第3話 聖女様、撃ち抜かれる
あれから、やっとのことで立ち上がったぼくに、あまりにも予想通りの展開として、聖女を名乗った少女、モモは面倒を見たいと提案してきた。
「わたし、聖女モモ・セイントは、神の慈悲として、キミに施しを与えたい……キミはきれいな目をしている。わたしの召使に、なってくれない?」
聖なる雪山のような純白の長髪をたたえた、清流のごとき水色の瞳が、真っ直ぐにぼくを捉えて、再び手を差し出した。
先程の心の声を聞いていなければ、きっとぼくなんてイチコロだっただろう。
この少女は美しい。
あまりにも美しすぎる。
声だって、声優をやったらオタクたちを魅了すること間違いなしの可憐過ぎるウィスパーボイス。
そんな声で、きれいな目をしているなんて言われたら、ドキドキしない男はいないだろう。
ましてや、この少女は、誰もが尊敬する、偉大で清廉なる聖女様なのだ。
そのカリスマは、瞬く間にぼくのような凡夫など丸ごと飲み込んでしまうだろう。ふつうであれば……
だが、ぼくはこの少女の本性をすでに垣間見ている。
この清楚という言葉をそのまま体現したような少女が、笑ってしまうくらいピンク色の思考回路をしていて、ぼくにエッチなことをしてやろうとあれこれ妄想している事を理解している。
であるならば――
「はい、聖女さま。ついていきます」
ぼくはしずかに、聖女様の手のひらに、口づけを落とした。
その瞬間、濁流のように少女から混乱と興奮を伝える心の声が流れ込んでくる。
(く、く、く、くちびるが、美少年のくちびるがふれてるぅううううううう! なにこれ、これが美少年のキッスなの!? や、柔らかすぎる……! 幸せ過ぎる……! こ、これは麻薬だっ……! 美少年のくちびるは麻薬だったんだ……! な、なんてイケないものを隠し持ってるんでしょう……! はぁ、はぁ、だめだ、我慢できない……! この唇が、わたしのほっぺたとか、唇とか、いいや、もっとずっとエッチな所とかに触れてるところを想像してしまう……! こんな大量破壊兵器が、わたしのイケない所に触れたら、一体どうなってしまうんだ……? わ、わたしは、死ぬかもしれないっ……! 死んでしまうかもしれないっ……!)
聖女様のほっぺたは、喜びを表すように上気していて、いまにも倒れそうなくらい興奮しているはずだが、それでも聖女様は、かろうじてこんな言葉を返した。
「……なんと美しき魂でしょうか。あなたはきっと、立派に神に愛される少年に成長するでしょう。わたしがあなたを導きます。わたしに従い、わたしを愛してくださいね?」
言葉だけなら、なんとも魅力的でカリスマ溢れる、立派な聖女の言葉だ。最後の愛してくださいね、という少し踏み込んだように思えるセリフも、聖女さまならではの神の愛を表現しているようで、とても素敵だ。可愛すぎる。
だが、聖女様の手に触れ、立ち上がろうとしたぼくの心に流れ込んでくるのは――
(い、い、い、言っちゃったーーーーっ! あ、あ、あ、愛してくださいねなんて言っちゃったーーーーっ! わたしみたいな男に免疫ゼロの処女風情が、こ、こ、こ、こんな大胆なこと言えちゃうなんて……っ! すごい! 美少年はすごいっ! わたしはいま、未知のポテンシャルを発揮しているっ! こ、これが、恋のちからっ……! 偉大だ……! 美少年は偉大だ……! わたしは、この少年が、好きなんだぁああああっ!)
前世で童貞の少年だったぼくは、この聖女さまの心の声を聞いて、なんだか共感性羞恥でいたたまれない気持ちになってしまった。
たかが1分やそこら美少年と会話しただけで、この舞い上がりっぷり。
まさしく、前世モテない童貞だったぼくそのものだ。思い返せば、ぼくも中学校の頃好きだったナツミちゃんに、さんざん興奮して、すさまじく恥ずかしい事を考えてしまって、妄想の数々を繰り広げていた。
目の前にいるのは、そういう可哀想ないきものなんだ。
そう思うと、ぼくはなんだかこの聖女のことが愛おしく思えてしまって、くすりと笑った。
「聖女さま、なんだかかわいいですね」
その言葉は自然と、ぼくの口から流れるように生み出された。
果たして、その効果は――
「ひ、ひぐっ……!」
ズキュン、と撃ち抜かれたように、聖女様が後ろにのけぞる。
今は身体を触れていないので、心は読めなかったが――
言葉にならないほど強烈な衝撃と、爆発するような恋心を少女が感じていることは、心を読むまでもなく明らかであるように思われた。
その証拠に――
聖女の唇は、抑えきれないほどの喜びに、にまにまと可愛らしく気持ち悪く歪んでいたのだから――
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