第2話 厄災の生誕

わたくしの名前は姫柊ひめらぎカナタ。

魔法少女歴は4年で現在高校1年生。


「ねぇ聞いてるの?カナタ?また結界が一つ解決したらしいよ」


「えぇ、そうね。聞いてるわ。コレでまた平和になるわね」


結界とは魔物が居る区画を指す。大昔の魔法少女がその身を犠牲に築き上げた魔物を縛る空間。

日本には数えるのも嫌になるくらい存在していたが、年々数を減らしつつおり、今では人の生活圏の方が結界より広くなっている。


「カナタもありがとう。わたくしは魔法少女じゃないし。カナタみたいに戦えだらなぁ」


「そう卑下しないで。昔ほど切羽詰まった状況じゃないから、普通の生活も大切よ」


わたくしたちが居るのは魔法少女達が通う学園。

数は少ないけど、彼女みたいに魔法少女じゃない人も一定数存在する。

確執ってほどでも無いし、彼女がイジメを受けているなど聞いた事は無いが、肩身が狭そうなのは確かだ。


「将来は魔物対策委員会に所属したいのよね?」


「そう。カナタの役に立ちたいし、何も出来ずにじっとするのは嫌よ」


授業の合間にあるお昼休み。私達はたわいもない話をしながら過ごしていた。


「あら?」


「ん?魔法少女関連?」


「そうみたい。失礼するわね」


携帯が鳴り、映っているのは後輩であるスグレの名前。


「こんにちは。スグレ。授業は珍しいわね」


『はい。カナタさんもこんにちは。いきなり掛けて申し訳ございません。お昼でしたか?』


「えぇ、久しぶりに売店を使ったの」


『・・・・・・寝坊しましたね。まったく。っと、それより仕事です。⚪︎⚪︎区に揺らぎが発生した為、応援をお願いします』


「あれ?わたくしかしら?」


『はい。区画のトップは出払っており、2番手には連絡が取れないそうです』


「了解したわ。今からよね。支部?現地?」


『現地です。私は後5分で支部に着く為、準備が出来次第サポートに回ります。それでは後程』


通話が切れた。


「ごめんない。今から行ってくるわ。ノート、お願いしても良いかしら?」


「別に大丈夫よ。役に立てることっていえばコレくらいしか無いしね。怪我しないようにね?」


「えぇ。任せてくださいな」




⚪︎⚪︎⚪︎




時刻は13時。

場所は市街地。

避難勧告は出されている。


「魔物は?」


『タイプD。小鬼。揺らぎの観測は5回』


「発展の可能性は?」


『この揺らぎの規模でそれは無いかと』


結界で魔物を範囲ごと封じていても、自然に湧く魔物までは対応できない。

故に人類は歳月をかけ、魔物が発生する兆候である「揺らぎ」を観測する機器を作り上げた。


「発展は数十年前からよ。まだ決めつけるほどデータは揃っていないと思うわ」


『魔物相手に絶対は無い』


「えぇ、私達が忘れてはいけない教訓ね。それでは始めるわ」


剣を抜き、数メートル先に現れた魔物に狙いを定める。




⚪︎⚪︎⚪︎




『お疲れ様でした。プリンスブレード』


「えぇ、とくにトラブルも無く無事に終わって何よりね」


『・・・・・・はい』


「何かしら?」


『いえ。この程度でプリンスブレードが出るのは過剰が過ぎるかと』


「確かにそうね。一応、発展の可能性も考えていたけれど、特に変わった所は無かったわ。学園の他の子達に回しても良かったのでは無いかしら」


『えぇ、私もそう思います。安全とまでは言いませんが程よい実践経験にはなるかと』


「指示を出したのは橙子さんよね?」


『はい。⚪︎⚪︎支部のトップです』


橙子さんは私達が所属する支部のトップをしている人であり、支部に所属する全体に指揮権がある調整役でもある。

揺らぎが観測されると、普段は発生近くにいる魔法少女の携帯とそのサポートに連絡が行く。


大規模な揺らぎだと、支部のトップが指揮を取り、どの魔法少女がどこの区画を守るかを考える。


「今回は大規模では無いのよね?」


『はい。他の揺らぎは・・・・・・っ来ましたっ!』


帰路に着くのをやめ、足を止める。


『ナビゲートします!!!はぁっ!?

