第3話 冴月

 その言葉に、女性が足を止めて振り返る。整ってはいるが、人形のように表情のない顔だった。


「あなた、もしかして、何かべつなものと勘違いしてるんじゃないかしら。シュンキドウは、誕生してからまだ二十年も経っていないのよ」


「え?」


 あまり賢くない女子高生の愛弓は、「あれ、そうだっけ?」と首を傾げる。


 剣道や茶道など、「道」とつくものは、何でも長い歴史を持っているのだと、勝手にイメージを抱いていたのだが。


「あなた、名前は?」


「琴峰愛弓(ことみねあゆみ)です」


「そう。私は、皆桐冴月(みなぎりさつき)」


 どうやら彼女が、チラシに載っていた「冷徹クイーン」と呼ばれるチャンピオンらしい。


「愛弓はどうして、シュンキドウをやりたいと思ったの?」


「えっと、痴漢に遭ったからです。それも、一回じゃなくて何回も。電車に乗るたび


触られて、もうイヤになっちゃって。痴漢をやっつけられるくらい、強くなりたいん


です!」


「ふうん……」


 冴月の目が、愛弓のぷるんとしたバストをちらっと一瞥する。


 華奢な彼女は、愛弓とは正反対のスレンダーボディーだった。


「あなた、やっぱり勘違いしてるわね。うちは確かに武道の道場だけど、『倒すのが目的』じゃなくて、春気を注いで相手を愛でるのをやってるの」

 

「え……」


 そんなスポーツがあるのを、愛弓は初めて知った。


「それって、どんな競技なんですか?」


「見たほうが早いわ。奥の部屋に練習生がいるから、見せてあげる」


 そう言って、冴月は、愛弓を突きあたりの部屋へ導いた。

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