第28話 金属スライムを倒してレベルアップ
志麻姉ちゃんはエレベーターのスイッチボックスにキーを差し込み、何か操作していた。
「よし、みんな乗り込め」
部員全員が乗り込んだところで、志麻姉ちゃんがBと表示されたボタンを押した。
「「「えっ?」」」
するといつもは反応しなかった地下へのボタンのライトが点灯したのだ。佐渡たちが驚くがシノブは何一つ表情を変えていない。彼女は地下について何らかの情報を知っているらしい。
「こ、こんな空間が学園の地下に!?」
チーン♪とエレベーターが地下に到着した音がなる。佐渡たちは分かりやすい反応をしていた。ドアが開くとそこには地下空間丸ごとサーバールームとなっており、その向こうにポリカーボネート製のパーテーションで区切られた場所があった。
迷宮探索校にここ以上の施設があるが、それは言わない方が良さそうだ。
志麻姉ちゃんに伴われ、パーテーションの中へはいる。
「リリース自体は古いものだが、アップデートは随時行われている。当然、今でも現役だ」
【プロトンテック】
ヘッドセットなどのインターフェース、筐体のカバーなどに刻まれたメーカーの刻印……。【プロトンテック】は【
リリースから十年も過ぎたソフトだが、俺の父さんが開発監修しただけに思い入れが強い。
佐渡が顎に人差し指と親指を当て思案したのち、志麻姉ちゃんに訊ねた。
「でもどうやって、こんなスゴいものを維持してるんですか……?」
「ん? そりゃもちろん義肢製作でだな。月に1000万くらい儲かる」
「「「「「えっ!?」」」」」
志麻姉ちゃんが告げた金額の多さにみんなの眼窩に万札が挟まったような表情になる。
「だがサーバールームと保健室の維持に990万必要だ」
「「「「「あ、あああ……」」」」」
しかし維持費を聞いた途端に俺を含め、みんな意気消沈した。
まあ志麻姉ちゃんらしいと言えばらしいんだけど。
俺が感心半分、呆れ半分という気持ちでいると、ううっ、ううっ、という啜り泣くような声がしてきた。
「早瀬先生……あなたは私たちのためにずっとシミュレーターの維持を……」
声がする方を向くとシノブが感極まって涙をこぼしていた。だが……。
「安心しろ、シノブ。私もむしゃくしゃしたときはこいつを使って、ストレスを発散してるんだ。とくに哪吒に邪険にされたときはな!」
志麻姉ちゃんは急に俺に視線を向けてくる。その瞬間みんながどっと笑った。
何で俺がストレス源みたいな言われ方しないといけないんだ! みんなは俺と志麻姉ちゃんがどういう関係なのか知らないから笑ってられるんだ……。
「んじゃ、私は白衣の天使の真似事をしてくる。あとは自由に使ってくれ」
志麻姉ちゃんは俺たちに注意事項を説明した保健室に戻っていったが、みんな志麻姉ちゃんの乗るエレベーターのドアが閉まるまで頭を下げたままだった。
志麻姉ちゃんに圧倒的感謝の意を示した俺たちはダンジョンVRシミュレーターを使い、パーティーの連携を試みた。
各人ヘッドセットを装着し、東都迷宮を模した世界へとダイブした。匂いこそないが1層などその場にいるんじゃないかと錯覚してしまうくらい再現度が半端ない。
「みんな、せっかくだから作戦行動は迷宮探索校出身の日向くんにお願いするけど、いいかしら?」
さっきは俺を持ち上げてくれた佐渡たちだったが、いざ実践となると違ってくる。よそ者に指示されるなんて嫌がられても仕方ないことだ。
俺は反発を予想していたが……。
「異議なし!」
「哪吒さんの指示、楽しみにしてます」
「わくわく!」
ただの杞憂に終わる。三人はむしろ俺の指示を聞きたがってくらいだった……。
「だそうよ。エリートのお手並み拝見といったところかしら?」
「もう茶化さないでください。真面目にやりますよ」
早速俺たちはモンスターが跋扈する草原フィールドへと移動する。みんなはそれぞれ武器を携え、岩や草むらといった物陰へ潜んでいた。こちらが有利に戦える奇襲戦で自信をつけてもらうのが目的だ。
飛んで火にいる夏のモンスター、そんなフレーズが浮かんでしまうくらい迂闊にスライムがぴょんぴょんひょんと低い草の上を飛び跳ねてこちらに向かってくる。
こちらにまったく気づいた様子はない。だが……。
「たあっ!」
シノブが物陰から宙返りしながらスライムの頭上へと踊り出て
「流石部長!」
みんなはシノブに拍手を送って賞賛していた。
俺にはすぐに分かった。
このパーティーの今の状態では活動実績を上げることは不可能だと。確かにシノブの能力は部員三人に比べ突出している。
シノブは相当強いメンバーの中で鍛えられたのだろうと予想できるが、このメンツだとその自信と実力が却って仇になってしまう。
シノブはメンバーのことを考えずに先行、焦ったメンバーがシノブを追い掛けるも間に合わず、モンスターによってパーティーが分断された結果各個撃破される様子が容易に想像できた。
「一つ目の指示ね。部長は一番最後に動いて」
「え? 何で? ちゃんとモンスターを倒せたじゃない」
俺は思っていたことを率直にシノブへと伝えた。
「……言われてみれば確かにそうね。分かったわ。じっと耐え忍ぶことにする」
シノブが俺の説明に納得してくれて再び隠れたときだった。
とんとんとん♪
なっ!?
