第2話

その日、公爵邸にはいつもと異なる緊張感が漂っていた。空はどんよりと曇り、どこか不吉な予感を感じさせる。ソフィア・ラティーナは公爵邸の書斎に呼び出され、困惑しながらも静かに扉を開けた。そこにはレオン・グランヴィルが冷徹な表情で立っていた。


「お呼びでしょうか、公爵様?」

ソフィアは冷静に言葉を紡ぐ。数日間、彼のもとで過ごすうちに、彼の目の前では決して動揺を見せてはならないことを学んでいた。しかし、レオンの視線はいつも以上に鋭く、室内には数人の騎士団員が控えている。


「ソフィア・ラティーナ、王宮からの命令だ。お前に重大な罪の疑いがかけられている」


「――は?」


一瞬、ソフィアの耳が信じられなかった。騎士団の長が一歩前に進み、硬い表情のまま告げる。


「王家の機密情報が外部へ漏れ出ており、その罪をあなたが犯したという告発が届きました。証拠も揃っております」


「私が……ですって?」

ソフィアは目を見開いた。王家の機密情報?そんなものに関わったことなど一度もない。ましてや外部に漏らすなどあり得ない。


「何の冗談ですか、それは。私にはまったく身に覚えがありません」


「証拠は揃っている」

レオンが冷たい声でそう告げると、机の上に置かれた書類が彼女の目に入った。王宮の印が押された文書――そこにはソフィアの署名がされている手紙が並べられていた。


「これは……!」

ソフィアは手紙を手に取り、震える手で内容を確かめる。そこには、明らかに彼女の筆跡を模した文字で王宮の機密に触れるような内容が書かれていた。


「私ではありません!こんなもの、偽造です!」


「確かにこれはお前の筆跡に見える。そして、これが王宮の間者に渡った証拠もある」

レオンは淡々と告げるが、その金色の瞳にはいつものような冷たさとは違う、何か探るような光が宿っている。


「それは罠です。何者かが私を陥れようとしているのです!」

ソフィアの声は震え、顔は青ざめていた。彼女には確信があった――これは明らかな陰謀だ。王家、あるいは彼女に敵意を持つ誰かが、自分を破滅させようとしているのだ。


「弁明は王宮で聞こう。お前には王宮で正式に裁きを受けてもらう」


レオンがそう言い放つと、騎士団員がソフィアに歩み寄り、その腕を掴んだ。ソフィアは抵抗しようとしたが、貴族令嬢として培った品位がそれを許さなかった。


「公爵様……」

ソフィアはレオンを見つめる。冷徹な彼の表情の奥に、何か別の感情が見えた気がした。だが、彼は何も言わず、ただ黙って彼女を見送った。



---


王宮――そこはいつも以上に冷たく、彼女を迎える者たちの視線は冷酷だった。

大広間には、第二王子エリオットが玉座の下に立ち、勝ち誇ったような表情でソフィアを待ち構えていた。


「ソフィア・ラティーナ。お前の罪は明らかだ。もはや言い逃れはできまい」

エリオットの声が響く。その顔には憎悪と嘲笑が混じっている。


「これが私の仕組んだ罪だと?何を根拠にそう言えるのですか!」

ソフィアは毅然とした態度で言い返すが、エリオットはその余裕を崩さない。


「証拠は揃っている。そして――これだ」


エリオットが手にしたのは、王家の間者が「あなたに渡された」と証言したという手紙の写しだった。彼女が見せられた手紙と同じもの――だが、明らかに彼女を貶めるための偽造品である。


「こんなもの、偽造です!」


「偽造だと?ならばその潔白を示してみろ。だが残念なことに、これほど証拠が揃っている状況で、お前の言葉など信用できるはずがない」


ソフィアは息を飲んだ。王宮の重臣たちは口々に「確かにこれでは致し方ない」と囁き合い、彼女への疑念が広がっていくのが分かる。


――これは罠だ。私は誰かに嵌められた。


エリオットが、悪意に満ちた表情で口を開く。


「私はお前のような女と婚約できない。冷たくて愛想のない女だと分かっていたが、まさか裏切り者だったとはな」


その言葉に、ソフィアは唇を噛んだ。彼の言葉は彼女のプライドを踏みにじるためだけのものだ。そして、彼がこの罠に関わっているのだと直感する。


「私は何もしていません。それでも私を罪人に仕立て上げるなら――」


ソフィアは高らかに言った。


「――私を処罰なさるがいいわ。ただし、あなたが後悔する日が必ず来るでしょう」


エリオットの顔が一瞬ひきつる。その様子を見て、ソフィアはわずかに微笑んだ。



---


その日、ソフィアは「王宮の機密を漏洩した疑い」で公爵家との婚約を破棄され、王宮から追放を言い渡された。侯爵家の令嬢でありながら、彼女は一夜にして罪人として扱われることとなる。


