第5話


「……何か」

「いや、お主の国の聖女は皆そんなにたくましいのか? あの小娘も言っておったが、お主の荷物に食べ物と思しきものは何一つ入っていなかった様に思うが?」


「あれだけ離れた位置でよく見えましたね。確かにこのかばんに食べ物は入っていません。それだけ急いで国を出たというのもありますが、そもそも私の国の聖女がみんなみんなサバイバル術に長けていた訳ではありません」

「ほお?」


「そんな人は私の一つ前。先代の聖女様くらいです。むしろ珍しいくらいでしたよ。こんなにサバイバルに長けていた人は」

「なぜそんなに長ける必要がある。本来聖女は自分で自分を守れるくらいの魔力は有しているであろう」


「確かにそうですね。でも、先代の聖女様は……歴代の聖女様の中では魔力が弱かったのです。だから歴代の聖女様の様にはいかなかった」

「……なるほど。それでサバイバルか」


 先代の聖女は出来る限り魔法は使わなかった。それこそ魔物と対峙した時や結界を張る時以外は。


 しかし、結界を張る際に移動する時に魔法を使わなかった先代の聖女は自力で移動していたらしいのだが、場所によっては日を跨ぐ事もしばしばで、その時にサバイバル術の大切さを知ったのだと言う。


「しかし、お主はむしろその逆であったであろう。我の見立てでは下手をすると我と変わらないほどに見えるが?」

「そこまで評価していただけるのは素直に嬉しいですが、何も無駄と言う事はありません。現にこうして役立つタイミングはありました」


 ニッコリといつもの様に笑ってフェンリルの方を向くと、当のフェンリルは「はぁ」とため息をついて「普通は聖女を国から追い出すなんて愚かな者はおらぬのだがな」と吐き捨てた。


 正直、そこまでフェンリルが言うのだからそれだけ「聖女」という存在は「魔法」という分野では普通国として切ってはいけない存在だったのだろう。


 だからこそアーノルド殿下の下した判断は間違っていたと言わざる負えない。ソフィアは自分がそこまでの存在だとは思えないが、フェンリルの言動から「聖女」という存在に関してだけは「すごい」と認識を改めていた。それ故にソフィアも苦笑いをするしかない。


「それにしても随分と暗くなってきましたね」

「む? そうだな」


 こうして話をしている内に森もどんどんと夜が深くなっていく。


「でも、魔物は全然出て来る気配がありませんね」


 しかし、普通であれば夜行性の魔物たちの行動が活発になり始めるはずなのに、こちらに来る様子はない。これはやはりフェンリルと一緒にいる効果なのだろうか。


「それはそうであろう。基本的に弱者が強者に立ち向かうのは縄張りなど自分の命に関わりかねない守らねばならないといった生存に関わる理由があってこそだ。理由もないのにみすみす自分の命を投げうつ様な事をするバカはこの森にはおらぬ」

「……なるほど、そうですか」


 言われてみれば確かにそうかも知れない。


 理由がなければ無用な争いは避ける。それが生きる上では大事な事なのだろう。


 ひょっとしたら魔物の方がその辺りの線引きは意外としっかりとしているのかも知れない……フェンリルの話からソフィアはそう感じた。

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