タイプSS!不明!揺らぎの観測は1回!!』


「嘘でしょ!?」


大規模ではありませんが、確かにわたくしが出る案件ですわね。

しかも不明。新種か。既存の発展では無く、新規の発展である可能性。


「・・・・・・ふぅ。プリンスブレード!」


再び変身し、気合を入れ直す。

向かうは災厄になるかもしれない相手の元。

今更怖さは無い。コレまでもSやSSとは交戦してきている。


守るべき人が居るのなら、前を向き続けなければいけない。

さぁ、魔法少女を始めましょう。




⚪︎⚪︎⚪︎




『その角を曲がって下さい!魔物は交差点から離れようとしています』


突発的な揺らぎ。

しかも兆候から発現までが早いため、

避難勧告が十分に終えてなく、逃げ惑う人々が押し合いになっている。


『接敵まで5秒。4、3、2、1』




「そこまでよ!!!」




⚪︎⚪︎⚪︎




そこに居たのは、中学生程の大きさの日本人形。

その黒髪は長く長く、地面を引き摺っている。

こちらを見る瞳は左目が欠けており、着ている装束はつぎはぎだ。


小鬼を始め人型はそれなりにいる。だがそのどれもが所謂ファンタジーな外見であり、あそこまで人を模してはいない。


「××?っ×!!×ー!!!」


そしてあの顔だ。

瞬時に真顔から笑みに切り替わる様は、I凡そ《およそ》人では無く、日本人形の笑った顔なぞ不気味以外の感想は無い。


「××××××!!!」


「っ!?随分と禍々しいオーラねっ!スグリ!新種!解析お願い!!」


どう動いても良いように、構えを取り出方を待つ。

魔物同士が意思疎通を行っているのは最早常識ではあるが、人類は未だ解析には至っていない。

そもそも言語を介する魔物が少数。先程倒した小鬼は叫び声や威嚇をしても話す所を確認された事はない。

ならこの魔物はどうか。


明らかに意思を持ってこちらに言葉を投げかけている。


厄介ね


「×〜〜。×っ!××××!××××××××××××××××!×××××!×××××××××××!」


何を話しているのかは依然として不明だけど、推定人形が落ちていた肉片を拾った事は見て取れた。

儀式魔法?触媒?私という敵が目の前にいるのにストックする必要は?


ダメね。情報がないわ。


「っ!こっち来たっ!プリンスブレード!戦闘を開始します!」


「×っ!××っ!××××××!」



【剣王】プリンスブレードその実力は日本人なら誰しもが知り、世界に目を向けても彼女の活躍が曇る事はない。

彼女の強みは追随を許さない超近接戦闘にある。中遠距離の魔法主体となる魔法少女界隈では稀な純近接アタッカー。

とはいえ彼女とて魔法少女であり、魔力を飛ばす事くらいはできる。

だが。


避けられたっ!?


相手はSSだ。

それを差し引いても彼女が振るうソレは中距離魔法より速い。

避けるのに決死という訳では無く、こちらに迫る余力がある。


「××××××。××××××××!」


人形は依然として魔法を使うそぶりを見せないが、長髪から感じ取れる魔力は自己世界を形成するに足る量である。


解析が終わるまで待とうと思いましたけど、流石にこれ以上被害を出すわけにはいきませんわね。


人的被害は無いように見受けられるが時間の問題だろう。


「××、×××××××××××××××」


人形のお腹から空腹を訴える音が鳴り、人形が動きを止めた。


つまり、先ほどの肉塊は食料だったのね。

なら、人形は全力を出せないのでは無いかしら?


「止まった!このっ!!」


「××っ!!!×〜〜!!!××××!」


はぁああ!?

なんで斬撃を喰えるのよ!?

魔物に対して私達の魔力は天敵よね!?!?


人形の口が両耳の下まで裂けており、ギリギリ繋がっている口から鮮血やら何やらが垂れている。


まずいわ。

魔力を回復されるとなると、ジリ貧になるのはこちら。

でも、口が裂けた事から当てれば確実にダメージは入る。


「×××××××××××××!××××××××××!×××××××××!」


人形は私に目を向けた。

底冷えする様な冷淡な瞳。

このまま文字通り喰われるのでは無いかという恐怖。


でもっ!

ダメ。飲まれてはダメよ!

いつも通り


「嘘っ!?魔法が食べられたですって!?」


『落ち着いてください先輩。魔力を吸収する魔物は過去にも少ないですが例はあります。今、増援が向かっているので、後5分は耐えて下さい!』


わたくしより上の2人はどちらも中遠距離。1位は近接もできるが、この間の模擬では私が勝った。

果たして魔法を喰らう人形に魔法主体の魔法少女が来ても事態は好転するのだろうか。


「わかっているわ。幸い、あめり攻撃的では無いのが救いかしら」


泣き言は言ってられない。

戦えるのが私であるなら、わたくししかいないのなら。

この身が動かなくなるまで進むべきだわ。


近接を行う事を決め、剣を構え直す。


「××っ〜!×〜〜!!××〜〜〜!!!×っ!」


って!え!?


「耳から血出してるんだけど!?ぁあ!もう!斬撃食べるし!様子見はやめよ!攻撃を仕掛けるわっ!」


「おぉ〜!!!流石はワタシ!不可能は無い!」


・・・・・・は?

喋った?魔物が?


マズイ。本当にまずい!

どういう経緯で言語を習得したのかは知らないけど、適応能力が高過ぎる!!


本気の踏み込み。


「待って下さい!ワタシも魔法少女です!」

「っ!?」


だが。

後、数ミリの所で切先が止まった。


恐怖は押し殺した。斬れるだけの魔力を込めた。

なら後は・・・・・・


人形の長髪が更に伸び、私と人形を囲う様に地面を這っている。

プリンスブレードはその経験から自身が死地へ飛び込んだ事を理解した瞬間。

自身の残像を残すほどの速度で飛び退いた。


「ふぅ、危なかったです!」


「・・・・・・スグリ。アレ。喋ったんだけど。聞いてたわよね?」


『・・・・・・えぇ。です。先輩。話す魔物が観測されたのは初めてです』




魔物が世界に現れておよそ300年。

発展が確認されておよそ60年。

そしてついに人の言語を介する個体が現れた。


つまり、世界のステージがまた一つ上がった事を意味する。

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