4.森の宝(1)

「ここだ」


 レイの背の乗って移動した先にあったのは、古めかしい石造りの遺跡だ。


「ここに私の宝が眠っている」

「その宝を本当に私が貰ってもいいの?」

「もちろんだ。ルナは私の主になったのだからな」


 レイは森の王を倒したのだから、森の宝もルナのものだと言ったのだ。この先、何かと入用。少しでも売れるものを手にしたかった私は、その宝を貰うことにした。


「どんなお宝があるの?」

「うーん、分からん」

「えっ? レイのお宝じゃないの?」

「それが……。この遺跡には色んな罠があって、奥へは進めないんだ。だから、私は宝を一度も見たことがない」

「そ、そうなんだ……」


 その話を聞いて不安になった。本当にここにお宝が眠っているのだろうか?


 でも、見た感じ何かありそうな雰囲気はある。ここは度胸を示して、中に進もう。歩き出そうとした時――。


「ちょっと待て」


 その声に歩みを止めて、後ろを振り向くと、見上げるほどの大きかったレイの体が縮んでいった。そして、抱き上げられるほどの小さな子犬に変化した。


「あの姿では中に入れないからな。これだと、ルナについていける」

「か、可愛い!」


 その姿を見て、思わず例を抱きしめて、ぐりぐりと顔を擦りつける。もふもふの毛並み、小さな口、小さなしっぽ。どれをとっても可愛い!


「レイ、この姿いいね! ずっと、このままでいてよ!」

「ぬぅ……だが、威厳が……」

「威厳よりも可愛さだよ! さっ、先に進もう!」


 私はレイを抱きかかえながら、遺跡の中に入っていた。中は薄暗く、ジメジメとして空気が悪い。


「気を付けろ、罠が出てくるぞ」


 ……罠。そうだ、冒険者の英霊を体に宿せば、罠の場所も分かるのでは?


 意識をして、冒険者の英霊を呼び出すと、自分の体に憑依した。なんだ、一々ステータスを開かなくても憑依出来るんだ。この方法が早いから、今後はそれでやっていこう。


 周囲を見渡しながら、どんどん奥へと進んでいく。


「……おかしい。もう罠が発動しても良い頃なのに」

「罠? それだったら、私が回避しているから作動しないよ」

「そ、そんな……馬鹿な! 一歩踏み出すごとに、矢が飛び、槍が落ち、火が吹いていたんだぞ!」

「大丈夫! 全部、把握済みだよ」

「そんな馬鹿な!」


 腕の中でレイが挙動不審になって辺りを見渡す。だけど、罠が作動するどころか、静寂に包まれている。


「ほ、ほう……。この辺は罠がないということだな。だったら、私でもいけるだろう」


 すると、レイはひょいと腕から飛び降りた。


「あっ、そこは」


 と、言った瞬間――カチッという音がして、上から数本の槍が降ってきた。


「ギャンッ!」


 それに気づいたレイは慌てて私の腕に戻ってきた。


「もう、そこに罠があるっていいたかったのに……」

「こ、こんなに簡単に罠が出てくるのか! だが、ルナは全然平気だぞ!」

「だって、罠がある場所分かるもん」

「ほ、本当だったのか……。流石は主、凄いな!」


 レイは目を輝かさせて、しっぽを振った。そんな目で見つめられるのは……とてもいい気分。思わず得意げになる。


「とにかく、レイは私の腕の中に居てね。そしたら、罠を踏まないから」

「あぁ、分かった! これで、奥にどんな宝が眠っているか分かるのだな。ドキドキしてきたぞ」


 レイは上機嫌にしっぽを振って、先を見つめた。私は罠を軽々と乗り越えて、どんどん奥へと進んでいく。


 ◇


「えーっと……これだ。えい」


 壁に隠れていたスイッチを押すと、振動が響き、壁が動き出す。離れて見ていると、壁がなくなり、その奥に大きな広間が見えてきた。


「おぉっ! 凄い! 隠し部屋か!」


 そんな光景を見て、レイは嬉しそうにはしゃいでいた。その気持ち、分かる。私もワクワクして止まらない。


 中に入り、奥を見て見ると――台座の上に金色に輝く物がいっぱいあるのが見えた。もしかして、あれが宝!?


 見に行こうと、一歩踏み出した時――。


「ルナ、危ない!」


 腕の中のレイが飛び出して、急に大きくなった。すると、レイの体が突然爆発する。


「うっ!」

「レイ、大丈夫!?」

「だ、大丈夫だ。そんなことより、インビジブルがいる!」

「インビジブル?」

「透明化の出来る魔物だ!」


 この広間に魔物がいる。その言葉に私は警戒をした。すると、微かに鳴き声みたいなものは聞こえてくる。だけど、姿は全く見えない。


 こんな時は――拳王だ。私は冒険者の憑依を解き、次に拳王の英霊を体に宿した。その瞬間、まがまがしい気配がこの広間にいるのが分かった。


「レイ、魔物の気配を感じたよ」

「姿が見えないんじゃ、どう攻撃したら……」

「大丈夫。私に任せて」


 戸惑うレイの前に立つと、意識を集中する。そして、広間の気配を察知する。すると、まがまがしい気配が昼間を走っているのが分かった。


 どうやら、どこにいるか攪乱させるために移動しているみたいだ。だけど、そんなものは何の脅威にもならない。だって、もう姿を捉えてているから。


「そこっ!」


 地面を蹴り上げ、一瞬で距離を詰める。何もない場所に拳を突き出すと――。


「グエェッ!」


 肉の感触がして、その体が一瞬で破壊される。すると、インビジブルは力なく地面に落ち、痙攣した後に動かなくなった。


「よし、敵撃破!」

「す、凄いな! 見えないのに、良く分かったな!」

「拳王に掛かれば、こんなものだよ!」

「流石は主!」


 称賛を受けて、気分よくしていた時――また気配を感じた。


「誰!?」


 その気配がした方向を見て見ると、青白い光に包まれた人間が立っていた。いや、人間じゃない。足がなかった。それでも、それは立っている。


 この気配……私には分かる。


「もしかして、霊?」


 死霊術師だからこそ、この気配は分かる。あれは、霊だ。


「むっ、私か?」

「いや、そのレイじゃない。人間の魂がそこにある」

「人間の魂? どこにいる?」


 レイがキョロキョロと見渡す。だけど、良く分かっていないみたいだ。どうやら、死霊術師にしか見えないらしい。


 すると、その霊が顔を上げて、こちらにゆっくり近づいてきた。


「何の用っ!?」


 思わず構えると――。


『ありがとうございました!』


 その霊が嬉しそうな顔をして、頭を下げてきた。えっと、これは一体?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る