11.町に到着
短い列に並び、自分の番を待つ。足元には小さくなったレイが辺りを警戒していた。すると、自分の番がやってきた。
「おや、こんなに小さい子が? 一人で来たのかい?」
門番の人が心配そうに声を掛けてきた。
「この子と一緒に来ました」
「こんな小さな子たちだけで……。さぞかし大変だったろう。だが、町に入れば安全だぞ」
「ありがとうございます」
「だが、規則なんだが……お金や証明書は持っているか? それがないと、町には入れないんだ」
「今、手持ちにこんな物しかありません。これで、大丈夫ですか?」
困った表情をした門番に遺跡で見つけた金貨を手渡した。
「こ、これは! 古いが確かにこの国で使われている金貨だ」
「じゃあ、これで中に入れますね」
「ちょ、ちょっと待っていなさい。お釣りを手渡すから」
すると、門番は慌てた様子で詰所に走って行った。しばらく待っていると、膨らんだ袋を持って現れた。
「この中にお釣りの銀貨や銅貨が入っている。これを持っていきなさい」
「こんなにいいんですか?」
「良いも何も、金貨を出したんだから当然の結果だ」
ずっしりと重い袋を受け取った。これがあれば、町の中で両替は必要なさそうだ。
「あぁ、それと通行証の代わりになるものがあれば町に入る時にお金を払わなくてもいいんだよ」
「そうなんですね。どんなものがあるんですか?」
「冒険者ギルドのギルド証や商業ギルドの商業証などがあるな。連れてきている狼がいれば、冒険者ギルドでテイマーとして登録できるだろう。それで登録しておけば、何かと便利だぞ」
「色々教えてくれてありがとうございます!」
門番に色々と教えてもらって得をしちゃった。私は深々とお辞儀をすると、門番と手を振って別れた。
大きな門を潜ると、ドキドキが増してきた。
「異世界の町、一体どんなところだろう……」
転生してからというもの、王宮から出たことはなく、外の世界は全く知らない。ここには前世で夢にまで見た異世界が広がっている。
期待を胸に門を潜ると――大きな通りに様々な人が行き交い、石造りの家々が並んでいた。まるで中世の時代に迷い込んだような光景に一瞬で心を奪われた。
「これが異世界の町! 凄い! まるで、映画の中にいるよう!」
辺りをキョロキョロと見渡して通りを進む。どれも、物珍しい物ばかりで目移りしてしまいそうだ。
「これが町か……。なんだかごちゃごちゃして歩きにくそうだな」
「そう? 賑やかでとてもいいと思うけど。これから、色んな町を渡り歩いて、色んな景色がみたいなぁ」
「それも楽しそうだな。くんくん、あっちからいい匂いがするぞ」
「えっ、どこ?」
「こっちだ!」
始めは不機嫌だったレイだけど、何かの匂いを嗅いで上機嫌に走って行った。私はその後を追って行くと、通りに露店が設置されていた。レイはその内の一つに突進していく。
「この匂い、美味しそうだ!」
露店の前に行くと、耐え切れないとばかりに何度もジャンプをした。さっきまであんなに落ち着いていたのに、急に子供みたいにはしゃぐなんて。レイは可愛いなぁ。
そんな事を思いながら、露店に近づいていった。すると、露店のおばちゃんが明るく声を掛けてくれる。
「やぁ、お嬢ちゃんたち。ウチの料理に興味があるのかい?」
「うん! どんなものを売っているの?」
「ウチは平べったく焼いた生地に野菜と肉とソースをかけて丸めたものを出しているよ。とても美味しいから買っていっておくれ」
どうやら、食べ物屋さんみたいだ。話を聞いただけでお腹がぐぅっと鳴りそうだ。
「ルナ、買ってくれ! 私は食べたい!」
すると、レイが目を輝かせて訴えかけてきた。おりこうにお座りをして、しっぽをパタパタと振っている。普段とは違う姿にすっかり癒されてしまった。
「おばちゃん、それを二つ頂戴」
「はいよ!」
もちろん、買うに決まっている。おばちゃんにそう話すと、てきぱきと調理をしてくれる。そして、あっという間に食べ物が出来た。
「ほら、これだよ」
「わぁ、美味しそう!」
食べ物を受け取り、支払いを済ませる。すると、レイが私の足に寄りかかってきた。
「早くくれ!」
「はいはい。どうぞ」
地面にそっと置くと、レイはその食べ物にがっついた。私も食べ物を持つと、それをひとかぶりする。
すると、シャキッとした野菜の感触がした。次にジューシーな肉を感じ、酸味と甘味の効いたソースの味が広がった。
「んっ、美味しい!」
「美味いな!」
「はははっ、喜んでくれて嬉しいねぇ」
どうやら、異世界の食事は美味しいものらしい。露店でこの味なら、お店にも期待出来るかも。
「ここは賑やかだし、食事も美味しいし、良いところだね!」
「そうかい? 隣の領の町の方が賑やかで、ここよりは人が多いよ。まぁ、ちょっと税金は高いけどね、人はみんなあっちに行ってしまうんだ」
「ふーん、そうなんだ。ここも良いところだと思うよ」
「ここが気にってくれたかい。私もここは気に入っているよ。なんてったって、領主の一族が良い人だからね。商売がしやすくて助かっているよ」
なるほど、この町の領主は良い人なのか。だったら、安心してこの場所にいられるかも。
「お嬢ちゃんみたいに小さな子なら、この町が合っていると思うよ。隣の領の町に比べれば、治安がいいからね」
「そうなんだ! だったら、しばらくはこの町に滞在するよ」
「その方が良いよ。隣の領の話を聞いても、あんまり鵜呑みにするんじゃないよ」
「うん、ありがとう!」
おばちゃんと会話を楽しむと、私達はその場を離れた。
「この町は良い町だ。食べ物が美味しい!」
「もう、レイはそればっかり。だけど、町の雰囲気もいいし、しばらくはここにいようかな」
「そうだな。町の食べ物を制覇しないとな」
隣の領の町の事は良く知らないけれど、私はこの町の雰囲気の方が肌に合っている感じだ。
「まずはどこに行く?」
「そうだなぁ……。門番さんが言ってたけど、冒険者ギルドに登録しに行こうか。今後、町の出入りが問題なく出来るように」
「うむ、それがいいな」
私達はまず冒険者ギルドに行く事になった。
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