蕎麦打ち姫

K アダナミ

第1話 プロローグ

幼少からそばを打つ姫。17歳。

自ら種から育て、水車小屋の臼で曳いたそば粉でそばを打つ。

練って塊になった生地を麺棒で伸ばしながら、姫はボケットのそば粉を一掴みしてそば打ち台にバッ、バアッと撒いた。

みるみる平らに伸ばされる生地。畳んだ生地をトントンと包丁で切っていく、その鮮やかな手さばきに動物たちは目を輝かせている。

姫こだわりの麺は、香り気高い細い麺。茹で上がった麺を井戸水で締め、ざる蕎麦を作り上げた。

客は森の動物たち。動物たちは喜んで姫のそばを啜り上げた。

姫も汗を拭い、満足そうに同じ食卓につく。


姫は動物たちの住む森の奥に一人、暮らしている。

人はまだ姫のそばを知らぬ。その評判はそばにうるさい動物たちを唸らせてきたばかりである。

が、ついに長年の評判がある時動物たちから人へと噂が伝わっていった。


『とある森の奥には蕎麦を打つ美しい姫がいる』


噂は美しい姫を一目みたいという男たちによって真実であることが証明されようとしていた。

ゆで蕎麦の匂いを頼りに男たちが次々と動物たちの森の奥へ向かっていったが、誰も姫の姿を見つけることができなかった。

下心を見抜く動物たちが惑わせていたのである。

しかし、ついに界隈で蕎麦つうと知られる年老いた美食家が一度、姫の住居にたどり着いたという。

蕎麦を所望したが、姫に断られた。

老人の目は濁っていたので、姫の姿はくっきりと見えなかったが、確かに美女に違いないと語った。

いつしか人々は彼女を蕎麦打ち姫と呼んだ。

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