第20話 魔法少女は結界へ行く!

「結界は久しぶりですわね」


すでにわたくしは結界内。


「のあ?聞こえていまして?」


『はい。良好とは言えませんが問題ありません。プリンスブレード。あなたの方は?』


「えぇ。空は快晴。元気良く伸びた木々に広がった土地。あちらこちらにある戦闘跡。至って普通ですわ」


『魔物の発生以前は舗装された道や獣道があったと思われますが、今回も無さそうですね』


結界。

数十年を超える規模で魔物が蔓延っているこの土地は、人の手が入らず野生に還ったと言える。

ポストアポカリプスと言った方がわかりやすいですわね。

今回は元が山だった事もあり、外見上は未開の山と言えなくも無い。


ただ、それが本来の広さに比べ途方も無く広大になっている事を除けばですが。


「無から有を作り出す、あるいは引き延ばすこのさま等価交換や熱力学第一法則じんるいを無視しすぎではないかしら?」


『私からは魔法少女の力も大概人類を超越してますよ。

それと、結界内にて土地が広がる事への正確な回答は未だ出ていません。有力なのは結界内は別の世界に入れ替わった。という迷信ですね』


有力なのが迷信な時点で人類はお手上げである。


「では探索を始めましょうか。見逃す事は無いと思うけれど、気づいた事があれば一声かけてくださいな」


『了解しましっ』




視界の端が淡く光を帯びた。




「っ!全く。いきなり攻撃。それも木々に隠れての不意打ちとは。

随分と無作法で手荒な歓迎ですわね」


木々を避けるように飛来したのは光弾。


身体を少し揺らす事でプリンスブレードは回避した。

後方にある結界に衝突し、派手な爆発音が耳をつんざくが目線は前を向いたまま。


消失した光弾の粒子からサポーターが分析を行う。


『魔力の解析。でました。・・・・・・っ!

です。救出隊の2班目。特徴は』


「逃げましたわ。何やら想定より厄介になっていますわね。のあ、救出に向かった魔法少女は何人居まして?」


ロスト・タイムの行方も気になりますけど第二位の心配より目下、敵対した魔法少女の対処が優先ですわね。


警戒もそこそこにプリンスブレードはサポーターと話をしながら森に入る。


すると森が唸りを上げ、魔力探知に幾らか引っ掛かる。

推定タイプAの魔物が179体。

タイプSの魔物が62体。

それから魔法少女が、




『12人居ます』




⚪︎⚪︎⚪︎ 雪代くずり 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




「おねーちゃん。やっぱり私も行くよ」


「駄目よ。今回は本当に危ないんだからね」



おねーちゃんと暮らして何日かたった。

学校には行ってるし、魔法少女の活動もしてる。

ただあの日からかーさんとは会ってない。


「・・・・・・怖いよ」


「大丈夫だよ、くずり。私は最初の調査だけだし、私よりずっと強い人達もいる。

帰ってくるよ」


俯いてる私におねーちゃんが抱きしめてくれた。


あったかい。


「・・・・・・おねーちゃん。かーさんの事まだ怒ってるの?」


「そうね、ん~。怒ってるは少し違うかな。アレから結構たったしね」


「でも」


帰らないんだよね。


「お父さんが居なくなってから、お母さん元気なかったでしょ?」


「うん」


「だから私がなんとかしないとって。

お母さんもくずりも私が守らないとって。

・・・・・・魔法少女、頑張ったんだけどね。

少し疲れちゃって」


見上げたおねーちゃんは俯いて優しく笑ってたけど、

元気が無さそうだった。


そんなおねーちゃんの雰囲気が悲しくて、

ぎゅーって私もおねーちゃんを抱きしめた。


「・・・・・・帰ってくるからさ」


「絶対だよ?」




⚪︎⚪︎⚪︎




「けっっ!!!!かっぁぁあああ!!!

いぃぃいいいい!!!ですっ!!!」


「あはっ。ドール、めっちゃ元気じゃん」


日比ひくらの指示で私とドールは魔対とは別の方向から結界に入った。


ねーちゃんは氷に包まれて私の後ろにふよふよと浮いている。

待っててね。後少しだから。


先程まで大きな音が鳴っていたけど、ぴたりと止んだ。

魔法少女と魔物が戦ってたのかな。


「ねぇドール。もっかい聞くんだけど、本っ当に魔物食べるの?」


「はいっ!!!前に食べたのはモニョさんだけですけど!とっても美味しかったです!!!!こう、噛む時のムニュっと」


「やめてやめてっ!!・・・・・・怖い事言わないでよ。

でも・・・・・・魔物料理かぁ。それ食べたらねーちゃんを治せる様になるの?」


さすが魔法人形。よく魔物なんて食べるわ。

魔物なんてよほどのモノ好きでも無いと食べないし、と言うかそんな物好き聞いた事ないし。


魔法少女ってみんなよく食べるから、それに合わせて飲食店も多いんだよね。

私はあんまり利用しないけど。


「はいっ!!人を治すのは初めてする事です!!!

