第16話 間男の嘘がバレて修羅場

――――【アリシア目線】


 私たちは第10層というダンジョンの比較的浅い場所にいたけど颯真はいつも以上に苛立ちを露わにしていた。


「雑魚の癖にうぜぇんだよ!!!」


 スケルトンの群れが颯真と更科さんを囲んでいる。颯真は長剣ロングソードを大きく振りかぶってスケルトンに叩きつける。颯真の目の前のスケルトンは胴体の骨を切断され崩れ落ちた。しかし後から後からスケルトンはアブラムシのように湧いてくる。


 あんな雑な動きだと体力を消耗してしまう……。


 私を含む筧さんと有栖川さんの周りに結界を張ったことで、低級モンスターはこちらに気づいていない。


「アリシア! 何でオレにも結界を張らねえんだ! ちゃんと仕事しろよ! ガキか?」

「お生憎さま。私の結界は本来三人が入るので限界なの。六人が入れていたのは日向くんがバフで強化してくれてたことを知らないの?」 


 チィッと颯真は舌打ちをする。


 颯真が苦戦している理由は簡単、ダンジョン攻略RTAに挑戦しようとして急いだあまり、ダンジョン内に溢れる瘴気に身体が順応する前に奥へ奥へ進んだことでデバフが掛かっていたからだ。


 日向くんはそんなせっかちな颯真を宥めつつ、メンバーの身体が瘴気に馴染むよう時間を稼いでくれていた。


 日向くんは階層を下る直前やボスが潜んでいると思しき部屋など危険が伴う場所になると決まって、緊張でお腹が緩くなったと席を外す。そんな彼を颯真は「また哪吒の腹痛かよ。神経質にも程があるよなぁ!」と嘲笑していた。


 でも私は知ってしまった。


 彼が私たちが危険な目に遭わないようこっそり先に進んで下処理していたということを……。


 お手洗いにしては長いと思った私は日向くんのことが心配になり、物陰に隠れてお花を摘めそうな場所を式神まで動員してくまなく探したんだけど、彼の姿はどこにもなかった。


 まさかと思い、式神を更に次の階層へ送り情報収集した結果、斥候スカウトどころか威力偵察以上の成果を上げていたのだから。


 だけどそんなことに全く気づかず、日向くんを過小評価してパーティーリーダーの権限でD級探索者に止めおいた。私ですらBだと言うのに……。


 日向くんがパーティーから除名された以上、颯真のわがままに付き合うのが馬鹿らしくなった私は……。


「悪いけど、私たちはここで退かせてもらうわ」

「なっ!? アリシア、てめえ、何言ってんだ! ふざけんなって!」


 颯真に反旗を翻した。スケルトンの刃を受けながら、驚きの表情を浮かべて振り向く颯真。


「何もふざけてないわ。颯真だって、私たちを見捨てて撤退したじゃない。私たちを助けてくれたのは日向くんよ」

「まったくだ」

「そうだそうだ!」


 筧さんや有栖川さんも私の言葉に大きく頷いていた。彼女たちも颯真の強権的なやり方に不満を抱いていたのだろう。


 ダンジョン内だというのにデートかと勘違いするほど颯真と更科さんは距離を詰め、並んで歩いていた。私たちに見せつけるようにセクハラを始めた颯真。腰どころか、胸元やお尻を颯真に触れられても更科さんは満更でもなさそうな様子……。


 二人ともが気持ち悪く見る堪えなかったのもある。


 私たちがここで退けば、RTAは失敗に終わる。あれだけ配信で三時間以内に30層のボスを倒して、リベンジを果たし戻ってくると全世界に向けて豪語していたけど、そんなことは私たちには知ったことではなかった。


 私の撤退宣言に焦った颯真は、今口に出してはいけない言葉を言ってしまった。


「アリシア! おまえはオレの婚約者だろうが! そのオレを見捨てんのか、この薄情者がっ!!!」


 颯真の失言を耳にしてしまった更科さんが口に手を当て真っ青な顔になる。


「……婚約者!?」


 更科さんのあの様子だと颯真は彼女にちゃんと説明してなかったらしい。颯真のことだ、どうせ更科さんは遊び相手にくらいしか思ってなかったんだろう。


「颯真くん! アリシアさんが婚約者って、どういうことなの? ねえ! ねえったら!」


「うるせえっ! 今はそんなこと気にしてる暇があったら、俺にヒールを掛けろ! じゃねえとてめえもモンスターどもに蹂躙されて哪吒みてえに腕がなくなんぞ!」


「ひっ!? そ、そんなのヤダよ……た、助けて哪吒くん……怖いよ、哪吒くん……」


 恐らく颯真は更科さんに「おまえだけを愛してる」とか見え透いた嘘をついて、哪吒くんから寝取ったに違いない。


 彼女が騙されていたとは言え哪吒くんから颯真に乗り換えたことは事実……。


 私は正直そんなことには怒っていない。


 いけないのは更科さんが哪吒くんの放校処分に何一つ抗議しなかったこと。


 颯真のことが好きになったとしても、レベルの低いあなたを陰から守り、支え続けた哪吒くんを見捨てたの。


 それだけは絶対に許せなかった。


「行きましょう、筧さん、有栖川さん」

「おう!」

「うん!」


 反対されるかな、ってちょっと思ったけど、二人も私と同じ想いだったみたい。


 かなり痛い目は見るけど、この浅さなら救援は来る。死ぬことはないわ。ただ費用は高くつくと思うけど……。


「ゆきっ! 何もたついてんだ! さっさとしろよ、このノロマ!」

「今やってるから怒んないで……。哪吒くんは怒ったりしなかったのに……」


「なんだと!? オレが哪吒より格下だっていうのか! ふざけんなよ!」

「そんなこと言ってないから!」


「颯真……あなたが更科さんを誘ったんでしょう? だったらパーティーのリーダーとして、彼女を守るのが義務でじゃないかしら?」


「アリシア! てめえ……こっから出たらどうなるか分かってんだろうなぁ!」

「私を日向くんと同じように放校処分にするつもりなの? それならそうしてもらえると助かります。けどそれで困るのは颯真……あなたよ」


「うぐっ!? くそったれがぁぁ!!!」


 放校処分に加えて、向こうから婚約破棄を宣言してくれれば私は晴れて日向くんの下へ行けるのだから……。

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