第3話 世界に初めての命

「本当に大丈夫なのか?」


 どうやら無事にシズクとの“子作り”は成功したらしい。だが、お腹に子を宿したはずの彼女は、まるで別人のように穏やかで落ち着いた雰囲気をまとっていた。


「はい。ありがとうございました。これでこの世界にも新しい生命が生まれることを、こうして身をもって証明できました」

「そ、そうか……」


 俺の目には、彼女の身体に特に変化があったようには見えない。お腹も相変わらずほっそりしたままだ。それでもシズクは、心の底から嬉しそうに顔をほころばせ、お腹を優しくさすっている。俺には彼女の言う“妊娠した”という感覚が理解できないし、その笑顔はどこか神秘的で、不可解に映った。


 どうしてそこまで喜べるんだ? そもそも、本当に俺が相手で良かったのだろうか?


「ふふっ。これでコウキ様も立派なパパですね」

「ぱ、パパっ!? いや、俺は……えっと」

「冗談ですよ。別に責任を取って夫になれとか、育児を折半しろなんて言いませんから」

「いや、そういうわけにもいかないだろ!?」


 経緯はどうあれ、子供には親が必要だろう。俺が小さい頃にはすでに母親は亡くしていて、父親が一人で苦労していた姿を朧げに覚えている。少なくとも俺は生きているんだし、これから育児だって頑張って覚えれば……。


「お忘れのようですが、今の私たちは神です。世界も違えば常識や倫理も異なる。そして子供の生まれ方も大きく異なるのです」

「そう、なのか……?」

「はい。この世界で生きる生命の身体は、主に魔力で形成されています。今も私のお腹の中では、コウキ様の魔力と私の魔力が混ざり合い、新たな生命が作られつつあるのです」


 魔力? たしかに男魂の先から熱い“何か”が流れ込んでいった感覚はあったが……。


「そして生まれる際は、前世のような出産ではなく、その時が訪れれば魔法のように成人に近い形でポンっと目の前に現れるのですよ」

「そんな仕組みが……」

「だって、女性の負担は少ない方が良いじゃないですか」


 この世界を創り出した神がそう言うのだから、実際にそうなのだろう。よくSNSで「女性特有の生理は何であるんだ~!」なんて叫びを見るけれど、ここではそれすら無いらしい。


「これから私は大神殿の奥にある秘所へと籠り、諸々の準備に入ります。コウキ様はその間、私に代わりこの世界の主となっていただきます」 「俺がお前の代わりに!? いや、俺に神の仕事なんてできないぞ!?」


「大丈夫です。この世界の住人たちはほぼ自立しています。私はただその行く末を見守っているに過ぎないのです。ですから、コウキ様は心のゆくままに子作りの旅をお楽しみください」

「楽しめって言われてもなぁ……」


 なんだかチャラ男にでもなった気分だ。果たしてそんな役目を果たせるのか、自信がない。だがこの世界を救うために必要だというのなら……。


「……あぁ、もう。分かったよ。これから生まれてくる子供が安心して過ごせるような世界になるように、俺なりに頑張ってみる」


 正直言って、新人の神である俺にどこまでできるのかなんて分からない。だが、こうなったら俺のやりたいようにやってやるさ。


「ありがとうございます。頼りにしていますよ、コウキ様」


 女神シズクは俺に近寄り、そっと腰に腕を回す。俺も彼女の頭を優しく抱き寄せ、しばらくそのままでいた。あぁ、神でも温もりってあるんだな。いや、これは身体じゃない。心が温かいと感じているんだ。こんな感覚、前世でもあったっけかなぁ?


 こうして俺は新しく生まれ変わり、見知らぬ世界を救うための旅を始めることになった。



――――――――

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続きは、明日の20時半ごろを予定しております。


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