第25話 陰陽師ヒロインのご奉仕
――――【アリシア目線】
ファーーーーン♪
シルバーの車体が暗闇の中で鈍く光る。メトロのライトが見えたことで、ふうと深い息を付いた。車両は私の前を通過して、そのまま闇の中に消えてしまう。
颯真とゆきさんを二人残して、私たちはダンジョンから地上へ通じるメトロの管理区画まで無事帰還した。
「ありがとう、哪吒くん……あなたのお陰で無事帰ることができた。私はあなたが放校されるときに何もできなかった……なのにどうしてこんなに優しくしてくれるの? おかしいよ……」
思わず彼への気持ちが押さえきれずに名前で呼んでしまった。ホントは有栖川さんみたいに彼の胸に飛び込めたらいいのだけど、彼に変に想われたら……そう思うと足が竦む。
「御門さんは……いや三人とも俺を充分過ぎるくらい庇ってくれたよ。だってほら!」
哪吒くんは私に向かって微笑んだあと、私彼のお父さんの形見である雌雄一対の剣を見せた。
本来ならダンジョン探索以外で校外へ持ち出すのに煩雑な許可が必要ななもの。両腕を失ってしまった彼は自分には必要ない、しかるべき者が現れたときに譲渡して欲しいと私たちに預けていた。
でもそんな人いるわけなじゃない!
【回想】
日向くんが迷宮探索校を去ったあと、休日になると私は迷宮探索校の修練場で禊をしていた。
ザーーーーーーーーーッ。
滝口から大量の水が流れ落ちている。それ以外の音は聞こえず、轟音なのに精神が澄んでいく。修練場は行場のような峻険な岩場となっており、そこから大量の水は滝壺へと注がれていた。
誰か来てもすぐに分かるように結界を張ったあと、シートを敷いたテーブル状の石の上へ脱いだブレザーを置いた。
ブラウスのボタンを一つ一つ外していく。も、もし、私が日向くんとそういう日を迎えるときがあったなら、こんな風に服を……。
ううん、今はそんなことを考えないで集中、集中……お父さまが処女による剣の禊が最も清らかだと教えてくれていた。なのに邪な気持ちを抱いてはいけない。
スカートのファスナーを下ろすとスカートがストンと落ちる。
結界を張ったとはいえ、全裸になった姿を誰かに見られたり、盗撮でもされたりしたら私の人生が終わってしまう。決して私に露出の趣味はないのだけれど、儀式である以上お外で全裸にならねばならなかった。
ブラを外すと乳房が露出する。日向くんを想うあまり食事の量は以前より減っているにも拘らず、大きくなってしまったような気がする……。
ショーツを片膝を曲げて脱いだが、まだソックスとリボンタイが残っていた。筧さんが男性向けのえっちな本を持ってきて、『男子はこういう格好が好きなんだよー』と私と有栖川さんに教えてくれた。
誰も見てないと分かっていても恥ずかしくて腕と手で乳房と股間を隠してしまう。日向くんも全裸にリボンタイとソックス姿が好きなのかな? だったら恥ずかしさに耐える必要があるかもしれない。
一糸纏わぬ姿になったあと、白装束を羽織る。
魔物を斬れば自ずと彼らの穢れた血を吸ってしまう。そうなれば単に切れ味が落ちるだけでなく、剣が
私は呪詛を払う儀式を始めた。
日向くんに助けられたというのに擁護もできずに、颯真の思うがままに彼を放校に追いやってしまった罪深い私……。
布から取り出した黒帝を抱えたまま素足を忍び込ませるようにゆっくり滝壺へ入れると、冬の冷たい水が刃のように私の足を刺す。冷気は瞬時に脳へ達し、まるでかき氷を一気に食べたようにツーンとした痛みがこめかみに走った。
それでも冷たさと痛みに耐え、腰まで滝壺に浸かる。足下に注意を払いながら滝下へ至る。大量の水が私の身体に容赦なく降りかかった。
『はあっ、はあっ、はあっ……』
でも日向くんが受けた
凍える手で鋭利な刃に注意しつつ黒帝の水分を拭き取る。ダンジョンの
