十九
火曜日。ようやくテストが終わった。結果はまぁ、きちんと勉強できていたので、悲惨なことにはならないだろう。
「お疲れ様。どうだった?」
武石の席に行くと、彼は真っ白になっていた。
「無事じゃあ、なかったみたいだね。」
「いや、数学とか地理は上手くいったんだよ。ただ、英語が絶望的でな。単語は頑張ったんだが、文法がな。いやしかし、勉強の甲斐あって赤点は無いと思うぞ。」
武石は机に突っ伏したまま話している。このまま放っておくのは親友としてどうかと思ったので、ひとつ提案をしてみることにした。
「ねぇ武石。テストも終わったし午前授業だしさ、みんなでどこか遊びに行かない?」
僕の言葉を聞くや否や、武石は顔を上げて目を輝かせる。
「いいな、どこに行こうか。この前行ったあの喫茶店でさ、祝勝会と洒落込もうか。」
「勝ってはないんだろうけど、いいね。二人はどうかな。」
武石と予定を取り付け、教室の隅で話している女の子二人に声をかける。
「二人とも、テストお疲れ様。」
「お疲れ様。雨天くんたちはどうだった?」
「まぁまぁかな。武石は白くなってたみたいだけど。」
「勉強、不足、かな。」
次のテスト期間は、永江さんのスパルタ教室だろうか。彼の太陽のような笑顔は、僕たちの心に生き続けることだろう。
さて、未来の親友に別れを告げたところで、本題に入る。
「そうそう。今日午前授業だからさ、喫茶店でお疲れ様会しようって話してたんだけど。二人ともどう?」
「良いねぇお疲れ様会。もちろん参加するよ。永江ちゃんも来るよね。」
「うん。私も、参加、する。」
二人の了承を得たので、武石に伝え学校終わりにそのまま喫茶店に行こう、ということで話がまとまった。
ホームルームが終わると、いつも通りクラスメイトは足早に教室を出ていく。その様子を眺めていると、携帯が振動する。見てみると夏妃からメールが来ていた。
『お疲れ様。テストはどうだった?』
週末に勉強を見てもらっていたので、心配してくれているのだろう。幼馴染の心遣いに感謝しつつ返信する。
『おかげさまで、大丈夫そうだよ。そっちはどう?』
『ボクの方は、ミスが無ければ満点かな?』
週末の土日とも僕の勉強を見てくれていたのにこう言えるのは、根本的に頭の出来が違うのだろうかと考えてしまう。幼馴染なのに、随分と差がついてしまった。
勝手に卑屈になっていると、僕を呼ぶ声が聞こえた。
「おぉい。早く行こうぜ。」
「うん。今行くよ。」
教室の外では、いつもの四人が待ってくれていた。
「お前いつも教室の鍵を返してるのか?」
職員室に鍵を返した後、武石がそう聞いてきた。
「いつもの事だからね。」
僕がやらなくても、他の誰かがやるんだろうけど。これをしている内は、自分にも役割りがあるように思えるのだ。
「悩みがあるなら聞くぞ。」
「雨天くん、わたしたちはいつでも味方だからね。」
「今日、奢るよ?」
「これじゃ僕が心を病んでいる人じゃん。僕はいたって健全な男子高校生だよ。」
僕なんかと一緒にされたら心を病んだ人に失礼だ。それに人のモノローグに勝手に首を突っ込まないで欲しい。
「健全ならいいか。さ、遊びに行こうぜ。」
「ところで、武石くん、テストは、どうだった?」
「おかしいな、雨が降ってやがった。」
「泣いてる暇、あるなら、復習。」
「あ、はい。」
この前の勉強会で、すっかり上下関係が定まってしまった二人を、微笑ましく眺めながら僕たちは校舎を後にする。
まだ昼前であり、太陽は頂点まで昇っている。季節は本格的な夏に入っており、強い太陽がアスファルトを照り付けていた。
「暑いな。早くも涼みたいぜ。」
「そうだねぇ。暑く熱った体に冷たい飲み物をグイッと。」
「それはビールを飲む時の言い方だよ。」
「あつい。溶ける。」
四人で好き勝手話しながら歩く喫茶店までの道のりは、暑さも気にならないほど賑やかなものになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます