第2話
ゴミ箱の底から放たれている青い光に手を触れた途端、俺の周囲の景色が一転した。
そこはまさに瓦礫で作られたかのような、そんな退廃的な雰囲気に満ちた空間だった。整然とはしているが、どこか脆弱さを感じさせる空間。
天井も壁も床も瓦礫で作られ、先が見通しにくい構造になっているのがわかる。台形の窓から見える外は分厚い膜があるかのように酷く濁っており、そこから不明瞭で不気味な陽光が射し込んでいる。
「いよいよだな……」
緊張からか、過呼吸気味になりバットを持つ手に汗が滲んだので、俺は深呼吸しつつ汗を服で拭って再びバットを握り直した。
「――ん?」
仄暗いジグザグの狭い通路を慎重に歩いていくと、何かが落ちているのがわかった。
黒い容器の欠片のようなものだ。これはなんだ?【鑑定】してみると、炊飯器の一部なのがわかった。なるほど、ゴミ箱の中のダンジョンというだけあって、こんなものまで廃棄されているのか。
とりあえず【自動修復ボックス】の中に入れておこう。
『炊飯器を自動修復中:1/10』
10になると元通りに復元するらしい。
よし、その間に俺は散策を続けるとしよう。瓦礫の道を一歩ずつ踏みしめながら慎重に歩いていると、ゴソゴソと向こうのほうで音がした気がした。うわ、やばい。近くに何かいる。モンスターだとしたら初戦闘だ。
『グロマスター:新ダンジョン一番ノリキタ――(゚∀゚)――!!』
「う……!?」
びっくりして思わず声が出た。よし、記念すべき初コメだ。ただ、名前がグロマスターって……。確かにダンジョンじゃそういう死に方をするハンターも珍しくないとはいえ、あまり目にしたくない名前だ。
ただ、それでもコメントが来たことで緊張がやや解れたのも確か。やってやる。俺も新ダンジョンでレベルを上げ、有名ハンターの仲間入りを果たしてやるんだ。
「ミミミ」
「え」
奇妙な鳴き声がしたかと思うと、前方から1メートルほどの黒い巾着のようなものが跳ねるようにしてこっちへ迫ってきた。うわ、目玉も口もある。
【鑑定】スキルでは、『レベル1:サンドバッグスライム』と出た。レベル1なら俺でも勝てるのか?
『グロマスター:行け、やっちまえ!!!』
『ねこまんま:変なスライムだねw』
『みかん星人:わお、ダンジョンもモンスターも個性的』
お、いつの間にか視聴者が10人に増えてて、コメントもそれぞれ違う人物から3つ貰った。というか、グロマスターはモンスターと俺、どっちを応援してるんだろう?
【鑑定】スキルで名前まではわかっても、レベルや属性まではわからないのが不便だけど、そこは仕方ない。ひたすら物理で殴るしかない。僕はそう腹を決めて、サンドバッグスライムに向かってバットをフルスイングした。
「ミミミッ!」
手応えはそこそこあったが、ダメだ。やつは結構な反発力で押し返してきて、俺はバランスを崩して倒れそうになる。腕力1だし非力とはいえ情けない。クソッ、負けてたまるか。
「オラアッ!」
よし、今度は滅茶苦茶手ごたえあり。俺のバットがもろにスライムに命中し、モンスターは吹き飛んだが、粉のようなものが視界を覆った。
「くっ……!?」
あのスライム、サンドバッグっていうだけあって砂でも入ってたみたいだな。
「ゴホッ、ゴホッ……!」
俺は咳き込みつつも後ずさりする。視界が悪い間に何をされるかわからないからだ。徐々に砂埃も薄くなっていったかと思うと、そこには破れてぺしゃんこになった巾着だけが残されていたが、それも徐々に消えていった。どうやら倒したみたいだな。物理攻撃は有効だが、いちいち砂が舞い上がるんだったら魔法攻撃があるともっといいかもしれない。
『グロマスター:なんだよ、スライムの謎の砂で肌が溶けたら面白かったのに』
『ねこまんま:ヤダ。そんなの怖いw』
『みかん星人:グロマスターさんは相変わらずですね』
「……」
どうやら、グロマスターはいわくつきの人物らしい。
そんなある意味有名人が見ていることが影響したのか、俺の動画の登録者数はうなぎのぼりで今や10人となった。視聴者数に至ってはその5倍の50人だ。こうしたものもハンターランクには影響するため、大事な要素といえるので喜ばしい限りだ。
ん、炊飯器の修復が完了しましたとメッセージが出たかと思うと、『【HP+100】スキルを獲得しました』と出てきた。
なんでなのかと思ったが、これは拾ったものを修復したことでスキルをゲットしたからっぽい。そうか、なるほど。この瓦礫の塔ダンジョンでは、拾ったものを修復すればスキルゲットできる仕様なのか。
視聴者にはわからないことだし、喋る必要性もないので黙っておくが、俺は内心ガッツポーズしていた。一撃で倒れるようなHP10が110になったのはでかすぎるからだ。【技能工房】スキルを使ってこれと融合できるスキルがあるかどうか確認したが、今のところなかった。まあこれ単体でも今は便利なので問題ない。
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