でも!最強魔法少女なので!!!大丈夫です!!!」


不安だなぁ。


元気に言ってるけど表示動いてないし、でも手は胸の前で握り拳を作ってる。

頑張るぞ〜!って気合いを入れてる姿は可愛いけど、苦手な人が見ると不気味って思うかも。


知らない事に興味があって、

わからない事もいっぱいあって。

ただの子供っぽい雰囲気だけど、

人の話はちゃんと最後まで聞いて理解しようとする。

ねーちゃんを助けてくれるかも知れない子は、とってもちぐはぐな子供。


子供かぁ。

私も前はドールくらい元気だったんだけどなぁ。


ねーちゃんを結界の中で見つけて、そこで日比と出会った。

私はねーちゃんを助けたかった。でもねーちゃんの救出を諦めた魔対や、魔対と仲の良い魔法少女に助けを求められるほど、私は大人になれなかった。


子供の意地が残ってた私は結局、ねーちゃんを結界から連れ出す手伝いをしてくれた日比を頼ったんだよね。


「気をつけてね。結界には魔物がたっくさんいるから。

あっそうだ。ドールが食べたい魔物ってモニョさん以外でも大丈夫なの?

てか、なんで魔物なの?私の魔力じゃだめ?」


「大丈夫です!食べたいのは魔力です!!!

ぐぉぉおおおって魔力を使うと凄くお腹が減るんです!そこで魔力を沢山持ってるマモノを食べると、お腹が膨れるんです!!!

う、うぅ。それに・・・・・・魔法少女の魔力は口がぐさーってされるかも知れません!!!」


口を両手で引っ張り、いーっってしてる。


へぇ魔力が減ればお腹が減る。ってのは魔法少女と同じなんだ。

でもそこで魔物を食べよう!とはならないけどね。普通。

で、魔法少女の魔力を食べないのは前に何かあったから。なのかな。


「くずりさん!!」


「なに?後、変身した私にはフロストストリートって名前があるんだ。気に入った方で呼んでいいよ」


「・・・・・・どうして、そのねーちゃんって人を治したいんですか!

教えてくださいっ!!!」


「うっ。直球だね。どうして?」


「はいっ!日比さんは言ってました!何もしない人は悪だって!!でも!人々を守るのが魔法少女です!!そこは変わりません!!!」


「そうだね。私もそう思うよ」


「でも!頑張って負けちゃった魔法少女もいます!そんな人たちを助けるのも魔法少女です!!!

でも日比さんは、人は魔法少女を助けないって言ってました!!!

助けられてるだけで、何もしないって!!」


「そう、だね。負けたってあんまり言いたくないけどね。

・・・・・・と言うかあの話をそこまで理解してたんだ」


魔法少女が負ける。

嫌な事だけど、それ自体は比較的起こる事。

避けられない出来事だけど、決して良しとはしないし、したく無い。

そこから目を背けた大人なんてもっと嫌。


「ドールもです!魔法少女は最強ですから!!

でも!人は何もしないは違います!!

長峰さんは頑張ってましたから!!!

そして!!ふりが言ってました!!!!

間違いを恐れてはいけないって!!!!」


「・・・・・・間違い?」


・・・・・・私のしたい事?

え、なに?怒られてる?


いや違うか。話が見えないな。


私がねーちゃんを治したい理由。が気になって、

人を助けるのが魔法少女。と知っていて、

魔法少女を助けるのも魔法少女。と考えて、

でも人は魔法少女を助けない。と聞いて、

でも魔法少女を助ける人もいる。と経験して、

そして。

間違いを恐れない。と教わって、




「つまり!

間違いを恐れてはいけないんです!!

くずりさんひとでも!フロストストリートまほうしょうじょでも!!

やりたいなら!!!

やらないといけないんです!!!!

魔法少女は最強です!不可能はありません!!


