第5話
口下手で暗い性格だった美空は、高校時代、いじめに遭っていた。中学のころも、無視されたり物を隠されたりしていたが、高校に入ると、暴力を振るわれるようになった。集団で殴られ蹴られ、下着まではぎ取られて写真や動画を撮られたりした。
「オマエ、キメェんだよ」
「誰かにチクったりしたら、ブッ殺すからな」
私立の女子校だったが、あまり優秀な学校ではなく、校内は荒れ放題に荒れていた。親は無関心で、美空が摂食障害やリストカットの兆候を見せても、まるで異変に気づかなかった。
冬のある日、制服の上着とブラウスをドブに投げ込まれ、凍えるような曇天の下を、スリップとズタズタに引き裂かれたスカートだけで帰宅していた美空は、突然声をかけられた。
「おい、なんて格好で歩いてんだ。ポリ公に職質されても知らねーぞ」
人通りの少ない道だったのでぎょっとして振り向くと、同い年ぐらいの少女が心配そうに見つめていた。金色のロゴが入った灰色のジャージの上下、頭上で一つに結んだオレンジの長い髪、大きくて鋭い瞳。
「あ、あ……」
美空は口を開いたが、うまく言葉が出てこなかった。
少女は、少し見つめただけですべて悟ったらしく、着ていたジャージの上を脱いで、スリップの上から着せてくれた。彼女自身もその下に薄いTシャツしか着ておらず、寒いだろうに。
「いいんだよ、あたしは。鍛えてるから」
気にするなというように笑って、ふと美空の額に手を伸ばす。
「顔が赤い。熱あるんじゃないか? ジム、近くだから。ちょっと来いよ」
言うが早いか、強引に美空の手を引いて、桧ボクシングジムまで連れていった。会長は外出中、凪砂は中学で誰もいなかったため、少女がカップスープを作って、自分の部屋のベッドに寝かせてくれた。
暖房のきいた部屋にいるうちに美空は回復し、ようやく彼女の名前を尋ねた。
「あたし? 陣内凛。まぁ、知らないだろうな。ボクシングやってて、今、フライ級のランキングに入ってるんだ。今日も、ロードワークの途中だった」
高校は中退して、今は時折アルバイトをしながらボクシングのトレーニングに専念しているらしい。
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