第11話 モテる男の条件
あれから数日。
俺はリラとともにコインを稼ぐ旅を行なっていた。
盗賊団で動けば何かと早いが、別の任務を与えている以上、目立つ真似は避けたい。
ただでさえ首印として懸賞金がかかってる身分だ。
なるべく露出は避けるべきだろう。
「結構揃ってきたな」
『解体』『調合』『錬金術』ここら辺は仕事で使いそうなので保留。
売るのは『毒耐性』『キノコ胞子』『麻痺耐性』とかそこらへんでいいだろう。
貴族というのは何かしら体を張る商売だ。
耐性は多いに越したことはない。
「ウホ」
「どうした、リノ」
そこで突然圧縮言語の使われてない素のウホを言われて振り返る。
俺のコインは金色に輝く。
それを人前で数えている姿は、傍目には大金を持っているように見えるらしい。
酒場の目立つところでそんな管j行をしていたもんだから、どうしたって悪目立ちしてしまうそうだ。
悪いがこれは、あんたらの求めてる王国金貨にゃ程遠いぜ?
『威圧』のコインで軽く脅しをかけても、ここら辺の冒険者はいわく月のごろつきだ。面の皮が厚い。
男を女が支配する世界において、この程度の威圧、チワワが吠えてるくらいのものなんだろう。
「何か用か?」
「いや、随分と稼いでいると思ってね。よければあたしたちにも少し分けちゃくれねぇかと思ってさ。なぁ、みんな?」
「そうだぜ、あんた。男が女に甲斐性を見せるってのは稼ぎを分け合う時だけだ!」
「一杯奢ってくれよ! 最近魔獣が減って稼ぎがすくねぇんだ」
理由は俺にあった。
俺がコインを荒稼ぎしてる弊害で、この冒険者が食うのに困っているらしい。
けど俺のコインはこの国で貨幣として認められてねぇからな。
「悪いがこれはあんたらが思ってる大金貨じゃねぇぞ?」
「なんだい、あんたは贋作師かい?」
「そんなところだ。興奮させて悪かったな。奪ったところで酒代にもなりゃしない。俺はパワーゴ。この世界にやってきて間もない商人の男だ。それなりに稼いできた商品は、全部あの忌々しいパワーゴリラ盗賊団に奪われちまった! 残されたのはこのコインぐらい。これで代金を払ってもいいが、捕まっても俺は責任を取らねぇぜ」
絡んできた女たちにそれぞれ『麻痺』『腹痛』『食あたり』の指輪を授ける。
これは使ったものがその症状に陥る指輪だ。
新しく獲得した『錬金術』のコインはこんなこともできるんだ。
襲ってきた男にその才能が芽生えていた時は感謝したもんだぜ。
ありがたくこれからも使わせてもらうぜってな!
そのコインの使用中、リラには全くの別人がそばにいるので気苦労をかけたが。
俺がこの世界の女をコインにしたのを使わない理由はそこに集約する。
俺、使ってる最中は身も心も女になっちまうんだよ。
なんだったらそのコインの人生を引き継ぐようなものだから、元のベースに思考が引っ張られる。
俺は俺のままでやりたいが、これが人間をコイン化した時のデメリットなんだよな。
なのでなるべくなら使わずに済ませたいのが現状だ。
『解体』『調合』はモンスターも持ってるのに『錬金術』までなるとやはり個性の枠組みになるもんだ。
「じゃあ、これはもらっていくぜ」
「大盤振る舞いじゃないか」
「売れるか売れないかは正直関係ないんだ。男からもらった商品だ、ありがたく使わせてもらうぜ」
そう言って、男旱りの女たちは酒場を出て行った。
「モテたいなら、さっさとランクを上げて獲物を貢ぎにいけばいいのによ」
「ウホ」
そう愚痴りたくもなる。
この世界は女性優位。
けど蓋を開けてみたら女は数だけは居るもんだから扱いが低くなるのは当然だった。
リラも当然のように頷いている。
この世界において人口のヒエラルキーは女が圧倒的に占めている。
種を排する男にも価値がつくように、女にもまた求められている基準があるのだ。
さっきの強奪を貢ぎ物として受け取った女たちが、自分たちにもチャンスはないかとこちらの様子を伺っている。
自分で買うだけではダメで、男から貢いでもらうことで箔がつく。
俺の知らないところでそんな常識が根付いているのかもしれないな。
そんな時だ、ゾロゾロと見目麗しい女たちが酒場に訪れたのは。
周囲を警戒しながら、誰かを警護するように気を配っている。
大体中数人は連れているだろう女の中から現れたのは、小太りの男だった。
「風間様、食事の場を設けました」
「辛気臭いな。この俺様にこんな場所で飯を食えというのか?」
周囲へ配る視線がまるで潔癖症のそれ。
女冒険者たちをゴミを見るような目で舐めまわし、引き連れてる女たちからみて美的センスがそもそも違うことを嫌でも理解する。
この世界の基準では強さこそが美しさの証明!
