第2話

うら若き乙女が打つそばの噂を聞いて、隣の国の王子が隊列引き連れ森へとやってくる。

王子「女、しかもほんの小娘の打つそばなど」

王子は周辺の国で知らぬ者のいない蕎麦通であった。


王子には(蕎麦は生き様を写す)という確固たる信念があった。

王子の食べる蕎麦はお抱えの職人が打ってきた。

世界中の蕎麦を熟知した王子を唸らせた、数少ない職人である。

蕎麦を打って、30余年。一本気で寡黙な男であった。


王子はこの職人の手ほどきで、自らもそばを打つ。

ただの食通ではなかった。

王子が打った蕎麦に皆両手を打ち、褒めそやした。

しかし王子は満足はしなかった。

王子ほどの蕎麦通は、王国に居はしなかった。


森の動物たちはこの王子の通ぶりを知っており、相談して姫のもとに案内することを決めた。

この王子が純粋に、姫でなく、蕎麦を求めていることがわかったからである。

隊列は帰された。付き人として唯一、職人が通された。


森の奥。小さな一軒家。いや、王子には粗末な木の小屋にしか見えぬ。

王子(…そばを打つには十分というわけか)思い直して主を呼ぶ。

王子「蕎麦打ちはおるか」

姫「なに者ぞ」

立てかけた板が横開きした。それが扉だった。

対面した蕎麦打ち姫は目が眩むばかりに美しく、肌は練り上げた蕎麦のようにつややかであった。

王子「そなたが蕎麦打ちか」

しかし蕎麦打ちは見た目ではない。

はるばる遠路を越えてきて、王子はそばの味に妥協する気はない。

王子「私は隣の国から来た王子である。さあ、私のために蕎麦を打つのだ」

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