第3話
「手間かけさせやがって……」
あれからサンドバッグスライムに何度か遭遇したが、俺は目と口を閉じつつ、一匹ずつ倒すことに成功した。
「ん、これは……?」
曲がりくねった通路を歩いていくと、布切れの塊が落ちていたので拾い上げる。なんせ瓦礫しかない道なので、何か変わったものが落ちていたらすぐ区別がつくんだ。
【鑑定】で調べてみると、ぬいぐるみの一部ということがわかった。損傷が激しくて元がどういう形をしていたのかどうかは判別できない。これも【自動修復ボックス】の中に放り込んでおこう。どんなぬいぐるみなのか、スキルをゲットできるのか今から楽しみだな。
「ガラガラッ」
お、また変な鳴き声とともに何か出てきたと思ったら、今度は箱っぽい化け物だ。それも段ボールに人間の手足がついているという気味の悪いモンスター。
【鑑定】で調べてみると、ボードミミックというらしい。レベル2とのこと。
『グロマスター:お、ある意味グロだな!』
『ねこまんま:ヤダ。キモーw』
『みかん星人:早くやっつけちゃってください!』
コメント欄も盛り上がってる。確かに気持ち悪いが、俺としてはHPが110までなったことで、そこまで恐怖感もなく対峙できた。
「オラア!」
俺は段ボールめがけてバットをフルスイング――って、あれ? 片手で受け止められていた。お、おいおい、マジかよ。確かに腕力は1しかないが……。
「ガラガラッ、ガラガラッ!」
笑うような奇妙な鳴き声とともに、ボードミミックが俺をもう一方の手で殴り飛ばしてきた。
「ぐはっ!?」
つ、強い、こいつ強いぞ。ステータスを確認すると、HP100/110になっていた。一発で10も減るのか。
『グロマスター:受け止められてて草』
『ねこまんま:ヤバい、こいつ強いじゃんw』
『みかん星人:タケルさん、逃げてください!』
俺はコメントで我に返る。もし【HP+100】スキルが無かったらと思うとゾッとする。 お、メッセージが出てきたと思ったら、【自動修復ボックス】内でぬいぐるみが修復したとのこと。 熊のぬいぐるみ10/10と出ている。熊だったのか。
『【熊の膂力】スキルを獲得しました』
しかも、なんか強そうなスキルをゲットしたぞ。 俺はボードミミックと距離を取りつつ、【鑑定】で調べてみる。 腕力+200とのこと。こりゃいい。 バットを持つ手にパワーが漲る。
「死ね!」
俺はバットをフルスイングし、ミミックはそれを手で受け止めようとしたが、箱ごと粉砕して木っ端微塵だ。なんて威力だ。
『レベルが1から2に上がり、ステータスポイントを10獲得しました』
よし、レベルアップを知らせるメッセージが出てきた。ステータスポイントを獲得したわけだが、何を上げよう?
体力と腕力に関しては【HP+100】と【熊の膂力】スキルがあるので優先順位が下がる。魔力もそうだ。魔法系スキルがない現状、急いで上げなくてもいいだろう。となると、敏捷、器用のいずれかってことになる。
そうだな……俺は悩んだ結果、スピードに全部振ることにした。移動速度、攻撃速度、回避速度が上がるだろうから、まずは上げておきたい部分の一つだからだ。器用は命中力や攻撃力の底上げに繋がるだろうが、まずはスピードを重視した格好だ。
試しに歩いてみたりバットをスイングしたりしたら、明らかにスピードが変わっていて驚いた。こりゃいい。ただ、そろそろ不安になってきたので帰ろうかと思う。あまり遠くに行きすぎたら戻れなくなりそうだしな。
これまで得たスキルに【技能工房】で融合を試そうかとも思ったが、今はただ帰りたかった。ハンターって初めてダンジョンに潜ると、しばらくして無性に帰りたくなるいわゆるホームシック症候群ってのが出るらしいが、その気持ちが俺には痛いほどわかった。それまでは高揚感みたいなもので持っていたが、慣れてきたことでそれがなくなり急に不安が押し寄せてくる感じなんだ。
「……」
俺は焦っていた。当然だ。ゴミ箱ダンジョンの瓦礫の塔ってのは、周りが瓦礫だらけってのもあってどこがどこなのかさっぱりわからなかったからだ。これじゃ、スタートラインがどこなのか見当もつかない。緊張のあまりそれどころじゃなかったとはいえ、何か目印でも用意しておけばよかった。
焦燥感も手伝っているのか、歩いているだけで体力が1ずつ減ってきているのがわかる。今は95/110だ。
畜生……俺は死亡配信なんて絶対やらないぞ。同情するやつもいるだろうが、他人の不幸は蜜の味ってやつで喜ぶやつのほうが多いからな。コケにされるだけならまだいいほうで、すぐに忘却の彼方だ。それだけは許すことができない。俺はぼっちでひきこもりを長らく経験した分、幸せになる権利があるはずなんだ。
こうなったら……俺は【熊の膂力】があることを思いつき、瓦礫の壁をバットで打ち崩していった。こうすれば、視野が広くなってスタート地点も見えるようになるかもしれないからだ。「うおおおおお!」俺は叫びながらバットでそこら中の壁を手当たり次第に破壊していく。
『グロマスター:タケルのSAN値減少キタ――(゚∀゚)――!?』
『ねこまんま:タケル君、やばいって!w』
『みかん星人:あわわわ』
「……はぁ、はぁ……」
コメントがあったおかげで俺は大分落ち着いてきた。ちょっとやりすぎたかな……って、あれは! 俺は、右方向に青い光が見えたのがわかった。ゴミ箱の底が青く光っていたことがあったし、あれがきっとスタート地点だ。よかった……。ん、なんか落ちてる。俺はボロボロの人形を拾って【自動修復ボックス】に放り込んでおいた。さあ、おうちへ帰ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます