第5話 遠くまでいける船
ありがたいことに、執筆した小説について、文章そのものをほめていただく機会が多い。ココナラでプロの編集者さんに依頼した講評でも、強みとして真っ先に描写力や筆力が挙がってきたので、まあ客観的に見て文章は上手い方なんだろうなと自分でも思っている。
ところでこれは、文章をほめられる人あるあるなのかもしれないが、「文章が上手い」と言われると「文章以外に目立っていいところがないのかな……」と少し落ち込んでしまう――いやもちろん、ほめてくださった方にそんなつもりがないことは百も二百も承知なんですが。
小説と文章って、人間で言ったら生命活動と空気みたいな関係だと思っている。周りの空気が綺麗だろうが汚かろうが、酸素があれば人間は生きていけるわけで、同じように小説も、文章が上手かろうが拙かろうが、最低限の意図が伝われば小説として成り立たせることができる。
新人賞などの公募では、文章の巧拙よりもアイディアや切り口の斬新さがより重視される。だから「文章が上手い」とほめられると、すごくすごく嬉しい反面(本当に嬉しいので、もちろん今後もたくさんほめてください!)、「文章以外のところをどうにかせにゃいかんのよねマジで」と気が遠くなったりするタイミングも正直ある。
人間って面倒くさいね……!
ただ一方、最近はこの捉え方が、自分の中で少しずつ変わってきたと感じる時もある。
ちょっとわかりづらい話になるかもしれないが、もう少し語らせてほしい。
私はそろそろ公募勢三年生に突入するのだが、思いついた物語を思いついた通りに書いていた一年目と比べて、公募二年目はかなり新規性を意識するようになった。同じことを二回以上やるのが嫌いな性分も手伝って、「今まで書いたことがない要素を持ったキャラクターや設定に挑戦したい」という思いが常にあり、実際に色々なテイストの物語を書いたと思う。
そして気づいたのが、「私わりと、なんでも自分らしく書ける」という事実だ。
例えばBLだったら、強気な受けも健気な受けもアホ可愛い受けも書ける。都会の話も田舎の話も書ける。わんこ系の攻めも宇宙人の攻めもヤンキーの攻めも書ける。しっとりでもコメディでも書ける。
設定や展開を自分の中でしっかりイメージできてさえいれば、それを文章にすることに関しては、あまり手間取ったりはしないのだ(果てしなく面倒くさい気持ちになることは多々あるけど……)。
これに気づき始めてからは、より設定や展開で遊ぶようになったし、色々なジャンルを書いてみたいと思うようになった。これはつまり、自分の中に、「私は文章が上手いから、ちゃんと下準備をすれば、とりあえずそれなりの作品が書ける」という自信が育ってきた証拠なのだと思う。
「文章が上手い=自分のイメージを過不足なく伝えることができる」だとすれば、それってなんだか、すごくすごく遠くまでいける船を持っているのと同じくらい自由なことだと気づいた。そのまま遠くを目指してもいいし、船=文章自体をわざと少しアレンジして潜水艦とかにすれば、今までとはまた違う景色=作品が見れるかもしれない。
大きくて頑丈な船だったら、それだけ大勢の人を遠くまで乗せることができるし、ね。
だから文章力は、デビューには直結しなくても、創作を続ける上で間違いなく武器になる力なんだよな、と前向きに考えられるようになってきた。特にアイディア出しの時なんかは、前よりも思考の幅が広がってきたと感じる。
長所を活かして、これからもっと色々な作品を書いていけたらいいなあ、というのが、最近のもっぱらの指針である。
※ちなみに「私は文章が上手い」と言っているこのエッセイの文章がめちゃくちゃ下手という大矛盾が発生していますが、瀬名はエッセイが苦手です。自分自身のことを書くのって、小説を書く以上に難しい! 嘘つきみたいになってて本当にすみません。
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