第13話 散った
そうこうしているうちに時は流れ、試験当日。その日は朝からちらちらと雪が降っていた。
いつもと同じように茜と一緒にバスに乗り、いつもと違うバス停で降りる。「無事に受かったら、毎日ここに降りることになるんだね」と茜が興味深そうに待合室を眺めていた。
そのまま試験会場に入り、茜と別れる。そのまま試験を受け、終わる頃にはもうお昼だった。ざわめく人々の隙間を縫って茜を探すが、見当たらない。そのうち見知った顔が目に入った。
「和樹」
「あれ、史明じゃん」
小学校時代の同級生、和樹だった。よく遊んだもう一人の同級生・勇吾は受験して私立の学校に進んだが、和樹は同じ地元の中学に進学した。けれどクラスが分かれたので、茜とは違い次第に疎遠になってしまったのだ。
「茜知らない?」
「あ、さっき会ったぞ。もう帰るって言ってたな」
「そっか……」
元々茜が美術部で俺が弓道部だから、帰りは別々だった。だから茜が一人で帰ったのも自然なことだろう。
「そう落ち込むなって。茜、お母さんに心配かけたくないから早めに帰るって言ってたし」
茜のお母さんは元々この辺りの人で、結婚を機に県外に引っ越した。けれど茜のお父さんと離婚することになって、こちらに戻ってきたのだ。
片親かつ馴染みのない土地に移ってきた茜をお母さんはかなり心配していて、茜もなるべく心配はかけたくないとよく言っていた。
「別に落ち込んでないよ」
「本当か?前は素直だったのに、いつのまにかひねくれたなー」
俺は分かりやすく目を泳がせた。少しだけ自覚があった。成長したからと言えばそこまでだが。
「え、まじ?ひねくれたの?」
和樹は自分で言ったくせに大袈裟に驚く。
「そんなに意外か?」
「いや、史明も見ないうちに色々あったんだな……と。久しぶりだし、ちょっと話してくか?」
和樹と最後に話したのは結構前なのに、まるで昨日も話したみたいに喋れた。それが昔馴染み、というやつなのだと思う。きっと和樹と喋るのは楽しいだろう。けれど。
「いや、ちょっと先を急ぐから」
「お、茜に早く会いたいのか?」
「……」
「今日オレ色々踏み抜きすぎじゃね?」
無言で頷くと、和樹に別れを告げて外に出た。雪はもう止まっていた。
スマホを開くと雪は止んでいるけれど滑りやすくなっているから気をつけて、と爺ちゃんから連絡が来ていた。
今朝滑らないように、といいかけて慌ててやめた爺ちゃんを思い出して少し笑う。了解、のスタンプを送ると、スマホをしまい、明るい気持ちのまま一歩踏み出す。
茜の遺体が見つかったのは、その日の夕方のことだった。
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