魔法少女ねーちゃんさんを助けるのは魔法少女くずりなんです!!!」




⚪︎⚪︎⚪︎プリンスブレード 視点⚪︎⚪︎⚪︎




「お粗末でしてよっ!」


左の手甲てっこうで魔法少女が放つ棍棒を払い、体勢を崩した相手の腹に蹴りを入れる。


「これで10人。魔物もあらかた終わりましたわね。準備運動と捉えるには少しばかり骨が折れましたけど」


疲れたわけでは無いが、襲ってくる魔法少女を生け捕りにするのは骨が折れる。

だがプリンスブレードは結界に入って1時間足らずで開幕の襲撃を捌き切った。


『お疲れ様です。プリンスブレード。

魔法少女の体力は魔力量で決まると言っても過言ではありませんからね。

魔法少女を相手取る際は此方の魔力消費を抑え、どれだけ相手に魔力を使わせるかにかかってます。

その点、プリンスブレードは戦闘でほとんど魔力を消費していません』


最初は3人1組の魔法少女。のあの説明では元からこの3人で行動していたらしいですわ。

ただ、ぎこちないと言いますか連携がまるでなっていない。

まだ襲って来た猿や鷲のが連携が取れていましてよ。


それから個別でわたくしを囲ってきた魔法少女が放った、高威力魔法での面処理攻撃。

元がロスト・タイム救出な事もあってか、攻撃ではなく探知が得意な魔法少女が多かったのが幸いしましたわね。

高威力とは言っても精々タイプD。相性がよくてCを倒す程度。

タイプAを倒せる魔法を斬るとなると手加減は難しいですもの。


襲って来るのはこの際、仕方ないとして彼女達の雰囲気。

まだ新種ドールのが元気良く人の言葉を話し、表情が変わっていましてよ?


「気絶させましたけど、変身が解除されませんわね。元凶は一体何処にいるのやら」


『はい。襲撃してきた魔法少女達は恐らく魔物に操られているのかと。

変身には魔力が必要です。意識がない中、変身しているとなると外部から魔力が与えられているのではないでしょうか。

それと、

彼女達の言動に意思は感じられませんでした。

このまま無力化をお願いできますか?』


「意思も何もそもそも彼女達は一言も話していませんし表情とて変わってませんわ。

それに、無力化とは言っても魔力が供給されていてよ?

気絶から回復したらまた襲われるのがオチですわ。

そうですわね。結界主が元凶なら魔法少女を結界外に連れて出しますけど、

そっちでこの子達の対処はできるのかしら」


『問題はないかと。

私の知る限り、結界内で起きた異常が結界外に漏れた事例はありません。

そして、本来明日貴方と出撃するはずの魔法少女が後数人この街にはいます。

先程、ともえさんに確認を取り、召集をかけました』


「わかりましたわ。では少し待ってくださいな」


結界に入ってまだ1時間と少し。

もう結界を出る事になるとは思いもよりませんでしたわね。




⚪︎⚪︎⚪︎




わたくしの我儘を聞いていただけて感謝いたしますわ。ともえさん」


「無事に連れ帰って来てくれて助かったよ。

君も橙子とうこ先輩から救助がメインだと言われているだろう?私も同じ気持ちというだけだ。それよりロスト・タイムはどうだ?」


「のあから聞いてるとは思いますけど、そっちの進捗は0ですわ。魔力探知外に居るか魔力を限り無く抑えているのか。

どちらにせよ、彼女達のように魔物に操られるようなヘマはしないと思っておりますわ」


「良い信頼関係だな。

なら追加で誰か連れて行くか?探知か回復か。

君が助け出した10人は今作戦中に戻るのは無理そうだが、明日出撃予定の魔法少女は何人かいるぞ」


「やめておきますわ。背中を刺されるなんて間抜けを晒すつもりはなくてよ。

それよりロスト・タイムに着いて行った魔法少女がまだいますわよね?」


「あぁ。6人。実力はここらでもそれなりらしい」


「ならその人達も回収ですわね。はぁ。なぜこうも後手に回るのやら。

元凶となる魔物の予測は立てていまして?」


「あぁ一応な。だが相当厄介だぞ。幸いにも結界の中だ。その厄介が外に出てくる事はない。

残りの魔法少女を回収したら撤退も視野に入れてくれてくれ」


「あら?特定まで早かったですわね。でしたら教えてくださいな。そのための第三位わたくしでしてよ」


撤退と言う言葉を華麗にスルーし、プリンスブレードは話を続ける。


可能性としては、

タイプSS。反転・猿田毘大神さるたけひこおおかみがまだ生きており、猿田彦みちひらき由来の自己世界もまた存続している可能性。

ですが、結界に入った際にそのような強大な魔力は


なら、結界の核になる結界主が別の魔物に倒された場合。

この場合、結界は無くならず倒した魔物が新たな主になる。

そしてその魔物が洗脳や傀儡を得意とし、尚且つわたくしに見つからない程度に魔力操作にけた魔物であると言う事。


つまり、




「君が相手取るのは結界主を倒しうるイレギュラー。

発展済みである可能性が極めて高く、既述以上の強さになうだろう。

心してかかってくれ。


タイプSS。虚言・靱猿うつぼざる


かつて第3位殺めた魔物だ」

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