護送される馬車の中、ソフィアはただ静かに外を見つめていた。


――私は負けない。必ずこの陰謀を暴いてみせる。


彼女の胸の中に、新たな決意が芽生えつつあった。


 ソフィア・ラティーナは王宮を追放された翌日、公爵邸から侯爵家へと戻ってきた。しかし、その道中で彼女はまるで罪人のような扱いを受け、周囲の視線が突き刺さるのを感じていた。


「裏切り者が通るぞ」

「なんて恥知らずなんだ……」


通りすがりの人々が囁き合い、蔑むような視線を向ける。それら全てがソフィアの耳に届き、胸の奥がひどく痛んだ。だが、彼女は怯むことなく、毅然とした姿勢を保った。


――こんなこと、耐えてみせるわ。真実が明らかになるまで。


侯爵家の馬車がゆっくりと邸内に入ると、父である侯爵、母、そして兄弟たちが冷たい表情で彼女を迎えていた。いつもは威厳に満ちた父の顔には、深い怒りと失望の色が浮かんでいる。


「……よく戻ってこれたものだな、ソフィア」

父のその一言が、彼女の心に鋭く突き刺さる。


「お父様、私は――」

「言い訳は聞きたくない!」


怒声が広間に響く。母もその横で溜息をつき、首を振る。


「何がどうなったのかは知らないが、王宮に逆らうことは侯爵家の名誉を汚すことになるのよ。私たちの顔に泥を塗ってくれたわね」


「違います!私は何もしていません。これは罠です!」

ソフィアは必死に訴えるが、父は冷たい目を向けるだけだった。


「侯爵家にとってお前はもう不要だ。王宮の命令を受けた以上、我々には逆らえん」

「不要……ですか?」


ソフィアはその言葉を呆然と繰り返した。


――私が、不要?


これまで侯爵家の名誉のため、貴族としての役割を果たし続けてきたというのに。政略結婚すら受け入れてきた自分が、あっさりと「不要」だと切り捨てられた現実に、彼女の胸は張り裂けそうだった。


「お前はしばらくこの屋敷にいることも許されん。罪人を匿えば、侯爵家も危うくなるからな」

「お父様……!」


「追放された者に我が家の敷居をまたぐ資格はない。今後は別邸に移り、ひっそりと過ごせ」


父の宣告に、母も何も言わずただ彼女を見つめている。ソフィアは強く唇を噛み締めながら、頭を下げるしかなかった。


「……分かりました」



---


その夜、侯爵家の別邸に移されたソフィアは、自室の窓辺に座っていた。広く静まり返った部屋は、彼女の孤独を際立たせる。王宮からの帰路で向けられた視線、そして家族からの冷たい仕打ち――それら全てが彼女を打ちのめしていた。


「私の何がいけなかったの……?」


その問いが虚しく宙に消える。ソフィアの頬を一筋の涙が伝ったが、彼女はすぐにそれを拭い去った。


泣いている場合ではない。


彼女は強い意志を込めて立ち上がる。これは誰かの罠だ。それならば、その誰かを見つけ出し、真実を証明するまで諦めるつもりはない。


――私を陥れた者が必ずいる。その正体を暴いてみせるわ。


その時、扉をノックする音が聞こえた。侍女のルーシーが静かに入ってくる。彼女の顔には不安の色が浮かんでいた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「ええ、平気よ」


