第2話 女神の非常識な“子作りレクチャー”


「いや、さすがにそういう行為は好き合った相手とするべきなんじゃないのか?」


 女神であるシズクからの「今から子作りをしましょう!」という突拍子もない提案に、思わず乗りかけた俺だったが、どうにか理性が勝った。危ないところだった。


 いくら相手が駄目な女神だからといって、女は女だ。知り合ったばかりの相手に対し、そんな無責任で不誠実なことはできない。たとえ「世界のため」だと言われても、俺の日本人としての魂が全力でノーと叫んでいる。


「それにお前だって、俺みたいな相手が初体験じゃ不満だろう……って、何をニヤニヤ笑ってるんだよ!?」


 こっちは真面目に話しているっていうのに、シズクは笑いをこらえるように口元をニヨニヨと緩ませている。


「だって、コウキ様。何かを勘違いされていますよ?」

「はぁ? 俺がいったい何を勘違いしているって言うんだ」


 子作りってことは、つまりは性行為だろう? 前世の記憶は所々が曖昧だが、生憎と倫理観や常識はまだ残っている。たとえシズクに股間のブツを操られようとも、女神の言う通りにはしないからな――。


「……これ今どういう状況?」


 ――数分後。俺はなぜか、自分の股間に生えているピンク色の触手を彼女のお腹に押し付けさせられていた。


「コウキ様のそれを、私は男魂メンソウルと名付けました」

「うん。なんだかスースーしそうなネーミングだが、今は一旦置いておこう。それで今の状況ってナニ? 俺は何をさせられているわけ?」

「ふふふ。この世界での子作りの方法をお教えしようと思って。神の御業を目の当たりにして、腰を抜かさないでくださいよ?」


 う、うん? いや、これでも俺の羞恥心はマックスで、マイハートが今にも崩壊寸前なんですけど? 美女にイチモツを握られるって死ぬほど恥ずかしい。……にも関わらず、シズクは俺に構わず話を続けていく。


「コウキ様の男魂を、女性のお腹にあるオヘソに直接繋ぐのです。そしてコウキ様に宿る“男としての魂”を注ぎ込めば、その女性は妊娠するようになっているのです!!」


 ババーンと効果音が聞こえてきそうなほどのドヤ顔で仁王立ちするシズク。えっと、俺はどこから突っ込めば良いんだ?


「どうしてそんな身体の構造に……いや、これ以上はいいや。藪蛇になりそうだ」


 どうせ「男性経験が無いから」とか「性行為を知らないから」とか、また言い訳を聞かされるんだろうし。俺もいかがわしい行為がないのなら、それで……あれ? 本当に良いのかこれで??


「まぁ、物は試しですよ! コウキ様がイメージする男性像を脳裏に浮かべて、送り出せばそれでオッケーですから」

「イメージって……こうか?」


 俺はシズクに言われるがまま、自分が思いつく男を想像する。だがそれは自分ではなく、前世における実父だった。頼りがいがあって、常に誰かを助けていた理想の男。顔まではしっかりと覚えていないが、いつか俺は父さんみたいになりたいと思って生きていたことは、魂に刻み込まれている。


「んっ……ああっ」

「おい、艶めかしい声を出すなよ。集中できないだろうが」

「だって……コウキ様が私の中に入ってきて……」


 シズクは俺の男魂を両手で支えながら、身体を小刻みに震わせている。そして――


「あっ……」


 ビクン、とひと際大きく跳ねて背を反らした後、彼女はそのまま固まって動かなくなってしまった。


「おっ、おい!? 大丈夫か?」

「……うれしい」

「シズク……お前、泣いているのか?」


 彼女はツツーと頬に一筋の涙を伝わせながら、俺に向かって微笑んだ。それはシズクが本物の女神だと初めて思わせるような、慈愛に満ちた神秘的な笑みだった。



――――――――

次は本日の20時半ごろです!


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