7.放っておけない
女の子の優しさに包まれて、心が安らいだ。どうやら、捨てられたことが心に傷をつけていたみたいだ。今になって、ようやく自分の気持ちと向き合えた。
「一人で寂しくない?」
「寂しいけど……大丈夫! 私にはレイがいるし!」
「私がルナを守るぞ!」
「ほら、こう言ってくれているし大丈夫だよ!」
心配する女の子に私は明るく振る舞った。だけど、女の子の表情は優れない。
「それでも心配だよ。そうだ! ウチの子になればいいんだよ!」
「そ、そんな……迷惑だよ」
「そんな事ないよ! 私よりも小さい子を放っておけないよ! ね、ウチの子になろうよ!」
「う、うーん……」
流石に見ず知らずの家の子になるのは抵抗がある。だけど、女の子は本気のようで、目をキラキラと輝かせながらこっちを見てくる。
「そ、それよりもお母さんは大丈夫なの?」
「……あっ! ちょっと、様子見てきていい?」
「うん。私も少し挨拶しておかなくちゃ」
「じゃあ、一緒に来て!」
女の子に手を引かれてダイニングを出て、部屋の扉をノックした。
「お母さん、入るよ」
扉を開けるとベッドが二台置いてあり、その一台に女性が横たわっていた。女の子は静かに、母親の傍に近寄る。
「お母さん、大丈夫?」
「……大丈夫よ。もう少し寝れば、元気になるから……」
女の子が声を掛けると、その子の母親がか細い声で返事をした。とても弱弱しい姿で、見ていると胸が痛む。
「だけど、全然良くならないよ……。沢山寝たのに、どうして?」
「きっと、まだ寝たりないのよ。だから、もっと沢山寝ると元気になるわ……」
「……うん」
諭すような母親の言葉に女の子は悲しそうに俯いた。すると、母親の視線がこちらを向いた。
「その子はお友達? この子と仲良くしてくれて、ありがとう」
「いえ、こちらこそご馳走になって……」
「ふふっ、美味しかったでしょ? お腹はいっぱいになった?」
弱弱しいけれど、温かみのある言葉。その言葉に寂しさが滲んだ心が温かく包まれるようだ。
「何もおもてなしできなくてごめんなさい。この子と仲良くしてくれると、嬉しいわ……」
そう言って、母親は力なく目を閉じた。
「ごめんなさい……。もう少し、寝か……せて……」
「……お母さんっ」
母親が気絶するように寝ると、女の子が心配そうに顔を歪めた。その体を揺するが、母親は起きることはなかった。
女の子は悲し気に俯き、私の手を引いて、部屋を出て行った。だけど、部屋を出ると今度は女の子が動かなくなる。
「……大丈夫?」
「……大丈夫じゃない。お母さん、ずっと寝てばっかりで良くならない。だから、私が元気になる薬草を取りに行くんだ」
女の子は顔を上げて、決意を秘めた目をしていた。
「そんな、危ないよ。また魔物に襲われるかもしれないよ」
「だけど、お母さんを放ってほけない。私がやらなきゃ、私がお母さんを救うんだ!」
このままでは女の子が危険な森の中に入ってしまう。それで、もし何かがあったら……。最悪な結末を想像して、身震いをした。
そんなこと、絶対にさせない。
「ねぇ、私に任せて」
「えっ?」
「私には凄い力があるの。それを使えば、どうにかなるかも」
「そうなの?」
不思議そうにする女の子に私は強く頷いた。私はステータス画面を開き、英霊の項目を見た。
この中で今回役に立ちそうなのは……薬を作れる錬金術師だ。私は意識をして、錬金術師の英霊を体に宿した。
その瞬間、私の頭に知識と力が宿る。その知識を働かせて、考える。まず必要なのは、母親がどんな病気に犯されているか知る事だ。
「もう一度、部屋に入ってもいい?」
「……うん」
私達はもう一度部屋に入った。そこには、ピクリとも動かない母親の姿がある。その母親に向けて、私はある能力を使う。
鑑定。英霊に宿ったその力は、どんな物でも詳しく知る事が出来る力だ。その力を使って、私は母親を鑑定した。
私の頭に母親に関しての様々な情報が流れ込んでいる。この中で私が欲しい情報は……あった!
「……なるほど。あなたのお母さんは寄生虫に寄生されているみたい」
「えっ、そうなの!? 病気じゃないの!?」
「うん。その寄生虫は宿主の生命力を吸い取るみたい」
「じゃあ、お母さんは生命力を吸い取られているから、元気が出ないんだ。じゃあ、その寄生虫を退治すればいいんだね。その寄生虫はどこにいるの?」
問題はその寄生虫がどこにいるのかだ。寄生虫の居場所を鑑定してみると、居場所が分かった。
「どうやら、胃の中にいるみたい」
「い?」
「食べ物が入る場所だよ」
「えっ……。そんなのどうやって退治すればいいの?」
手の届かない所に寄生虫がいて、女の子は困惑した。だけど、大丈夫。それをどうにかする薬はある。
「薬を飲ませて、寄生虫を退治するしかないみたい。あと、減った生命力を増やす薬も必要だよ」
「そんなに薬が必要なんだ。どうしたら……」
「それも任せて。私が作ってあげる」
「えっ。でもレナは私よりも小さいよ? そんな事が出来るの?」
不安そうに訪ねてくるが、私は自信満々に頷いた。
「大丈夫。私には強い味方がいるから」
体に宿した錬金術師の英霊のお陰で、何をすればいいのか手に取るように分かる。あとは行動するのみだ。
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