「……お嬢様、王宮の方から噂を聞きました。第二王子エリオット様が、今回の件に何か関与しているのではないかと……」


「エリオットが?」


ルーシーの言葉にソフィアの胸がざわつく。第二王子エリオット――かつてソフィアの婚約者であり、彼女を冷たく捨て去った男。彼の関与の可能性は充分に考えられる。


「……もしそうなら、エリオットは私を徹底的に破滅させようとしているのね」


ソフィアの目に静かな怒りが宿る。彼女を陥れただけでは飽き足らず、侯爵家からも追いやり、完全に孤立させるつもりだ。


「お嬢様、どうかご自分を責めないでください。必ず真実が明らかになります」

「ありがとう、ルーシー」


ルーシーの優しい言葉に、ソフィアは小さく微笑んだ。しかし、その笑みの奥には決意の炎が宿っている。


――王宮も、家族も私を見捨てた。でも私はここで終わらない。必ず真実を掴んでみせる。



---


翌朝、別邸の庭で一人佇むソフィアの前に、黒い外套を纏った男が現れた。その男は顔を隠し、静かな声で言った。


「ソフィア・ラティーナ様、お届け物です」


男が差し出したのは一通の手紙――そこには「真実を知りたければ、王宮の北塔に来い」とだけ書かれていた。


「北塔……?」


その場所は普段立ち入りが禁じられている王宮の一角だ。ソフィアは怪しみながらも、心の中で直感する。


――そこに真実があるのかもしれない。


「私を試すつもり?いいわ、乗ってあげる」


彼女の中に迷いはなかった。どれほど危険であろうとも、自分を陥れた者の正体を暴くため、ソフィアは真実への一歩を踏み出そうとしていた。


――誰にも負けない。私はソフィア・ラティーナなのだから。



 ソフィア・ラティーナは夜の帳が下りた侯爵家の別邸で、一人密かに馬車に乗り込んでいた。手には「真実を知りたければ北塔に来い」と記された匿名の手紙。それが罠である可能性は高い。しかし、黙って身を引くつもりは毛頭なかった。


――王宮の北塔。そこに真実があるのなら……何があっても手に入れてみせるわ。


「お嬢様、どうかお気をつけて……」

付き添いとして来てくれた侍女のルーシーが心配そうに見送る。ソフィアは柔らかく微笑んで、彼女の手をそっと握った。


「大丈夫よ、ルーシー。私はただ、真実を見つけに行くだけだから」


そう言って、彼女は闇に紛れるように静かに別邸を後にした。



---


王宮の北塔は、普段使用されていない建物で、王宮内でもその存在を知る者は少ない。誰も近寄らないその場所は、夜になると一層不気味な雰囲気を放っていた。馬車が王宮近くに止まると、ソフィアはフードを被り、慎重に北塔へと足を踏み入れる。


――石造りの古い階段を上り、足音が冷たく響く。闇の中を進むソフィアの耳には、何か小さな音がかすかに聞こえてきた。


「……誰かいる?」


慎重に歩みを進めると、目の前に一つの扉が現れる。ソフィアが手を伸ばし、ゆっくりと扉を押し開けたその瞬間――。


「――待て」


低く、冷徹な声が響いた。


「……!」


扉の向こうには、予想外の人物――レオン・グランヴィルが立っていた。金色の瞳が闇の中でも鋭く光り、彼女を見据える。


「どうして……あなたがここに?」

驚きと警戒を隠し切れず、ソフィアはレオンを見つめ返す。しかし、彼は淡々とした様子で扉の前に立ちはだかる。


「お前こそ、こんな場所に何の用だ?」


「それは――」

ソフィアが言葉を詰まらせたその時、レオンは手紙を取り出し、彼女に見せつけた。


「これと同じものが俺のもとにも届いた」


ソフィアは息を飲んだ。


「あなたも……?」


「どうやら、俺たち二人を引き合わせようとしている者がいるようだな」


レオンの声には冷静さと警戒心が滲んでいる。彼は目の前のソフィアをじっと見つめ、その瞳には先日の冷徹な表情とは異なる、どこか探るような光が宿っていた。


「お前、これが罠だと気づいていたのだろう?それでも来たのか」


「……ええ。真実を確かめるために」


ソフィアは真っ直ぐにレオンを見つめ返す。その瞳には強い意志が宿っていた。彼女のその姿に、レオンの目がわずかに細まる。


「馬鹿だな、お前は。命を落とす可能性もあったというのに」


「私にはもう失うものなどありませんわ。真実を知るためなら、どんな危険にも立ち向かいます」


ソフィアの揺るぎない言葉に、レオンはしばし沈黙した後、小さくため息をついた。


「……そういうところだ、お前が面白いのは」


「え?」


突然の言葉にソフィアは目を瞬かせる。レオンは彼女に背を向け、部屋の中へと足を踏み入れる。


「ついて来い。罠かどうか確かめてやる」



---


北塔の部屋は、予想に反して広々としており、古い書類や家具が雑然と積まれていた。レオンは油断なく部屋の中を見渡し、細かく観察している。ソフィアもそれに倣い、室内の様子を探り始めた。


