十一
「思ったことがあるんだけどさ。」
昼休み。いつものように弁当を食べていると、向かいに座る七咲さんがおもむろに口を開く。
「私ってさ、友達少ないのかな?」
予想外の言葉に、僕は口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。慌てて堪えたが、行き場を失ったお茶は気管に入り、僕は思い切りむせ返った。
「うえ、ゴホッ。ゴフッ……。」
「大丈夫?どうしたの急に。」
「うぅ、だ、誰のせいだと……。」
喋ろうとするが、咳が止まらない。咳を堪えようとして、横腹が痛くなってきた。
「うわぁ、雨天くん蹲っちゃった。大丈夫?生きてる?」
「う、うん。ちょっと、静かにして欲しいかも。」
五分ほどむせ返り、ようやく咳が治まってきた。
ハンカチで口元を拭きながら、本題に戻る。
「それで、何で友達が少ないなんて思ったのさ。七咲さん、いろんな人に話しかけて回ってるから、心配ないんじゃない?」
「でも、お昼はいつも雨天くんと食べてる。それに話しかけても、みんな少しよそよそしいんだよ。」
それはクラスメイトが悪い。露骨に避けるような態度は、人を不安にさせるものだ。
「わたしはそれが気になったんだ。だから、アンケートをとったの。七咲アヤはあなたにとってどういう存在ですかって。」
「なにそれ聞いてないよ。」
「うん。言ってないしアンケートも回してないもん。」
「なんで?」
「だって雨天くんは友達じゃん。」
「そっか……。」
嬉しいことを言ってくれる人だ。だからどれだけ騒がしくても、仲良くしていたいと思う。それはそうと仲間外れは寂しいので次回は僕も入れて欲しい。
取り敢えず話を本筋に戻そう。
「それで、結果はどうだったの?」
「えっとねぇ、友達・知り合い・他人の三つの項目でアンケートを取ったんだけど、二番ばっかりだったんだ。」
七咲さんはガックリと肩を落とす。
「つまり、クラスのみんなは七咲さんの事を知り合い程度にしか思っていなかったと。」
「そういうこと。うわぁん、悲しいよぉ。」
彼女は僕の肩を掴みぶんぶんと揺らす。それにしても、中々問題ありげなアンケート内容だ。本人の捉え方次第では、イジメだと騒がれてもおかしくない。まぁ、彼女はそこまで深く考えていないのだろうけど。
「あ、今失礼なこと考えたでしょ。何かな、アンケートの内容に問題がありそうだけど、そこまで思考を巡らせていないだろうと、そう言いたげな顔だね。」
妙なところで鋭い友人だ。下手に詰められる前にはぐらかしておこう。
「わたしの深謀遠慮を侮るなよって痛い。なんだよぅ、私が喋るたびに手刀を振り下ろす決まりでもあるのかよぅ。友達じゃなかったらオコだったぞ。オコだったかんね。これで話にオチがつくと思ったら大間違いだかんね。」
鋭い友人がピィピィ喚いているのを横目に、少し考えてみる。
七咲さんは話していて、決して不快な人間ではない。むしろ一緒にいて楽しい、そう思える人だ。問題は彼女の距離感。しっかりと順序立てれば、簡単に友達はできると思う。彼女の性格上、できないはずがない。
僕もコミュニケーション能力が高いわけではないが、架け橋くらいにはなれるだろう。この前の、勝手な思い込みの罪滅ぼしも兼ねて、人肌脱ごう。
「ねぇ七咲さん、ひとつ提案があるんだけど。」
「ん、なぁに。」
さっきまでのやり取りが嘘のように、彼女はケロリとした態度だった。
「七咲さんさえ良ければ、僕の友達を紹介するよ。」
「本当?お願いしていいの?」
「こういう時は頼っておくれよ。」
「やったぁ。マッチングだぁ。」
「その言い方はやめてね。」
無邪気に喜ぶ彼女を見て、胸の高鳴りを感じる。おかしなことさえ言わなければ、ただの可愛い女の子なのだが。
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