しかし男の連れてる女たちの特徴は、俺が現実で培ったなろう系アニメの特徴と合致した。
間違いなく日本人だろう。風真って言ってたし。
ん、……風間?
「控えおろう! このお方様をなんて心得る。この度王国騎士団長を新たに娶られる風間晋助様であらせられるぞ?」
知ってる名前だった。
確か学園時代のクラスメイト。
もう15年以上前になるから当時の記憶はあやふやだが、多分そうだ。
あの根暗オタクくんが、こっちじゃ王様気取りか。
世の中どう転ぶか本当にわからないもんだな。
しかし王国騎士団長様だぁ?
いつから個人の男はそんなに偉く成り上がった?
王国騎士団てのは国のお抱えだろうが。
個人で召し上げるほどの成果でも国に献上したのか?
なら話はわかるが。
「そこ、晋助様に不敬であるぞ!」
一人の女が剣を抜いた。
とんでもない威圧だ。
なかなかやるな。発狂状態のリラの足元にも及ばないが、コインに封じ込めるのにも手間取るだろう。
「落ち着けよ、マージ」
「ですが晋助様」
「同郷だ。今は席を外せ」
「はっ」
風間のやつ、俺を覚えていたのか?
「久しぶりだな、安納樂」
「よぉ、風間。まさかこっちでよろしくやってるなんて知らなかったぜ」
「そういう君こそ。護衛もそんな小さい女の子一人だけでこの異世界を回るのは危険じゃないかな?」
随分と含んだ言い方だ。
「何が言いたい?」
「君はどれくらい稼いでいるのかなって」
「まだ駆け出しもいいところだよ。一度こっちにきたんだが、財産をレイの強盗団に奪われてしまってな」
ここで敢えて俺がパワーゴリラ盗賊団の名前を出すのは、後々俺が頭領として振る舞う時にコインを持っていても疑われないための布石である。
俺の個性『コイン』は不遇の代名詞。
現代社会でも無能の烙印を張られて久しい落ちこぼれの証。
けどそれを、異世界で豪遊しているこいつが知ってるはずもない、そう踏んでいたんだが。
「それは災難だったね。僕が代わりに退治してあげようか?」
「風間が?」
「そうさ、今度僕が召し抱えるのがクラスメイトの鬼柳さんでね」
「なるほどな、読めてきたぜ。一度その盗賊団を壊滅に導いた存在だ。だから残党を潰すのもわけないってことか?」
「詳しいね」
「あれからその盗賊団については調べてるからな。どうにも当時に比べて一枚岩じゃなくなったそうだが、本当に俺の財産を取り戻してくれるのか?」
「もちろん、タダじゃないよ?」
風間の視線は幼い顔立ちのリラに向かった。
まだ性徴途上の女の子らしいラインを舐めるように見てほくそ笑む。
「狙いはこいつか」
「そうそう。こっちの女って野蛮だろ? そんな生活をしてるから、顔立ちが可愛い子を探すのも大変でさ。どうせ愛でるなら可愛い子の方がいいじゃないか」
「ウホ」
「かわいそうに、すっかり例の盗賊団に洗脳されているね。俺が愛を示して洗脳を解いてあげなくちゃ」
ウホ語を洗脳か何かと思ってる口か。
「侍らせている女たちも呪いを解いてやったのか?」
「いや、この子達は純粋に戦力としてだ。ここは野蛮だからね。男というだけでカモを見つめる視線を贈られるんだ。それって不快じゃない?」
「そうだな。さっきも財産を奪われた女たちが酔ってたかって絡んできて追い払うのも大変だった」
「そうだろう、そうだろう。だからさ」
「わかった。背に腹は変えられない。もしその強盗団を潰したら、こいつは差し出そう」
「君ならそう言ってくれると思ったよ、無脳の安納くん」