「……これは?」


ソフィアが一枚の古い帳簿を手に取ると、そこには見覚えのある名前がいくつか書かれていた。その中には、第二王子エリオットの名前もあった。


「これは、王家の……?」


「間違いない。王宮の財政に関する帳簿だ」


レオンが帳簿を手に取ると、彼の表情が険しくなる。そして、次の瞬間、ソフィアは別の書類の中に、ある手紙を見つけた。


「……これ!」


ソフィアが震える手で持ち上げたその手紙は、彼女が濡れ衣を着せられた時に見せられたものと酷似していた。しかし、よく見ると署名の部分が不自然に改ざんされていることに気づく。


「これが証拠よ……!私が無実だという証拠!」


ソフィアの声に、レオンも書類を覗き込む。そして彼は冷静に言った。


「誰かが王宮の機密を流出させ、その罪をお前に着せた。そしてこの帳簿――これは第二王子が関与している証拠になる」


「エリオット……!」


ソフィアの胸に怒りが込み上げる。彼女を陥れただけでなく、王国そのものの不正に関わっている証拠がここにあるのだ。


「どうやら、これが今回の真相に繋がる鍵だな」


レオンが手にした帳簿と手紙を慎重に仕舞う。その時、外から複数の足音が聞こえてきた。


「……誰か来る!」


ソフィアが慌てて声を上げると、レオンは静かに頷いた。


「ここから出るぞ。証拠は揃った」


レオンがソフィアの手を引き、二人は急ぎ足で部屋を後にする。外からは兵士たちの怒声が聞こえ、北塔は一瞬で騒然となった。


「待て!誰かいるぞ!」


暗闇の中を駆け抜けながら、ソフィアはレオンの手の温かさを感じていた。彼の冷徹な態度の裏に隠された「真意」――それが、少しずつ彼女にも分かり始めていた。



---


北塔を抜け出し、夜の王宮から離れると、レオンは馬車を用意していた。


「お前はしばらく別邸に隠れていろ。俺が証拠を整理し、この件を王宮に突きつける」


「あなたが……?」


「俺がやると言った。お前は黙って待っていろ」


レオンの言葉に、ソフィアは驚きつつも、彼の金色の瞳に宿る確かな決意を感じ取った。


「……ありがとう、レオン様」


彼の名前を自然と呼んだソフィアに、レオンは何も言わず、ただ夜の闇を見つめていた。


――彼が私の敵ではないなら、私はまだ戦える。


ソフィアは夜空に輝く星を見上げ、小さく息を吐いた。


「絶対に負けない。私の無実は、必ず証明してみせるわ」


 ソフィア・ラティーナが王宮の北塔で手に入れた証拠――第二王子エリオットの関与が示唆される帳簿と改ざんされた手紙は、彼女の無実を証明する鍵だった。しかし、それを明らかにするには慎重な準備が必要だとレオンは判断し、ソフィアを侯爵家の別邸に隠したまま、自ら王宮の動向を探ると告げた。



---


「……結局、ここで待つしかないのね」


ソフィアは別邸の窓辺に座り、手元の紅茶にそっと口をつける。外はまだ春の気配を残していたが、彼女の心は晴れないままだった。

それでも、手にした証拠がある以上、絶望だけではない。必ず真実は明らかになる――そう信じて、彼女はじっと時を待つことにした。


「お嬢様、少しお顔色が優れないようですが……」

侍女のルーシーが心配そうに声をかける。ソフィアは小さく微笑んで答えた。


「大丈夫よ。少し疲れているだけだから」


だが、その微笑みの裏にある不安を、ルーシーは敏感に感じ取っていた。王宮から追放され、家族からも見放された今、ソフィアが孤独に耐えていることを――。


「……本当に、レオン様は信頼できるのでしょうか?」


ルーシーの問いに、ソフィアはふと視線を遠くに向けた。レオン・グランヴィル――冷徹と噂される男だが、彼は王宮でソフィアを見捨てず、真実を共に探ろうとしてくれている。


