18.魔物に包囲された村
「わぁ、速い速い!」
「ふっ、私に掛かれば、どんな平原もひとっ走りよ!」
広い平原をレイが全速力で駆けていく。景色が一瞬で流れていき、強い風が吹き付ける。
町から出発して数時間。かなりの速さで移動したお陰で、遠い所までやってきた。これだけ速いと、目的地に着くのもあっという間だ。
「確か、村は平原の中にあるって言ってたよ」
「くんくん。うむ、人間の匂いがしてきた」
「本当? じゃあ、そっちに進んで」
「任せろ!」
指示をすると、レイは匂いがする方向に駆けて行った。しばらく駆けていくと、平原の色が変わる。あれは……畑だ!
その畑を通り過ぎると、その惨状が目に留まった。畑が踏み荒らされ、地面がボコボコになっていた。それが辺り一面広がっている。
「思ったより畑の状態が酷いね。これだと、作物がちゃんと育たない」
「ふむ、魔物の匂いが濃いな。どうやら、日常的に畑を荒らしに来ているみたいだ」
「そうなんだ。だったら、早く解決して上げないとね」
この状態だったら、きっと村人も困っているはずだ。とにかく、早く解決しないと。
「レイ、村に急いで」
「分かった。全速力で行く」
レイにお願いすると、速度が上昇する。村までもう少し。
◇
あれから、しばらくレイを走らせていると村に到着した。村人を怖がらせないようにレイを小さくして村に入ったが――。
「誰もいないね……」
家はポツポツとあるのに、外に人が歩いていなかった。不気味な程に静かで、本当に人が住んでいるのか疑わしくなってくる。
「私が吠えようか?」
「それだと怖がらせちゃうから、ダメ。村人に会えないんじゃ、自力で村長の家を探さないとね」
そのまま村を歩いていると、ふと視線を感じた。一体、どこから? そう思って周囲をキョロキョロと見渡していると、窓に子供の顔が浮かんでいた。
「わっ! も、もしかして視線ってあの子?」
その子供は私を見るなり驚いた顔をして引っ込んでしまった。どうしたんだろう? そう思っていると、その子がいた家の扉が開いた。その扉から一人の男性が飛び出してきた。
「こら、危ないぞ! 早く家に帰るんだ!」
その男性は怒りながら近づいてきた。どうして、そんなに怒るんだろう? 私が不思議に思っていると、その男性は話を続ける。
「まだ、魔物がうろついているかもしれないじゃないか。さぁ、早く家に……」
「ここに帰る家はないよ」
「えっ? そ、それはどういう……」
「私は他の町から来たの」
「他の町、だと?」
事実を伝えると、男性は信じられないと言った様子で驚いた。まぁ、こんなに小さい子が他の町から来たなんて、普通は信じられないよね。
だから、こういう時のために紹介状を貰ってきた。
「はい、これ」
「これは……冒険者ギルドからの紹介状?」
「この村を助けにやってきた冒険者だよ。村長の家を教えて」
◇
「おや、こんなに小さい子が我が村に来るなんて……」
村長は紹介状を見ながら、私の事を驚いた目で見てくる。
「疑って申し訳ないが……これは本物の紹介状かい?」
「うん、本物だよ。だって、ちゃんとした印章が押されているでしょ?」
「うぅむ、確かに。これは冒険者ギルドからの印章……。だったら、おぬしは冒険者ギルドから派遣された冒険者っていうことになるのぅ」
未だに信じられないといった様子で村長はヒゲを撫でた。
「見た目は小さくても、強い魔物を倒す力のある冒険者だよ!」
「うぅむ、紹介状にはそう書かれてあるが……こんなに小さな子が」
「だったら、私の力を見せるよ。レイ、大きくなって」
「うむ」
まだ疑う村長の前でレイは小さな体から大きな体に変化した。
「おぉ……こんなに大きな狼じゃったとは」
「それで、このレイを私が持ち上げる」
「そ、そんな事が可能なのか?」
「見てて!」
私は拳王を体に憑依させると、レイの腹に腕を入れた。そして、その体を軽々と持ち上げる。
「ほら、持ち上がったでしょ?」
「な、な、な、なんと!? こんなに大きな狼をいとも簡単に持ち上げたじゃと!?」
「こんな風に上に投げる事も出来るよ」
もっと証明するために、レイを軽々と上に投げる。
「何ーッ!? そ、そんなことまで出来るのか!?」
「ね、私って強いでしょ?」
「分かった、分かったから!」
どうやら、私が強いって分かってくれたらしい。私はレイを下ろし、改めて村長と向き合った。
「じゃあ、村を私が救っても大丈夫だっていうことね!」
「いやはや……疑って悪かった。お嬢ちゃんは小さくてもとても強いことが分かった」
「村の事を教えて」
そう言うと、村長は咳ばらいをして話し始めた。
「この地方には冒険者が少なくて、魔物たちの数が増える一方なんじゃ。そのせいで、村の周辺まで魔物が現れるようになった」
「冒険者が少ないって結構影響があるんだね」
「そうじゃな、影響力は強い。最近では畑仕事も出来ないほど、魔物が村の周辺に現れて困っているんじゃ」
ここでも、冒険者が少ない弊害が出ているみたい。普段は村から離れたところにいた魔物が近くまで来ているんだから、その数はとても多いのだろう。
「じゃあ、その魔物を間引けば良いって事ね」
「気を付けなさい。魔物が増えているという事は、団体になっている集合がいるはずじゃ。その集合と戦う時は命を大切にして戦うんじゃぞ」
「集団が多いってことね。じゃあ、その集団を沢山叩けば、この村は平和になるのね」
「そういうことじゃ。凄く大変な事じゃが……大丈夫か?」
村長が心配した顔で聞いてきた。それだけ数が多くて、私一人じゃ不安なのは分かる。だけど、そんな事じゃ私は引かない!
「任せて! 村の周辺にいる、集団を殲滅してくるから!」
そんな不安を吹き飛ばすように、自分の胸を叩いて自信満々に言った。この村は、私が守る!
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