「ウホ?」
やっぱり全部知ってて絡んできたか。
そうだよなぁ、当時はクラスでもだいぶイキってた。
根暗なオタクくんから見たら陽キャの代名詞。
そんな俺がハズレの個性をもらって落ちぶれた生活を送っていたと聞いたら笑いが止まらないだろうな。
そして、完全に天狗になってるお前に一言申してやる。
あの時の敗北は、完全に俺の落ち度。
ちびっ子たちを疑っていたわけじゃない。
ただ自分の不甲斐なさにほとほと呆れていただけだ。
勝とうと思えばいつでも勝てた。
だが、勝った後の責任をあのちびっ子たちに追わせたくなかった。
ただそれだけの敗北。
それを調子に乗らせる判断材料にしてしまったのなら本当に申し訳ない。
だからそう心配そうな顔をするな、リラ。
全部嘘だ。
俺たちの盗賊団がこんな安っぽい集団に負けるわけないだろ?
それに、その騎士団長様とは因縁もある。
次は負けない。
「それで、騎士団長様は元気にしてるかい?」
「実は彼女は非常にシャイでね。僕との婚約が決まって早々に休暇を申請してしまったんだよ」
「逃げたのか?」
「逃げられるわけないでしょ。僕は王国で公爵の地位を持っているんだよ?」
「王族でも娶ったか?」
「そうそう、可愛い子でさぁ、一眼で気に入っちゃって。財政を助ける代わりにくれって一ったら簡単に首を縦に振ってくれたんだよ。それからいろいろ政治面で口出しさせてもらってるよ」
そこで口にされた公約は荒唐無稽なものばかり。
『女は可愛くあれ!
女は男から貢いでもらって格が上がる
女は男に抱いてもらって可愛さが上がる』
『女は勇猛であれ!
戦えない女に価値はない
男に貢げる女にこそ価値はある』
そんな馬鹿げた念書が王国内でばら撒かれているらしい。
これには酒場にいた女たちが辟易していた。
だからあのごろつきたちは男から金品を巻き上げる強盗行為を貢ぎ物だって勝手に脳内変換していたのか?
こんな公約に正気を失った結果がそれなのか。
リラは何故かそれには完全同意みたいな顔で俺を見上げる。
お前も公約に脳を焼かれたクチか?
言ってることが異世界転生でチートをもらったうつけ者やらかしそうな言動のオンパレードだ。
正気に戻れと言いたかった。
「で、こんな田舎くんだりまで探しにきたと?」
「僕としても、こんな地方まで足を運ぶつもりはなかったんだけどね?」
「目撃情報がこの町付近にあったそうです」
一人の女がしゃしゃってきた。
風間はその女の頭をなでる。
女はそれを至上の喜びとする。
うわっ。
見ていて引いた。
うちの盗賊団は気良い関係だからそんなことは間違っても起きない。
そういうハーレムは良くないんだぞ?
こういうのは一人一人対等に扱って然るべきなんだ。
それをお前、金で地位を買うとか論外もいいところだわ。
甲斐性を見せろ、甲斐性を。
しかし、風間曰く『有能なる男は1日でも早く顔を見せて安心させる』のができる男の仕草らしい。
これには取り巻きの女たちが乙女心をわかってると持ち上げていた。
いや、それ絶対逃げ出してるって。
異世界の女だから騙せてるけど、やってることキショいもん、お前。
女をトロフィー扱いしてるやつにハーレムは無理だって!
なぜかリラが対抗意識を燃やして頭部を迫り出してきたけど、今は触らず二人の時間にたくさん触ってやった。
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