「信じるしかないわ、今は……」

ソフィアの声は静かだが、確かな強さを秘めていた。



---


数日後――夜の別邸


その日、静寂に包まれた別邸に一台の馬車が滑り込んだ。外の気配に気づいたソフィアが玄関に向かうと、黒い外套を纏ったレオンが、ひっそりと姿を現した。


「レオン様!」

ソフィアは思わず駆け寄る。彼の服には所々土埃がついており、かなり奔走していたことが窺えた。


「騒ぐな。中に入るぞ」


レオンは冷静な口調ながら、疲労の色を隠せない。それでも彼は、手にした革袋をソフィアの前に差し出した。


「……これは?」

「お前の無実を示す決定的な証拠だ」


ソフィアは息を飲みながら革袋を開け、中身を確認した。そこには例の改ざんされた手紙と共に、第二王子エリオットが使用していた側近たちの署名が記された証言書が入っていた。


「まさか、これ……」

「エリオットの側近数人が口を割った。王宮の機密を外部へ流出させたのは第二王子本人だ。それを隠すため、お前に罪を着せたのだと」


「……!」


ソフィアの手が震える。無実を証明するだけでなく、エリオットの悪行そのものが白日の下に晒される証拠だった。


「どうして、ここまで……」

ソフィアはレオンを見つめる。その金色の瞳はいつも以上に真剣で、鋭い光を放っていた。


「お前にここまでさせたのは誰かが分かっているか?」

レオンの声は低く、冷たかった。その問いに、ソフィアは静かに頷く。


「エリオットの他に、私を見放した父や王宮の重臣たち……きっと、私が目障りだったのでしょう」


レオンは目を細め、重々しく頷いた。


「お前は賢い。だからこそ、邪魔だと思った者たちがいたのだろう。そしてそれは、何よりお前が彼らの恐れを超える力を持っている証拠だ」


「私が……力を?」


「そうだ。お前のその強さ、そして聡明さは、どんな悪意にも屈しない。それを証明しろ」


レオンの言葉に、ソフィアの中で何かが弾ける音がした。追放され、孤独に苛まれてもなお、彼女の心には諦めることなく立ち上がる強さがあった。


「……分かりました」

ソフィアは真っ直ぐにレオンを見つめ、はっきりと頷いた。


「必ず、私の無実を証明してみせます。そして、私を陥れた者たちにその代償を払わせます」


レオンの口元がわずかに緩み、彼は満足げに頷いた。


「それでいい」



---


翌日――王宮大広間


ソフィアはレオンと共に、王宮の大広間へと足を踏み入れた。エリオット、王宮の重臣たち、そして彼女の父である侯爵もその場にいた。冷たい視線がソフィアに向けられるが、彼女は堂々とした姿勢を崩さない。


「ソフィア・ラティーナ、何のつもりだ?」

エリオットが苛立った声を上げる。


「私の無実を証明しに参りました。そして、あなたの罪を明らかにするために」


ソフィアはそう言い放ち、レオンが手にした証拠を重臣たちの前に差し出した。


「第二王子エリオットが王宮の機密を漏洩し、その罪を私に着せた証拠です。これが真実です」


重臣たちが騒然とする中、エリオットの顔が青ざめていく。


「馬鹿な……これは偽造だ!」

「偽造?ならば、この証言書をどう説明なさいます?」


レオンが静かに言い放つと、重臣たちの視線は一斉にエリオットへと向けられる。彼の側近たちの署名が、彼の悪事を裏付ける確固たる証拠となっていた。


「もう終わりですわね、殿下」

ソフィアが微笑みながらそう告げると、エリオットは崩れ落ちた。



---


新たな幕開け


その日の後、ソフィアの潔白は王国中に知れ渡り、エリオットは失脚した。侯爵家は彼女に対し頭を下げて謝罪したが、ソフィアは一言だけ告げた。


「もう遅いですわ」


そして――。


「お前はどうする、これから」

レオンが彼女に尋ねる。ソフィアは新たな強さを湛えた笑みで答えた。


「私にはもう、守るべきものも、後悔することもありません。自分の力で、私の未来を掴んでみせます」


レオンの口元に、珍しく満足げな笑みが浮かぶ。


「――それでいい」


二人の前に広がる新たな未来の幕が、ゆっくりと開かれようとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る