また跳ねるモンスターか……。どうせスライムだろうな、と思ったら銀色に輝く体躯。
メタリックスライムだった。
飛び跳ねて移動する際に擦れて、メタリックボディに静電気を帯びる。その電気がメタリックスライムを倒そうと近づいた際に放電され、大ダメージを負ってしまう厄介な相手だ。
「無理だよ! いくらシミュレーションでも勝てっこない」
メタリックスライムを見た三人は恐ろしくなったのか腰が引けていた。
だが放電にさえ気をつければ、向こうから逃げていくようなモンスター。恐れる相手ではない。
俺は佐渡に指示を送ると彼はメタリックスライムに向かって適当に拾った木の枝を投げつける。
ビリビリビリッとけたたましい音とともに電気が放たれ、木枝が真っ黒に焦げて地面に落ちる頃にはすべて灰になり、風に吹かれて跡形もなく飛んでいってしまった。
「今だっ!!!」
俺の指示で三方から一斉に飛び出した三人はメタリックスライムに攻撃を加える。敵もさるもの、攻撃は寸でのところで躱され、なかなか当たらない。
「くそっ! 当たれ!」
「もっと良く見て狙って!」
「飛び跳ねた瞬間の空中で捉えよう」
三人はそれぞれ工夫しながら、メタリックスライムに攻撃を与えていた。
「逃げるなっ!!!」
あと最後の一撃といったところでメタリックスライムが包囲網を突破しようと勢い良く飛び出してくる。
これは俺からのサービス!
こっそり【
【神の見えざる手】がメタリックスライムの進路を妨害し、動きが止まる。
「たあっ!!!」
レディファーストということで伊勢がスタッフの一撃を振り下ろすと逃げ場を失ったメタリックスライムにクリーンヒットした。
―――――――――――――――――――――――
メタリックスライムを撃破しました!
―――――――――――――――――――――――
テロップが表示されると三人はふるふると震え出す。
「うそ!? 私たちだけでメタリックスライムを倒せてしまうなんて」
「信じらんないよ」
「でも哪吒さんがシミュレーターでできたことなら、ダンジョン内でも実現可能だからって……」
「私は三人がやればできる子だと信じてたよ」
「「「部長!」」」
佐渡たちがよろこびからシノブにハグしようと駆け寄ったが、佐渡と赤沢のハグは見事に躱して伊勢とだけ抱擁していた。
草むらにダイブした佐渡と赤沢は……。
「「酷いっす部長ぉぉ……」」
なんてことがありつつもメタリックスライムを倒した自信からか、シミュレーター内で10層にまで到達し、
シミュレーターでのトレーニングを終え、志麻姉ちゃんにメンテナンスボックスの鍵の返却を兼ねて保健室へ報告に行く。
だけど俺が鍵を差し出すと、突き返された。
「おまえらに餞別だ。鍵はおまえらで保管しろ」
「志麻姉ちゃん、ありがとう……」
「礼には及ばん。その代わりあとで哪吒には私からスケベトレーニングをつけてやろう」
「志麻姉ちゃん……善行をすべて台無しにするような発言は止めて……」
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