家で取れた椿油を塗りながら、手入れを終えるともう一振りの氷妃の禊に取り掛かった。
くたくたになり氷妃の禊を終える。いつか日向くんが雌雄一対の剣を取りに戻る日を信じていたからやり遂げられた。
こんなことで私の罪が償われるわけじゃないけど、やらなければ私の心は張り裂けそうだった。
そのあと颯真が遊び半分で雌雄一対の剣に触れようとしたことがあった。点検のために保管していたロッカーから黒帝を取り出したら後ろに颯真がいたのだ。
びっくりして、気づくと私は黒帝の鞘を強く握っていた。そんな私とは裏腹に颯真は子どもじみたことを言ってくる。
『早速試し切りしてみようぜ! あいつに貸してくれってオレがわざわざ頼んだのに一回も貸してくんねえだもん。どうせ、
黒帝に颯真の手が伸びるが、私は腰を切って、颯真の手を避けた。
『彼の剣に触れないで! 颯真には指一本触れさせない。これはあなたのような穢れた手で触れていいものではないわ』
『ああっ!? オレの許婚の分際で、婚約者であるオレに逆らおうってか?』
颯真が乱暴にロッカーへ手をついて、凄んでくる。私は颯真と目を合わせないでいると彼はもう一方の拳を振り上げていた。
『オレが婚約者だからって手を上げねえって思ってたら大間違いだからな! 今からどっちがご主人さまか分からせてやるっ』
婚約破棄をするためにはDVを受けているという証拠が必要……。覚悟を決めて殴られようとしたときだった。
『止めろ! 日向に管理を任されたのはアリシアだ。おまえが気安く触れていいもんじゃねえよ』
『そうだ! そうだ! なたくんの大事なものなんだからね』
筧さんと有栖川さんが駆けつけてくれていた。筧さんは颯真の拳を、有栖川さんは颯真のベルトを掴んで彼を制止している。
彼女たちを無理やり振り解いた颯真。
『てめえら、いつから哪吒の肩持つようになった? オレがパーティーのリーダーってこと、忘れてねえか?』
『逆だ。日向がこのパーティーを支えてたんだ』
『ああ? 哪吒なんてただモンスターを攪乱する程度の役割しか果たしてねえだろ。美里、おまえはヤリマンだけじゃなくて目まで腐ったのかぁ?』
『うるせえ!』
筧さんが颯真を蹴ろうと構えた後ろ足を下げたが……。
『おっと!? センセー、筧さんが暴力振るってくるんですけどぉ!』
『くっ!』
颯真の方針に従わないだけなら許容範囲だろうけど、流石に彼に手を出してしまったら、それこそ彼女も退学に追い込まれてもおかしくない。
手を出せない筧さんを見て、颯真がヤリマンだのビッチなど酷い言葉で罵倒する。筧さんはただ歯を食いしばり堪えるのみ。あまりにも酷いので私は腰の後ろに手を隠し、颯真の頬を思い切りひっ叩こうとしたら……。
『あ、あの……どうしたんですか?』
『おー、ゆきじゃねえか! ちょっと
『えっと、これから授業……』
『んなの気にすんなって。なんならオレが勉強を教えてやっよ』
ゆきさんが訪ねてきて、二人はそのままどこかへ消えていった。
二人がロッカールームから消えてから深い溜め息をついた。私たちもロッカールームから出ると騒ぎを聞きつけたのか廊下は生徒の人集りができていた。
私を見た筧さんの顔がほんのり赤い。
『アリシア……ちょっとエロ過ぎね?』
『うんうん、ありりんえっち』
『えっ? 何が?』
私は日向くんの形見を守ろうとするあまり、黒鞘の黒帝を胸元で抱えていた。気づくと鞘は胸の谷間にすっぽりはまり二の腕は私の乳房を鞘へと押し付けている。それを見た男子たちが前屈み気味で次々と廊下を走っていった。
『ひゃんっ! 私をそんなえっちな目で見ないで』
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