか。まぁ、お前にとって最初の男の親友は俺だけどな。」

別に誇ることでもないだろうけど、武石が同性で初めて親密になった友人に違いない。

「それよりさ、何か飲み物でも買いに行かない?奢るよ。」

「ほんとか?なら遠慮なくご馳走になるぜ。」

僕たちは、再び中身の無い話をしながら教室を後にした。

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